『ひばり』(シアター・コクーン)
渋谷のBunkamuraシアター・コクーンで『ひばり』を観て来ました。(今月28日がもう千秋楽)(原作:ジャン・アヌイ、演出:蜷川幸雄)今年は花粉の飛ぶのが早いのか、渋谷でも花粉用マスクをした人を結構みかけました。今年に入ってみた蜷川さんの『コリオレイナス』と比較すると「戦い」を主題にしていてもかなり趣の違うシンプルな舞台装置。パンフによると、蜷川さんはこの法廷劇を「言葉で行うボクシング」に見立てたそうなので、真四角の灰色のそっけないほどの舞台に、なるほど、と思えました。そこにあがった役者さんがONになり、OFFの人たちは回りに座った傍聴人のような役割。傍聴人席には、55歳以上からなる蜷川さんのゴールド・シアターの男性たちがぞろーり。セリフはなかったかな?でも演技はしていました。最初にジャンヌ・ダルク役の松たか子さんをはじめ、役者さんたちが次々と通路から現れます。そしてこれから始まる芝居の準備をそれぞれが勝手に始める。会話を交わしたり、自由な雰囲気で、「え?もうはじまっていたのね?」という空気。実はここの「これからお芝居をしようとしているのよ」というここの無言のメッセージが大切なんですね。実際に遅れて来た人たちと、後ろの扉から通路を通って舞台に向かう役者さんたちが混じってしまって、係員も制止するでもなく、混ざり合うまま進行。詳しいストーリーなどは公式サイトなどでみてください。あと、セリフの洪水というほどすごいセリフ量が繰り出されるため(主に松さんだけど、他の俳優さんたちのセリフもすごいスピードと量でした)日本人だけど、ついていけないわ、という部分がたくさんあり。あと松さんとか橋本さんがでてくると空気が(自分的には)しゃきっとするのですが、若干けだるく眠気が・・という場面も。でも気迫、緊迫感、そしてセリフのリズムを音楽のように楽しむ、というシェークスピアとはまた違った感じではあるけれど、「芝居」の空間を味わい楽しむ、という意味では、とてもどきどきする時間でした。松さんはチラシとは違って思いっきりショートカット!(かつらじゃないですよね?)少年のようで肌も綺麗でキュートでした。いまどきの軽めの若者が夜中にコンビニに行くときみたいな?グレーっぽいようなベージュのような色のスウェットスーツみたいにみえるラフな衣装のみ。メイクもすっぴん状態にみえるようなナチュラルメイク(に見えました)実はもっと女戦士みたいな、かっこいい衣装も期待してましたし、唐沢くんのコリオレイナスみたいな、「馬」(人間が中にはいってる)も出てくるのかな?派手な立ち回りもありのかな、なんて思っていたら、そういうのはなくって至ってシンプル。牢獄シーンも鉄格子の代わりにシンプルな四角の舞台を下から細いライトをたくさん照らすという照明効果を駆使して斬新な演出となっていました。言葉を駆使して人を動かしていく、パワーを与える、と言うところでは、染五郎さんの「朧」をちらっと思い出したりしました。ただセリフの内容が西洋的というか、論理とか弁証法とか、そういう土台がある国の左脳的セリフだな、と感じました。心で感じとれ、というより理屈で理解せよ、という感じ。だから、こちらの頭が朦朧としていたりすると、セリフの理解が難しく感じるのです。行った方からあれほど「睡眠は充分に」とアドバイスを受けたのに、やっぱり睡眠不足気味でしたし、突然の体調の変化等もあり、おなか痛いよ~とほほ・・・な状態でしたので、やっぱりこういう作品はこういうときはキツかったかも・・。今日はなんといったって、あまりにも寒すぎでしたし((T_T))ウォーリック伯爵役の橋本さとしさん、グリーン系の長いローブをひきずりステッキをもつ姿、なかなかカッコよかったです。橋本さんのボーマルシェ(MA)やルキーニも見てみたくなりました。それにしても昔はこのウォーリック役を祐一郎さんも四季でやったのね。ああ、見たかったなあと思います。(祐一郎さんの歌もいいけど、ストレートでの声もときには聴きたくなります。「そし誰」とかじゃなくて、古典がいいな)1階下手のサイドに並んだ席は首もそう疲れず段差がしっかりあるため見やすかったです。後ろのほうだったので、役者さんが歩くときには近くでみられたし、最後はすぐそばに壌さんとか大勢の役者さんがずらーっと立ち、どきどきしました。オペラグラスなしでもOKな席ですが、松さん橋本さんなどを見るため、ときどき使用しました。シャルル王役の山崎一さんは、生でみるのは初めてでしたが、なかなか味わいがあってよかったです。NOVAの人っていうイメージが強かったり、また逆にTVドラマで薄気味悪い殺人鬼役などみたことがあり、あまりいいイメージはなかったのですが、ちょっとイメージが変わりました。役者さんとして面白そうな人だなって。戴冠式の白地に黒い斑点のある可愛いケープ(?)は、東宝エリザベートでフランツが身につけていたり、MAでも禅さんが身につけたりしているものによく似てました。あのデザインがあの衣装?の基本形なのでしょうか?異端審問官の壌晴彦さんは、噂どおり声の芯がしっかりしていてよく響く低音が魅力でした。なんか四季以外でこういう四季にいらした方の独特な発声を聞くと嬉しくなるのはなぜでしょう?歯切れがよくってリズミカル。快感です。シャルルの愛人役の小島聖さんはとてもすらりとして綺麗な方でした。名前がアニェスというのがMAのアニエスとかぶって、でもまったく正反対の役だから面白いです。歯切れもよくていいお声でむっちりと色気もありました。やはり中心は松さんの世界。少年のように瞳をくるくる動かし、あちこちに飛び跳ねてからだ全体で喜びや悲しみを表現し、途切れることなくはじけるように透き通る声でセリフを繰り出す松さんの姿はやはりそこだけ別世界のようにきらきらしていました。伝えようとする気持ちがダイレクトに前に飛び出してくる、そういう気持ちよさがあります。最前列センターの半分近くは男性でした。ほかにも日曜ということもあり、男性の比率がとても高かったです。5人に2人くらいは男性?帝劇とはあきらかに客層が違うかな?常にバラの花を手にし、陰りにあるような瞳をした橋本さとしさんも素敵でした。ミス・サイゴンではあまり分からなかったけれど、セリフの言い方や声が結構好みです。でもこの作品では上手の自分用の席に座っている時間があまりにも長くて残念。93年の四季の上演データを見たら、ジャンヌを野村さん、ウォーリックを山口さん、そしてシャルルを石丸さんという豪華メンバーでやっていたのですね。そのころどうして四季を観にいかなかったのが、やっぱり残念に思います。