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カテゴリ:へそまがり流投資手法
ㅤ今回は、リキャップCBについての話題の続き。
事業会社から見れば”お金を借りて自社株を買うよ。買った株が横ばいか下がれば現金で返す。株が上がったら株で返すよ。”というリキャップCB。 常識的な判断力があれば一目でダメと分かるはずだと思うのだけど、ROE至上主義のROE教徒には魅力的に見えるらしい。 ”ROEの数値を高めれば企業価値が向上する”と短絡する上場企業に巣食うROE教徒。また、”ROEの数値を高めれば企業価値が向上する”と短絡するROE教徒の錯覚を利用してエゲツナク稼ぐ証券会社。 リキャップCBは、そういう暗闇に棲息するスキームだったのだけど、世の多くの良識人がリキャップCBの愚劣さに気付き警鐘を鳴らしていく。また、さらにはROE至上主義の下らなさに気付いていく。 今回の日記はそのあたりのことを。 (前回までの日記) 〇リキャップCB事件1-ROEは役立たず(その6) 〇EB債でエゲツナク稼ぐ証券会社 (ROE教を嗤う関連の日記) 〇ROEは役立たず 〇ROEは役立たず(その2) 〇ROEは役立たず(その3) 〇ROEは役立たず(その4) 〇自社株買いは愚策-ROEは役立たず(その5) 〇リキャップCB事件1-ROEは役立たず(その6) 〇ROE教が蝕む日本の未来 1.金融審議会での指摘 最近、”フィデューシャリー・デューティー”という用語を聞くようになった。金融庁のお達しに基づいて金融界が取り組み始めたもので、日本語では”顧客本位の業務運営”という実に当たり前のこと。裏を返せば、その当たり前のことを改めて確認しなければならないほど、顧客本位からかけはなれた商品が蔓延しているということ。(さらに付け加えると、”フィデューシャリー・デューティー”によっても、実態的には金融の現場が顧客本位になることはないだろうし、結局は投資家の側で賢明な判断をしていくしかないのだけど。)ㅤ さて、この金融庁のお達しは、金融審議会市場ワーキング・グループの報告を踏まえて出されたものなのだけど、 同ワーキング・グループの昨年8月2日の審議の中でリキャップCBが取り上げられている。 ”インベストメント・チェーンにおける顧客本位の業務運営の観点からの指摘の例”と題した資料の中で、 リキャップCB(CB発行と自社株取得を同時に行い、負債を増やし資本を減らす手法)の発行提案(企業の実態を必ずしも反映しない一時的なROE上昇をもたらす商品との指摘) とされている。 本来は投資経験が豊富でない個人に対しての顧客本位でない商品とか販売方法を列挙した資料で、デリバティブを組み込んだ仕組債(EB債もここに含まれます)や、毎月分配型投信やファンドラップなどが槍玉に挙げられている。また、その背景として”販売手数料等の収入面に偏った業績目標・業績評価体系”とか、”投信における信託報酬のあり方”なども取り上げられており、一般投資家保護の観点が強い。 その中で場違い的に、”法人営業に関する指摘”としてリキャップCBだけが取り上げられている。企業に巣食う”ROE教徒”は、投資経験が豊富でない個人と同様、金融行政がおせっかいを焼かなければならないほどに総合的な判断力の欠如した保護対象、ということなのだろう。 で、この審議の模様をROE教の機関誌と化している日経新聞も以下のように報じている。 〇これでも顧客本位? 金融審、金融機関の実態列記(日経新聞) この指摘は、リキャップCBを好意的に報じていた日経新聞に対する警鐘でもあったかもしれない。 2.東京証券取引所の反省文 金融審議会での指摘はリキャップCBに対する評価の分水嶺だったようで、リキャップCBで企業価値を向上させたと得意げだったROE教徒たちも、少し自省したようだ。 2016年1月には、”第4回 企業価値向上表彰”にて、リキャップCB実施の2社を優秀賞に選定(大賞含めて3社しか表彰しない中で2社がリキャップCB実施企業というリキャップCBへの肩入れ具合)していた東京証券取引所も、 2017年3月には、”資本政策に関する株主・投資家との対話のために~リキャップCBを題材として~”と題した文章を上場企業向けに出している。 