南総里見八犬伝を読み、僕自身が物語の世界に酔い痴れる時、僕はBGMとして必ず聴く曲があります。それはあの喜多郎の最高傑作「古事記」です。僕は八犬伝を読む時、このCDを幾度聴いたか忘れました。そして、いつも優しい純日本的なシンセの調べは、僕に麗しき歴史浪漫を一杯与えてくれました。ちょうど古事記の天地創造から天照大神が天岩戸から出て来る迄を総て楽器のみで表現されたこの作品こそ“日本史少年”だった僕の最高のBGMでした。 このアルバムでの最高の1曲.....。それは「Nageki」と言う曲です(解説は総て英語)。そう、スサノオの乱暴を憂え、天照大神が天岩戸に隠れてしまい、世界に暗闇が訪れる場面の曲です。僕はこの短調の悲しい笛の調べを聴く度に毛野の孤独、無念、そして涙を堪える毛野を想い、涙が止め処なく零れます。また読後、独りで夕闇の相模湾や芦ノ湖に出かけ、この曲の悲しい調べと共に涙を零す....。嗚呼僕は、八犬士の毛野に涙を零せる人間で本当に良かったと、この曲を聴きながら幾度想ったことだろう....。
そう、毛野に出逢って幾星霜の僕はこの曲に導かれ、毛野の時代の相模の国にタイムスリップしたいと“心から想う”少年でした。嗚呼、特に孤独な、そして、身近に相模の自然が溢れるこの少年にとっては.....。これ程この曲は、日本の歴史浪漫、特に八犬伝を愛するひとの心の琴線に触れる名曲なのです。だから、総ての八犬伝ファンは、一度この喜多郎の「古事記」に酔い痴れて、そして“Nageki”に、一杯、涙を零して欲しい...。そう、孤独な毛野を想いながら。勿論、貴方の好きな八犬士を想いながら。
八犬伝(4)