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カテゴリ:これがJAZZピアニストへのプロローグ☆
僕のエチュードをやっと“完成した”思春期のある日、僕は楽譜通りに弾くという事に息苦しさを感じて来ました。勿論ショパンは好きな事には変わらないのだけれども、それでも一度自由に心の奥底から流れるメロディーに指を委ねたい、鍵盤を触りたいと、心から想うように成りました。
然し飽く迄もクラシックは楽譜通りの演奏が要求されます。また、ひとつの名曲、例えばベートーヴェンの熱情ソナタでも、やはり完全に仕上げなければ人前で演奏する事など考えられません。そう、クラシックはまるで「全か無かの法則」に縛られているようです。だから僕が完璧な作品として“発表”するためには、かなりの労力と時間を要しました。そして、クラシックに於いて「個性的な演奏」が許されるのは、恐らく世界的に活躍されているピアニストのみであると僕は思います。だから、メロディーの流れを把握し、総ての音符や休符を捉え、そして尚且つ作曲家が望んだであろう速度で弾けなければ、また多くの観客の誰でも認める熱情ソナタに成っていなければ、決して芸術とは呼べないばかりか、真の意味で弾けるとは言えない筈です。またそこ迄の道のりを想うととても気の遠く成る想いがしました。 「嗚呼“楽譜通り”では無く、一回でも気侭に、そして自由に弾きたい!」 そう、決してそれは暗譜という受身の演奏ではない、己の内面から湧き上がって来るメロディーを、書き写す事無くその場で鍵盤で叫ぶ事!でも、それは何か、またどういうものかが分からず、またいつものように、いつもの潮の香りが心地よい海岸で青い海、広い空を見ながら、僕はずーっと独り悩んでいました。規則正しい、そして時にテトラにぶつかって変わった音を出す波の音を聞き乍ら.....。「嗚呼、何だか眠くなって来たなあ」って、少し思って。 また、この時、何故か波の音が“少し揺れる”ような感じがしました。 でも何故か僕はこの波の音の揺れがとても心地良く、しばしば釣りに通うたびに更に波の音に耳を澄まし、そして波の音の様な弾き方はないのかと、幼き日の僕は心から想うように成りました。午後の心地良い日差しに微睡み乍ら。 そんなある日、僕は当時聞いていたFM放送から、生まれて初めて聞く、何とも心地よい揺れを感じました。そう、これぞSWINGです!またこの地元の海で味わった心地良さに通じるものを感じ、急いで録音しました。そして、曲名も分からない、後にスウィングジャズと呼ばれる曲を何曲も“耳コピー”し、それが妙に楽しい感じの音楽ばかりなので、僕はスグに鍵盤に向かい、耳に残る揺れを鍵盤で再現するため、何度も何度も“試み”ました。またあの独特の甘いメロディを録音に少し遅れて鍵盤で再現しようと試みました。 そう、この揺れを再現する試みや、また録音に少し遅れて弾く試みが、楽譜の沼に嵌って身動きが取れなく成った少年を、一気に晴れ渡る空に続く草原へと連れ出してくれたのです!またどこかアメリカの大草原を思わせる、大らかなメロディーは、この少年に多くの“夢”を与えてくれました。きっと誰しも未だ見ぬ国を心に想い浮かべるのは楽しい筈です。だからあの日の僕は、気が済む迄、そして疲れ果てて寝てしまう迄、いつまでもずっとこれを繰り返しました。また、微睡んでいる時にいつも見た夢。それは“潮の香りがする大草原”という、何とも不思議なお伽の世界で僕が鍵盤を弾いているという夢......。 そのとても言葉で言い表わす事の出来ぬ歓喜を味わった僕は、ある日学校の勉強を無視し、僕が耳コピーした曲のCD、そして楽譜を探し出しました。 然し僕はまず今迄の様にまず“揺れに酔いしれる”事から始めました。そう、楽譜を音にする作業から開始したならば、恐らく心地よい揺れが死んでしまうと考えたのでしょう。だから独りでJAZZという漠然としたものに立ち向かったこの少年は、まずJAZZという海に浮かび、そして波の音のような揺れを身体に沁み込ませました。「これって、あの日みたいだなあ」そう想うと、あの日見た地元の景色、また「潮の香りがする大地」という夢が白昼夢となって次から次へと浮かんで来ました。そしてある一瞬、「そうか4分音符をずらせばいいんだ」という事に、気付き未だ訳の解らぬJAZZの教本で確認して、さらに歓喜して4分音符をずらして感じる快感に暫く酔い痴れていました....。また一般的にJAZZは4ビートなのですが、僕は正に勝手に4分音符に付点を付けたり、8分音符に分割し、また8分休符を入れ、生まれて初めて楽譜に書いてある音符を自分でずらす喜びを感じ、そして鍵盤で再現し喜んでいました。 そして、シンコペーションという、後ろの拍が前の拍に吸収される“裏技”は更に「閉塞的状況に陥っていた僕」を更にスウィングの道へと誘いました。 また、通常の4ビートは、 ワン、ツー、スリー、フォーとなるのですが、 これを、ツーでシンコペーションするだけでこうなります! ワ(♪)、ツ(♪)ーーーー(以下、付点2分音符分で伸ばす)! そう、まずワンとツーを8分音符(半分)にし、そしてシンコペーション!そうすると、スリーが前に吸収されて、ツーが延々と伸びるんです!またこれは、僕自身に“何とも言えぬ心地良さ”を与えました。 以上のように僕は鍵盤上で、常に“試みる事”を繰り返し、 そして、今までのただ暗譜だけの受身の練習だけではない、 全く新しい世界がスウィングする度に開けて来たのです! そして、このスウィングジャズに目覚めたこの少年は、 その後、多くのJAZZに出会いました。 然し、この少年を一番“夢心地”にさせたのは、 マイルス・デイヴィスの名曲「マイ・ファニー・ヴァレンタイン」でしょう。 このとてもゆったりとした、静寂の中に染み渡るようなトランペットは、 未だ知る筈もない“大人の世界”を、僕は心の中の映画館で観れました...。 またあの彼のトランペットが、僕にセッションという新たな夢を与えました。 嗚呼、ヴォーカルやトランペット、それにベースと共演したい! だから思春期真っ只中の僕は、楽器の出来る友達を心から求めました。 僕のピアノと会話して欲しい....。 孤独な少年の、“唯一の声”であるピアノの音色で会話したい! そして、その切なる願いが、更に僕をJAZZの道へと引き込みました。 そう、JAZZは本来ソロでは無く“トリオ”等で演奏されるべきものです。 だからクラシックピアノの孤独が辛かった僕は、 楽器の出来る友達、ヴォーカルの出来る友達を必死で求めました。 総てはセッションのために、僕の持つ心の声で会話するために.....。 そして、僕が憧れのピアニスト、 “白き貴公子”ビル・エヴァンスに近づくために......。 今、クラシックピアノに於いて苦しんでいる貴方へ。 どうか、一度スウィングに酔い痴れて下さい! 聴き入って、そして、鍵盤に再現する事を大いに愉しんで下さい! そうすれば、きっと、ピアノが貴方の“心の声”に成ります! また、スウィングの海に浮かんで酔い痴れて、夢心地に成って下さい! そう、あの日の、孤独な少年ように......。 一杯、一杯、試みて下さい......。 海辺が夕闇に包まれる迄......。 「試みる事、それが総てだ」 彫刻家ALBERT GIACOMETTI お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2005.08.09 10:32:47
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