医療と幸福「人はどこまで生きれば幸せか」
為末氏がスポーツ親善大使を務めているブータンは幸せの国と名高い。国民の多くが自分は幸せであると答える国の平均寿命は67.89歳(2012年 the world bank)と日本の平均寿命を15歳ほど下回る。日本ほど医療が発達していないブータンは、自宅で臨終を迎える人が圧倒的に多いという。
「幸福と、いつまで生きるのかという問題は、タブーに近い議論かもしれないが関係があるのではないか」また「自分の人生で、何ができていれば幸せで、何ができなくなると幸せでなくなるのか。幸福度を高めるために医療はどのような貢献ができるのか」と参加者に問いかけた。
為末氏が好きな話に、次のようなものがある。「(糖尿病患者にとっての敵である)おはぎを1日1個食べる幸せ、おはぎを1週間に1個と我慢して健康的に生きていく幸せ、この両者の境目に予防医療はあるのかもしれない」。自分の欲求をある程度抑えつつ、その中でバランスをとり医療の力をうまく借りながら幸福を維持していくことが大事だと為末氏は語る。
医療技術の発展とともに人間の寿命は驚くべき伸張を遂げた。かつて不治の病と呼ばれた病気も治るようになり、医療は人々の幸福を高めることに貢献してきたと言えるだろう。しかし、その一方で先進国は長く生きることが幸せなのかどうかというセンシティブな問題を考える局面に差し掛かっている。医療は基本的に寿命をのばす方向に発展する一方で、倫理的な問題も含めて考えていかないといけない時代がくる。高齢化が進む日本こそ、先陣切ってこうした問題に取り組むべきかもしれない。
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