構音訓練
“構音障害”とは、我々言語聴覚士(ST)の訓練対象となる一分野です。その定義は、「話し手が所属している言語社会の音韻体系の中で、話し手の年齢から見て正常とされている語音とは異なった語音を産生し、習慣化している場合に構音障害という」とされています。これだけでは漠然としていますが、要するに、何らかの原因により(または原因不明ですが)先天的、または後天的に不自然な(聞き取りづらい)発音(以下、構音)となった状態のことを指します。今日は午前中言葉の教室のI先生(talpedagog:タールペダゴグ)の訓練を見学しました。子どもは、簡単な音から徐々に難しい音を獲得していきます(教科書的には・・・母音は3歳頃完成→マ・パ行など→タ・カ行など→サ行など→ラ行など。但し、個人差が大きい)。その過程で何らかの音の誤りが生じても、多くは成長するにつれ正しく修正することができますが、一部にはそれが困難な子どもも出てきます。I先生が学校現場で主に関わっているのは、構音を獲得していく過程で原因は特定できないけれど問題が生じている、機能性構音障害(疑いも含む)と言われる子ども達です。今日は6,7歳児5人の訓練に同席した。5人のうち1人は既に正しい構音を習得しており、今日で卒業という子でしたが、他の4人は各々固有の構音しづらい音(歪み・置換)を抱えています。そのうちの1人Hちゃんには、カ行→タ行に、ガ行→ダ行に音が置換するという問題があります。8月に就学前クラスに入学した彼女に対する訓練はまだ始まったばかりですが、今日の内容は以下のようなものでした。基本的には日本の考え方と大きな違いはないと思われますが、大変興味深かったのでざっと紹介したいと思います。1)構音射的:絵に沿ってgå,gå・・・(gå:ゴー=歩く)と言いながら道を進み、射的の絵があったところで立ち止まり、k k (クッ クッ)と音を放つ。この繰り返しでゴールを目指す。2)動物鳴き真似(鳥、蛙):絵を見ながら鳴き真似をする・・・ka-ka(カーカー),ko-ko(クークー),koack(コアック)3)〔kl〕の無意味音節の復唱:〔kl〕+母音(全部で9母音)4)〔kl〕が語頭に来る語の復唱:例)klubba(クルッバ:ぺろぺろキャンディー)5)〔kl〕が語頭に来る語のゲーム:サイコロを振り、出た目の語を呼称、同じ目が出た場合、3 回までは得点となるが、それ以降は無得点。セラピストと子どもで競い合う。6)5)の絵を使って文レベルの復唱7)絵を見ながら単音→単語作り:例)ピストル〔k(ク)〕+魚〔o(オゥ)〕=牛〔ko(コゥ)〕Hちゃんには構音以外の発達上の問題はありません。前回の訓練時、スウェーデン語のアルファベット全28音が入ったカードで構音チェックをしたところ、〔k〕の正しい構音が語頭・語中・語尾どの位置でも困難でしたが、語頭の〔kl〕は比較的きれいな構音ができていたため、このプログラムにしたとのことです。I先生もこの音の組み合わせでうまくいくか半信半疑でしたが、今日の訓練では、語頭の〔kl〕の置換・歪みは目立たちませんでした。随分上手に言えていたとのフィードバックを受けてHちゃんも嬉しそうでした。I先生は、「小さい子どもが相手なので、できるだけ遊びの要素を取り入れながら、退屈させないようなプログラム作りを行っている。但しバリエーションをつけるのが難しいけどね。」と笑いながら話して下さいました。また、「今日の5人はたまたま全員が前向きでモチベーションが高かったが、中にはやりたくない、という子もいる」ともおっしゃっていました。日本でも全く同様のことがいえますが、子どもの場合は特に、遊びをふんだんに取り入れ、楽しみつつ自然と能動的に課題に取り組むことができるようなプログラムを立てていくこと、そして、一つの目的音に対し複数の課題を用意することが課題への集中につながるということを教わりました。また、学校という場所の中に先生が出向いていく形式を取っているため、子どもが安心して先生の下に来ることができるよう環境調整も大切であると感じました。子どもの訓練を見ていると、大人の訓練にも還元できることが多くあり、これまでの自分の訓練を反省ばかりになるが改めて省みることができた、大変勉強になったひと時でした。○今日の言葉:“AS”・・・アース。上とは全く関係がないのですが、最近若者がよく使っているスラングです。本来の意味は「動物の死骸」ですが、それが「とても」、という意味として使われるようになったそうです。ちなみに、昨日L小学校5年生の引率で(引率させてもらったのですが)Universeumという自然博物館に行きましたが、ここでも子ども達が“As kul!(very fun!)”などと叫んでいるのを耳にしました。日本語に訳すと、“超楽しい!”でいいのかな。