「ROE(自己資本利益率)」の役に立たなさについて、すでに2回書いた。
ROEは役立たず
ROEは役立たず(その2)
しかし、「ROE」の役に立たなさ加減というのは、とても1回や2回では書ききれない。と思っていたところ、
拙ブログのアクセス数からも、結構興味を持って読んでいただいているようなので、
今回は、またまた別の角度から、”ROEは役立たず”の第3弾。
1.株主の期待に応える
よく、”株主の期待に応える経営”というようなフレーズを聞く。
また、株主の側からも、せっかくその会社に投資したのだから、期待に応えて欲しい思うだろう。
で、”株主の期待に応える”を見るための代表的な指標として、ROEが取り上げられることも多い。
”ROE”が高い = 株主の期待に応えている
”ROE”が低い = 株主の期待に応えていない
という様な風に。
最近の日経新聞の”ROEキャンペーン”でもそんな調子。
でも、リアル零細個人株主の私に言わせると、
”ROE”が高い = 株主の期待に応えている というのは、ちょっとピントはずれ。
ことに、”株主の期待に応えている”かどうかを測る代表的な指標として”ROE”を用いる、なんていうのは的外れもいいとこ、お話にならない。
そもそも、”株主の期待に応える”って、どういうことか。
これは、ざっくり言うと、”株主が出したお金に見合う成果が出ている”ってことだろうと思う。
後段の”成果”は、まあ、利益を上げたとか、配当を出したとか、または、将来の利益や配当につながる投資がなされているといったところだろう。
じゃあ、前段の、”株主の出したお金”とは何か。これは、3つぐらいの見方があると思う。
2.株主の出したお金
”株主の出したお金”とは何か。
「実際の出資額」、「簿価の自己資本」、「株式市場での評価」と、大きく3種類の観点があると思う。
2-1.「実際の出資額」の観点から
考え方としてはシンプル。
実際のお金の流れに着目し、出資者が会社に払い込んだお金を基本に考える方式。
例えば、昔の経営者が、「うちの会社は4割配当だ。」とか、「ついに8割配当まで増配。十分に株主に報いている。」とか言っていたようなのが、この観点。(ちなみに4割だの8割だのは、(今は無き)株式の額面(=出資者の出資額)に対しての割合。)
非上場の会社なんかでは、今もこんな感じではないかと思う。
「株主に実際に出してもらったお金の分は、しっかり還元しますよ。」的な、牧歌的だけど、ある意味誠実に思えるもの。
ただし、上場会社の(零細)株主の立場からは、的外れな見方。元々の出資者の出資額と現在の株価とは乖離しているので、あまり意味をなさない。
2-2.「簿価の自己資本」の観点から
こちらは、やや便宜的だけれども、
「簿価の自己資本」を株主から預かったお金とみなして、それを基本に考える方式。
で、利益面で考えると、”ROE(自己資本利益率)”という指標が、
配当面で考えると、”DOE(自己資本配当率)”という指標が、登場する。後者はあまり見かけないけども。
会社の経営という立場からは、1つの目安とはなるだろう。
「簿価の自己資本」に対して、どれだけ利益を上げていくかとか配当するかとか。
ちょっと脱線するが、会社の経営からは1つの目安と書いたけど、
私としては、
会社の中期目標などを考えるときに、ROEは、今の「簿価の自己資本」に対してふさわしい利益水準等を設定するぐらいの活用に留めて、「将来のROE」を直接的な目標とはして欲しくない。なぜなら、ROEを高める安易な手法である”自社株買い”が中長期の株主の利益を損なう可能性があるから。
なお、上場会社の(零細)株主の立場からは、「簿価の自己資本」を基本に考えるのは的外れな見方と思う。「簿価の自己資本」と現在の株価とは乖離しているので、あまり意味をなさない。
そのため、配当面で、”DOE(自己資本配当率)”を参照している投資家は多くない。が、なぜか、”ROE(自己資本利益率)”は、神通力があると思っている投資家も多い。
2-3.「株式市場での評価」の観点から
こちらは、株式市場での評価をもとに、時価総額に見合う成果を会社に求める、シンプルな考え方。
経営者にとっては、株価のことなどコントロールできないと思うかもしれないが、
株式市場で、ある評価をされたなら、その評価に見合う成果を出してこそ、”株主の期待に応える”ことになる。
株式市場での評価に見合うだけの成果が出せなければ、株主にとっては”期待はずれ”。やがて株価は下がるだろう。
上場企業の(零細)株主としては、断固としてこの立場。
指標としては、利益面は、”PER(株価収益率)または”株式益回り”、
配当面は、”配当利回り”。
(会社の成長力などを加味して、将来の利益や配当の水準を想像してみることも必要)
で、想像しうる会社の将来像に対し、既に株価が高くなりすぎている会社は、株式市場での評価を裏切る可能性が高く、投資対象とはしづらい。
逆に、想像しうる会社の将来像に対し、株価が安い会社は、株式市場での評価に応えることが容易。
後は、個々の投資家の想像力しだい。
3.「簿価の自己資本」と「時価総額」をつなぐもの
2-2.の「簿価の自己資本」と2-3.の「時価総額」をつなぐ会計上の概念がある。
「のれん」という概念で、会社のノウハウとか、ブランド力だとか形はないけれども、たしかに会社の価値の一部を構成すると見なされるもの。
普通に会社を経営している間は、自社で築いた「のれん」が資産計上されることはない(というのが今の会計のルールだ)が、
ひとたび会社が買収されるとなると、買収金額と「簿価の自己資本」の差額が「のれん」として認識され、資産計上されることとなる。しかも、米国会計基準や国際会計基準では、「のれん」の償却は不要とされており、毀損されないかぎりずっと資産として扱われる(日本基準では減価償却が必要)。
なので、例えば、
A会社 資産100億円、自己資本20億円、純利益5億円、時価総額50億円、ROE25%という会社があったとする。
この会社が(時価総額の50億円で)買収される際には、”のれん”の30億円(時価総額50億円-自己資本20億円)が認識されるので、
A会社 資産130億円、自己資本50億円、純利益5億円、時価総額50億円、ROE10%
の会社として買収されることになる。
株式市場に身をさらして評価を受けているというのは、それと同じこと。会社には時価総額という値段が付いている。
「のれん」の分も意識して経営をして欲しいものである。
株主(少なくとも私は)は「のれん」も含めた「時価総額」に見合う成果があるかどうかで会社を評価しますよ。
4.ROEの限界
「簿価の自己資本」までしか考慮できていないことが、ROEの限界。
なお、株式市場での評価を”ROE”に取り入れるとすれば、前回、ROEは役立たず(その2)で書いたように、”時価ベースでのROE”とすることも可能だけど、これは結局は”株式益回り”ってこと。
ROEは、”株主の期待に応える”という観点でも、やっぱり、あまり役に立たないね。
ってことで、今回は終わり。
ROEシリーズ好調につき、次回はまた違った観点で。