書道のはな*みち　キレイな字が書けると人生はもっと美しくなる

学生時代からずっと好きな彼がいる。

カッコよくて、頭が良くて、スポーツマン。
でも、ちょっとやんちゃで、
優しくて、ものすごく照れ屋。

クラスメイトが遅刻してきても、
時計がズレてるんだよ、と言うような彼だった。

ご多分にもれず、彼はすごくモテた。
その誰とも彼は付き合わなかったが、
私はとても告白なんてできなかった。

ただ友達でいるのが精一杯。
だからこそ、年賀状を書くことだけが、
唯一のアピールだった。

今年もよろしくね

ありふれた言葉の裏に、
ありったけの想いを込めて。

年賀状を出して、三年目のある寒い日。

彼から、
「夜、走っているから見に来ない？」

そう誘われた。

私は、はやる気持ちを押さえ、
努めて友達らしく、
「うん、行く！」と返事した。

真夜中の芝浦ふ頭。
彼はひたすら走っていた。

明け方、朝陽がすっぽり夜の闇を包むまで、
彼はひたすら走っていた。

私はただ、彼を見ていた。
こんなに遠慮なく、彼を見ていられる時間が、
果てしなく幸せだった。

走り終わると、
彼は私のところに来て、ありがとうと言い、
一度振り返って、

おまえって、字、綺麗なのな。

そう言って、じゃあと走り去った。

私は二度目の恋に落ちた。



自動車電話が出来て、
携帯電話のアンテナを立てて話す姿が
トレンディーな頃になっても、
私はまだポケベルを大事に持っていた。

照れ屋な彼は、電話なんてかけてこない。
その代わり、週末の夜、ポケベルが鳴る。

8464 3296 ハシルヨ ミニクル
194 イクヨ

39 サンキュー

サンキュー……。

この39が、もし、スキ、だったら。

今夜も芝浦ふ頭に行く。

彼の後ろ姿を見ながら、
この時間を失うのが怖くて、
やっぱり好きだなんて、とても言えない。

でも。

「ちゃんと、見てろよ。」

そう言う彼に、
私はまた恋に落ちる。

彼となら、そう、何度でも。

※このお話は半分くらいフィクションです。