スチュワードシップ・コード及びコーポレートガバナンス・コード(余談的に、私から見れば、ガバナンスコードは企業の生産性向上を阻害する方向にしか作用しないと思うけど)に基づく、上場会社と投資家の間で、持続的な成長と中長期的な企業価値向上のための建設的な対話の例として、という建前になっているけれど、 この文書に沿った手順で検討していけば、リキャップCBを実施するという判断は取り得ないだろうから、実質的にはリキャップCBは実施しないでねというメッセージ。 昨年、リキャップCB実施企業を企業価値向上の観点から表彰し、リキャップCBを推進していたかに見える東京証券取引所の反省文といえるだろう(プライドの高い人たちなので、素直に”ごめんなさい間違ってました”とは言わない)。 この”資本政策に関する株主・投資家との対話のために~リキャップCBを題材として~”は、投資オンチの東京証券取引所が出した文書としては珍しく真っ当なことが書いてある。 リキャップCB実施の際の検討ポイント集が整理されているのだけど、6つの検討ポイントのうち「ポイント1.自社株買いの合理性」「ポイント2.自社株買いのための資金調達手段としての適切性」の2つだけで、ほぼリキャップCB実施は却下されるのではないかと思われる。 少し、引用してみると ポイント1.自社株買いの合理性 ・自社株買いを行うことについて、成長投資と株主還元についての自社の資本政策に沿って説明できるか。 ・現在の自社の株価に照らして、このタイミングで自社株買いを行うことが正当化できるか。 (解説)(抜粋) 自社株買いは、株主還元の手法の1つであり、その意味では一般的には株主・投資家から好意的に受け止められうる資本政策の1つだと言えます。しかしながら、これが常に好意的に評価されるわけではないことには留意が必要です。長期的に会社に投資するつもりのある投資家の立場からは、今、事業活動によって得られた資金を使って自社株買いを行うよりも、本業の成長のための有望な投資機会があるのであれば、そちらに振り向けて、将来の中長期的な企業価値の向上を実現してもらった方がよいとも考えられるのです。 投資家から見て株価が高い水準にある状況下で自社株買いをする場合には、経営者がそれでも割安だと判断しているのかどうか、それはどういった根拠に基づいているのかが、投資家の関心事となります。そこで、CB発行と同時に行うか否かに関わらず、自社株買いを行う場合には、これに先立って、社内でDCF法等に基づいて計算した自社の本源的な企業価値と、現在の株価から計算される時価総額とを比較し、前者が後者を上回っているか、その乖離幅に照らして自社株買いが自社の資本コストを上回る収益率の投資だと言えるかどうかなどを予め検証しておくことが考えられます。 ROE教徒にとっては、ともかく自己資本(株主資本)が減ればROEが高まるので自社の株価水準にかかわらず自社株買いは有効ということになるのだろうけど、 この東証の文書は、”自社株買いは、自社の株価が割安だと根拠を持って判断出来る時だけ”と釘を刺している(ただ、惜しむらくはDCF法だと恣意的に如何様にも計算できるだろうから。。。)。 ポイント2.自社株買いのための資金調達手段としての適切性 ・リキャップCBとは、自社株買いのための資金調達手段として、CBを用いる手法であるところ、 ・手許現金を用いないのはなぜか。 ・銀行借入れを用いないのはなぜか。 ・普通社債を用いないのはなぜか。 (解説)(抜粋) 上場会社の資金調達は、原則として、①手許現金、②負債(デット)、③株主資本(エクイティ)の順で優先するとされているのです。 CBは、株式に転換される可能性のある負債ですので、②負債と③株主資本の中間、2.5 番目に位置します。したがって、①手許現金、②負債よりも後に検討するのが通常だということになります。 上場会社がCB発行を選択する理由として挙げられることが多いのが、CB発行の場合、利息を付さずに(ゼロクーポン)、すなわち、金利の負担なしで資金調達ができる点が、銀行借入れや社債発行よりも有利であるため、調達コストが低いということです。