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カテゴリ:フィクション
※このエントリーはフィクションであり、実在の人物、大会等とは一切関係ありません。 点滴を二本、ゆっくりと体に注入したあと家に戻って休んだ。 翌日になっても、めまいは治まらずまた点滴に行った。 医師からは、収まるまで何度でも点滴に来てくださいと言われていたが 日曜日になって、めまいはようやく治まった。 日曜日、夜中に何度も目があいた。 そのたびに壁に掛かった時計を見た。まだ朝じゃない。。。 めまいさえ起こさなければ、本当は4時に起きて5時には家を出るはずだった。 サロマに向けての最後のロング走。50Km走る予定だった。 この日は千歳JAL国際マラソン。 走り始めてからずっとエントリーしてきた大会に、今年は申し込まなかった。 レースはせずに、千歳まで応援と称して走っていくサロマ練。 金曜、土曜と点滴を受けた体は、まだ元通りになっていない。 目が覚めるたび、 「今日は走らなくていいんだ…」と思った。 「走れない」ではなく「走らなくていい」そう思うほどの倦怠感が全身を覆っていた。 それでも、千歳で約束が二件あったので車で出かけることにした。 お昼頃、携帯がなった。着信はチームのYoUちゃんからだった。 「姐さん、今どこ?」 私は苫小牧から。YoUちゃんたち10名ほどの札幌組とは千歳で合流するはずだった。 今頃どこを一人で走っているのか?と心配して電話をくれたようだった。 「今ね、自宅なの」 「えっ!?なんで?」 「体調不良でね、走れなかったのよ。でも、これからそっちに向かうから」 しばらくして無理しなくて来なくていい旨の電話があったのだけど、出かける準備も出来ていたし 車の運転は娘がしてくれるので大丈夫と言って、千歳に向かった。 会場近くの、私が毎年車を停める駐車場へ行ってみると空きがあったのでジムニーをそこに停めて ブラブラと歩いて間もなく、ゴール地点のざわつきが聞こえ出したとき、また電話が着た。 出ると、hanaさんからで近くのコンビニでビールを一ダース買ってきてほしいと言う。 札幌から走ってきて、すでに酒盛りが始まっているようだ。 お安い御用だと引き受けて、ゴールとは反対方向へコンビニを探しに行く。 すぐにコンビニを見つけて、ビールや私たち親子の飲むジュースやポテトチップスなどを購入して会場に向かった。 体育館の裏側には、ビールや焼きそば、焼き鳥などを売るテントが並び 皆は会場の中ほどで、今かとビールを待ち構えていたようだ。 YoUちゃん、さんこさん、meruちゃん、seiさん、hanaさん 皆、朝早くから走ってやってきたのだ。 思わず、「今日は何キロ走ったの?」と聞いてしまった。 走れない自分が、聞いたところで焦りの気持ちが増すだけなのに、聞かずにはいられない。 「オレは30Kmちょいかな~?」 「私は50Kmくらい」 スタート地点が違い、ところどころで合流しながら行くから走った距離はマチマチだ。 今日走れなかった私は、サロマに向けて着々と準備が進む仲間が羨ましくてしょうがない。 焦っても仕方ない。と頭で理解出来ても、心の奥底のほうで皆から遅れをとってしまった気分は否めない。 そんな私の気持ちが透けて見えたのか、hanaさんが言った。 「今まで走った貯金があるから大丈夫だよ」と励ましとも慰めともつかない言葉を掛けてくれる。 そうなんだろうか?いや、きっとそうなんだ。 逆の立場になれば、同じことを私も言うはず。 不安が消えることはないけど、今はその言葉を信じるしかない。 もう追いこんだ練習は出来ないんだから。 とにかく、今の状態ではジョグで走るのも躊躇われるが サロマに向けて、なんとか調整していかなくてはいけない。 今の体調不良が一か月も続くわけがない。 サロマにピークを持っていければいい。 そう思うことで、心の平穏を保つことにしよう。 帰る間際まで、ゴール付近でしばらく応援をした。 淡々と走る人、いかにもきつそうな人、ゴールが近いと笑顔で走る人。 さまざまな表情で走るランナーを見ていると、やっぱり自分も走れば良かったなと思う。 今日のこの体調不良では、間違いなくDNSになっただろうが…。 チームのコバッチが走ってくるのが見えた。 はっきり目立つ蛍光グリーンのTシャツを着ているおかげで遠くにいても分かる。 思わず走り寄っていって、「コバッチ!!頑張って!!あと少しだよ!!」と声を掛ける。 ここまで体力気力を使い果たしてきたコバッチに「もっとガンバレ」はさらに鞭打つようなものかもしれないけど、彼の本当の実力はこんなものじゃない。 練習不足でありながら、フルマラソンを走りきることが出来るのは やっぱり、「今まで走った貯金がある」からなんだろうか? 皆のゴールを見届けたあと、千歳を後にした。 体調不良の体に太陽の日差しは少し強すぎたようで、帰りの車の中ではまた居眠りをした。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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