荷葉かようの香りでございます。
ご懐妊あそばされた
漢籍に詳しい藤式部
高者未必賢 下者未必愚 澗底松
高者未だ必ずしも賢ならず、下者未だ必ずしも愚ならず
新楽府 白居易という詩人が民の声を代弁し為政者のあるべき姿を示した漢詩
帝のお好きな書物と存じます
亡き皇后さまは漢籍がお得意だったのであろう
私も密かに学んで帝を驚かせ申し上げたい
不獨善戦乗時
以心感人人心歸 七徳舞
獨(ひと)り善く戦ひ 善く時に乗ずるのみならず、
心を以て人を感ぜしめて 人心歸(き)す
太宗皇帝はただ、戦いや時運に乗ずるのが上手かっただけではなく
まごころを尽くして人を感動させたので、人心はおのずから帰服したのである
政の頂きにあるものが人々の心を真につかむのは、
並大抵のことではございませぬ
敦康親王 東宮
花山院・冷泉天皇第一皇子 亡くなる 三条天皇 冷泉天皇第二皇子
道綱は東宮大夫
親王さまだけが私のそばにいて下さいました
子が産まれても親王さまのお心を裏切るようなことは、決してございませぬ
篝火
藤式部の物語の力が帝のお心を変え、中宮様を変えたのだと殿から聞いておる
母として私は何もしてやれなかったが、そなたが中宮様を救ってくれた
自分の家のように過ごしておくれ
人心好悪苦不常
好生毛羽悪生瘡 大行路
人の心の好悪 苦(はなは)だ常ならず、
好めば毛羽(もうう)を生じ 悪(にく)めば瘡(そう・きず)を生ず
人の心の好き嫌いの心は、甚だ変わりやすいもの。
好きとなれば、羽根が生え、飛ぶほどに持ち上げ大事にするが、
嫌いとなると、傷ばかり探し出す
傷とは大切な宝なのでございますよ 傷こそ人をその人たらしめるものにございますれば
道長の子供たち
私の大切なご指南役ですよ
左大臣様と藤式部は、どういう間柄なんでございましょう
ききょう 媄子内親王亡くなる 竹三条の宮 脩子内親王様にお仕え
藤式部 それはどういう女房でございますか
その物語を私も読みとうございます
中宮さまご出産を記録する
漢文による公式記録をつけるのが通例
中宮様のそばにいて、中宮様のお心をよく分かっているお前にも書いてもらいたい
中宮様の晴れの場、後に続く娘たちにも役立つように残したいのだ
母上に心配はかけたくない そなたがおれば良い
菊の花と綿
物の怪どもを寄坐よりましに駆り移そうと限りなく大声で祈り立てている
御帳の東面は、内裏の女房参り集ひてさぶらふ。西には、御もののけ移りたる人びと、御屏風一よろひを引きつぼね、局口には几帳を立てつつ、験者あづかりあづかりののしりゐたり。南には、やむごとなき僧正、僧都、重りゐて、不動尊の生きたまへるかたちをも呼び出で現はしつべう、頼みみ恨みみ、声みな涸れわたりにたる、いといみじう聞こゆ。
頂きにはうちまきを雪のやうに降りかかり、おししぼみたる衣のいかに見苦しかりけむと、後にぞをかしき。
邪気払いの米
皇子さまにございます
私の今日は藤式部の導きによるものです
めづらしき光さしそふさかづきは もちながらこそ千代もめぐらめ
中宮様という月の光に皇子様という新しき光が加わった盃は
今宵の望月の素晴らしさそのままに千代も巡り続けるでありましょう
良い歌だ 覚えておこう
この世をば 我が世とぞ思ふ 望月の 欠けたることも 無しと思へば
殿の言いなりにはなりませぬ 明子
青い衣の彰子 敦成親王 五十日の儀
若紫はおいでかな 公任
左衛門督、「あなかしこ、このわたりに若紫やさぶらふ」と、うかがひたまふ。源氏に似るべき人も見えたまはぬに、かの上はまいていかでものしたまはむと、聞きゐたり。
歌を詠め
いかにいかがかぞへやるべき八千歳の あまり久しき君が御代をば
いかにして数えましょう 八千歳あまりも久しく続く若君の御代を
あしたづのよはひしあらば君が代の 千歳の数もはぞへとりてん
千年の鶴の齢さえあるならば 若君の千年の歳も数えとろう
これからも、長く、一緒に時を過ごせますように
「和歌一つ仕うまつれ。さらば許さむ」と、のたまはす。いとわびしく恐ろしければ聞こゆ。
いかにいかがかぞへやるべき八千歳の あまり久しき君が御代をば
「あはれ、仕うまつれるかな」
と、二たびばかり誦ぜさせたまひて、いと疾うのたまはせたる、
あしたづの齢しあらば君が代の 千歳の数もかぞへとりてむ
さばかり酔ひたまへる御心地にも、おぼしけることのさまなれば、いとあはれにことわりなり。げにかくもてはやしきこえたまふにこそは、よろづのかざりもまさらせたまふめれ。千代もあくまじき御ゆくすゑの、数ならぬ心地にだに思ひ続けらる。
「宮の御前、聞こしめすや。仕うまつれり」と、われぼめしたまひて、
「宮の御父にてまろ悪ろからず、まろがむすめにて宮悪ろくおはしまさず。母もまた幸ひありと思ひて、笑ひたまふめり。良い夫は持たりかし、と思ひたんめり」と、たはぶれきこえたまふも、こよなき御酔ひのまぎれなりと見ゆ。さることもなければ、騒がしき心地はしながらめでたくのみ聞きゐさせたまふ。殿の上、聞きにくしとおぼすにや、渡らせたまひぬるけしきなれば、
「送りせずとて、母恨みたまはむものぞ」とて、急ぎて御帳の内を通らせたまふ。
「宮なめしとおぼすらむ。親のあればこそ子もかしこけれ」と、うちつぶやきたまふを、人びと笑ひきこゆ。
阿吽の呼吸で歌を交わせるなんて
左大臣様とあなたはどういうお仲なの?
三十三帖
「源氏物語で恋愛セミナーの日記」