しかしながら、CBは、普通株式に転換される可能性のある潜在株式ですので、既存株主の立場から見ると、実は、そのコストはゼロではありません。上場会社が金利の負担なしで調達できるのは、CB購入者に対して、利率がゼロでも十分な利益が出るほどのオプション価値を提供しているからではないか、さらに、低金利の環境下においては、ゼロクーポンで調達できるメリットは小さいため、既存株主から見ると、それと引き換えにCB購入者に売り渡しているオプションの価値が釣り合っていないのではないかとの指摘もあります。 CB発行は上場会社及び既存株主にとって割の悪い資金調達方法だということが丁寧に解説されてます。 この解説を真摯に踏まえれば、通常の資金調達手段が閉ざされている中で倒産回避のためとか乾坤一擲の成長投資のためにCBに頼らざるを得ないといった場合はあるかもしれないけど、少なくともリキャップCB(自社株買いのためにCBを発行する)はあり得ないのではないかと思う。 3.ROE教を根本から疑え! あまりに愚劣なリキャップCBが、なぜROE教徒を魅了したのか。 根本のところとして、ROEが経営判断・投資判断のための指標として大きな欠陥を抱えていることが原因だろうと私は思う。 ROE = 純利益/自己資本×100(%) = 1株利益/1株純資産×100(%) 分子の利益を向上させることは大いに意味がある。だけど、分母の自己資本を小さくするという大抵の場合には意味がない裏技がある。 ”ROEの数字を高めることが企業価値の向上”と短絡しているROE教徒は、本来全力を傾けて取り組むべき利益の向上をないがしろにして、自社株買い等による分母の操作に傾斜することも多い。ROE教徒は、企業運営の根本から間違っているのだと思う。だからリキャップCBなんていうクダラナイものに引っかかってしまう。 リキャップCBを題材として、ROE至上主義に警鐘をならすような論説も増えてきている。(ROE教を疑うきっかけを与えてくれたという点だけは、リキャップCBの功績かもしれない。 例えば、 〇日本企業が手を染める「危険な財務戦略」…見せかけの財務改善が企業を滅ぼす、リキャップCBの罠(手島直樹氏) 結論の部分を少し引用すると、 長期的な株主を増やしたいのであれば、経営者は小手先のテクニックではなく本業で勝負する姿勢を示さなければなりません。企業価値は将来生み出すキャッシュフローで決定されるのです。本業を磨き、キャッシュフローを高める。結局、持続的にROEを改善できるのはそうした企業なのです。ROEは目的ではなく結果なのです。 そのとおりだと思います。 〇ROE至上主義の罠-短命に終わったリキャップCBブーム(井出真吾氏) 結論の部分を少し引用すると、 ROE改善の王道はあくまで収益拡大であることを忘れてはいけない。企業、投資家とも小手先のROE改善策に踊らず、持続的な成長の実現を目指し、企業および株価を評価する姿勢が求められよう。 また、リキャップCBのように顧客本位とはいいがたい手法が、再びいつブームに乗って広がるかわからない。表面上の数字の改善や聞き心地の良い説明に乗せられぬよう、企業側も金融リテラシーを高めることが何より大切である。 4.感想など 本業を磨いて利益を向上させる会社こそが、私の投資したい会社だなとつくづく思う。 経営者は、本業を磨くことに全力を挙げてほしい。 ROE至上主義は、どうも本業磨きを阻害する役割を果たしているのではないかとすら思える。 やたらROE向上を言い立てる会社は、私にとっては投資不適格に近いなー。それより利益の向上を一生懸命やって欲しい。 ※同様の分野のランキング。優良ブログが見つかるかも。 にほんブログ村 にほんブログ村 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
May 5, 2017 06:33:18 AM
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