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2020.05.07
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カテゴリ:中国

「それは伝染病じゃない」に責任はないのか――新型コロナ発生地・武漢でうごめく当局追及の動き

 ​2020-4-23  西岡省二(ジャーナリスト)   ヤフーニュース

  新型コロナウイルスの集団感染が起きた中国湖北省武漢で、地元政府の責任を問う声が上がり、湖北省や武漢市を相手取った訴訟を構える人もいる。だが共産党や中央政府はこうした動きを抑え込み、党の指導で事態が好転したとするストーリーでの上書きを図っている。

 

◇「それは伝染病ではない」

 

 英紙ガーディアンによると、新型コロナウイルスによる肺炎のため亡くなった武漢市在住の女性、フー・アイゼン氏(65)の親族が「武漢市政府が新型コロナウイルスの深刻さを隠していた」などとして、訴えを起こしているという。

 

 フー氏は今年1月上旬、「新型コロナウイルスが武漢に広がっている」と知った。だが地元当局者が「それは伝染病ではない」との見解を示したため、特に警戒することなく普段通りの暮らしを続け、春節(旧正月)の準備を整えていた。

 

 ところがフー氏に突然、肺炎の症状が出た。その直後に武漢は都市封鎖されたため、何日も待って、ようやくウイルス検査を受けることができた。だが症状がはっきりと表れていたのに検査結果は「陰性」。治療を拒否され、6つの病院をたらいまわしにされた。

 

 その後、自宅で10日間療養したが、飲み食いができずに容体が悪化。フー氏の息子が別の地域の病院に連れて行こうとしたが、道路を封鎖する警察官にブロックされた。「あなたは人間じゃないのか!」。息子は必死にすがりついたが、聞き入れられることはなかった。

 

 ようやく2月8日、入院先が見つかった。だが、既にフーは呼吸困難に陥っていた。息子に「水がほしい」と言い残して亡くなった――という。

 

 息子は「新型コロナウイルスの脅威を世間に知らせるだけなのに、どうして何週間もかかったのか」と憤り、原因究明と当局者による謝罪、補償を求めている。

 ほかにも、湖北省政府や武漢市政府に相手取って、親族が亡くなった責任を追及する動きが相次いでいるという。

 

◇批判の声を「党の功績」で上書き

 

 新型コロナウイルスの感染は武漢で始まり、1月23日~4月7日の約2カ月半、事実上の都市封鎖の措置が取られた。その後、中国での状況はやや収まり、国家衛生健康委員会は3月12日の記者会見で「感染のピークは過ぎた」と表明した。中国全体では4月23日現在、感染者は累計8万4294人、死者4642人に達している。

 

 一方、市民の側には「失われた20日間」に対する不満がくすぶる。これは、武漢当局が昨年1230日に「原因不明の肺炎患者確認」を公表したのに中央が本格対応したのは1月20日以後であり、それまでに政府がしかるべき措置を取っていれば感染拡大は食い止められた――という思いが土台になっている。

 

 ネット上で「原因不明の肺炎」を告発した武漢の眼科医、李文亮氏(33)が亡くなった際には、市民の反感は増幅され、ネット上に当局批判があふれかえり、公安組織による検閲が追い付かなかったという。

 

 中央政府や地元政府、さらには共産党に対する不満が武漢を中心にうごめいているのに、市民の訴えを取り上げる記事は、主要メディアではみられない

党や政府は市民の側の動きを警戒し、報道に規制をかけているのではないかと推測できる。

 

 そのかわり、「習近平国家主席の指示を受けて迅速に対応した」「中国は世界各国に医療用品を援助する責任ある大国」などの当局を礼賛する話が数多く発信され、中国の世論を覆いつくしているような状況にある。

 

 当局は不満を抱く市民らの動きを監視しているようだ。ガーディアンによると、新型コロナウイルスが原因で親族を亡くした市民ら100人がやり取りに使っていた中国版LINE「微信(WeChat)」のグループチャットが当局によって削除された。中国各地の商業施設でテナント料の返金・減免を求める大規模な抗議活動が相次いでいるが、主要メディアで取り上げられることはない。

 

 北京に拠点を置く研究機関「沃民高科沃徳網情研究院」が、インターネット上の書き込みなどから武漢市民の感情を分析したところ、封鎖解除後に市民の不満が噴出し、大規模な抗議活動につながる恐れがあるとの結果が出た。同研究院は3月中旬、これを党に伝え、批判の矛先が習近平指導部に向かないようにするため世論を誘導するよう提言したとされる。

 

 責任追及の構えを見せる遺族らはガーディアンの取材にこう話している。

 

「彼らが我々にしっかりと話をしてくれていたなら、いずれの事態も起きることはなかった。これほど多くの人たちが死ぬ必要はなかったんです」

「我々は(省・市の政府から)回答がほしい。法に基づいて、責任のある人たちを罰してもらいたい」

 

 ただ、中国の司法は共産党の指導下にあるため、住民らが提訴に踏み切っても、訴えが受理される可能性は低い。

―――――――――――――――――――――――――――――――

西岡省二(ジャーナリスト)  大阪市出身。毎日新聞入社後、大阪社会部、政治部、中国総局長などを経て、外信部デスクを最後に2020年独立。大阪社会部時代には府警捜査4課担当として暴力団や総会屋を取材。計9年の北京勤務時には北朝鮮関連の独自報道を手掛ける一方、中国政治・社会のトピックを現場で取材した。「音楽」という切り口で北朝鮮の独裁体制に迫った著書「『音楽狂』の国 将軍様とそのミュージシャンたち」は小学館ノンフィクション大賞最終候補作。






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最終更新日  2021.07.18 04:23:50
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