東宝ミュージカルアカデミー第4期生卒業公演~レ・ミゼラブル
東宝ミュージカルアカデミー(第4期生)の卒業公演『レ・ミゼラブル』を観に行きました。応募によるご招待で、2743通応募があったうち、300人が招待されましたのでラッキーでした。場所は北千住にあるシアター1010。北千住駅から徒歩1分の丸井の10階にあるので、超便利です。ここで観るのは初めて。招待レターを受付で見せて、くじBOXから自分で座席の入った封筒を引きます。後方席になりましたが、新しい劇場のためか、劇場のどこからでも舞台がよく観え、段々のある作りになっていて人の頭が気になることもなく、見晴らしがよかったです。ミニ編成ながらちゃんとオケピがあり、キーボード兼指揮はおなじみの山口ビリーさん。モジャ頭と激しく大きな指揮が常に見え、なんとなく安心感あり(^^)。あとは5人の編成ですが、最初のドラを含め、想像していたよりしょぼくはなく、特にパーカッションがドラマチックだわ、と思ったら、担当はおなじみの長谷川友紀さんのようなので(パンフによる)、納得!楽器の種類が通常とは異なる部分があるとはいえ、とても安定した演奏でしたよ~。レミゼの世界はやっぱりいつの間にか人を惹き込みますね。たとえバリケードがとっても小さくて階段がついてる可愛いものだとしても、回転盆がなくても、この作品のもつ力というのはそういう制限があっても、やっぱり凄いものなんだな、と改めて思いました。予め注意書きはありましたが、残念といえば男性の割合がとっても少なかったこと。バルジャンは特別出演という形でおなじみの上條恒さんですが、あとはジャベール、司教さま、マリウス、アンジョルラス、グランテール、テナルディエは男性。それ以外は全部女性が演じていました。(レーグルは司教役が兼ねるのではなく、女性が演じてた)明日のキャストも入れて総じて数えると女性30人男性7人が卒業生の合計でしょうか。しかも今日の女性陣はわりと華奢で小柄な方が多かったせいで、ジャベールの手下たちが軍服着て登場しても、お人形さんみたいで可愛すぎて怖さとか迫力は期待したらかわいそうな感じ。また、過ぎた日に乾杯~♪のところなど合唱シーンは、ほとんど女声コーラスのようでした。僕たちと寝てくれた~って可愛い女性声で聴こえてくるんですもの・・(^^)。ミュージカルを観に来るお客さんは圧倒的に女性が多いのだから、スター性のある実力派の男性がどんどんミュージカル俳優をめざしてくれると嬉しいですよね~。レミゼといえば、あらゆるシーンに盆が欠かせないのだけれど、盆なしでもガッツがあればなんとなると証明してくれました。今回のアカデミー卒業生は80年代生まれが圧倒的に多くて、大学の学園祭みたいな若いエネルギーに満ちてましたね。そのなかで60年代生まれのバルジャン役の上條さんの貫禄といったら、凄いものでした(笑)。ひとり異星人みたい・・それに若い男性陣は細身で腰の辺りなど超華奢だし、肩幅なども含めてがっしり体型が少ない、そしてガツガツした感じがなくてどことなくさっぱりしたいわゆる「草食系男子」なんですね。だから、ガッチリ体型の上條さんだけ肉食系っぽくて(演技もかなり濃くて熱血バルジャンだし)、すごーくそういう意味で目立ってました(笑)。でも、ストーリーもシーンを少しも端折ることなく、驚きの完成度!!5:30始まりで、25分の休憩はさみ8:30まで続きましたが、ダレたりあらら・・という個所はとくになく、若干(?)歌詞が危なかったのはなんと上條さんだったり・・(笑)。ほんとにほんとに、すごーく一生懸命お稽古したんだな、頑張ったんだな!!と、レミゼのストーリーそのものに加え、頑張ってこの大作をみんなで創り上げたエネルギーそのものに大きく感動しました!ジャベールは長身、端正でクールなイメージで声の深み、凄みはまだこれから出てくるのでしょうね。アンジョも長身で軽めな声ながら、一生懸命リーダーを演じてました。マリウスも堅物でありながら、恋に走るキャラがとても似合っていてキュートでした。そのマリウスへの恋心を募らせて苦しむエポニーヌ役の子はもう今すぐ本番に出られそうな素晴らしい演技と歌声でしたね~。キャラクターも無理なく合っていました。オンマイオウンも抑えるところ、張るところ、最後の愛してるの繰り返しを含め、表現が完璧でうなるほどでした。コゼット役はキャラクターは合っていて品のあるお嬢様風で、歌も上手でしたが、背が高くてマリウスと同じくらいに見えました。声がソプラノというよりメゾソプラノかなあ、と。音はでているけれど、なんとなく響きが低め、重めに感じたかも。ファンティーヌ役の方は明るくきびきびした感じの方でしたが、声は役に合っていて歌も上手でした。テナ夫妻もなんだかコミカルで迫力もあって、とてもよかったです。リトルコゼは経験者なのかな?とても落ち着いて歌も演技も完璧で本公演のようでした。上條さんのバルジャンは熱血型で、最初はほんとに泥臭さがすごくて、独白も歌うというより、殆どドス聞かせて叫んでる感じで、最初のシーン観て、いったいどうなっちゃう?と思ったけれど、ちゃんと市長さまからは品が増し、隠すものがあって苦悩する、守りたいもののために命を張る、そういう人物のリアリティがすごく増してきてよかったですよ。なんというか・・たとえばわたしがよく観ているバルジャンは市長さま以降はほんとに見も心も聖人みたいに生まれ変わって、すっきり仙人のようになって煙のように天に召される感じがあるのですが、上條さんのバルはたとえ化けても、どこか猛獣のような脅えをまとっていて、全身からホントの自分に対する後ろめたさみたいなものをびしびしと感じ、最後まで人間くささが漂っていました。死を迎えるときも苦しいこの人生はもう充分だ、だから早く解放されたい、という思いが強い感じがしました。これだけ毎回卒業公演でバルジャンをやっていると、やはり自分の味というのができてくるのでしょうね。やっぱり面白かったのは、盆がなかったり、下水道の穴がなかったり、バリケードが箱っぽくて低めで迫力がいささかなかったり、そういう制限があるなかで、どうやって工夫して効果を出すか、という部分。1幕ラストのテナルディエ夫妻が下水道からひょこっと顔を出す部分などは、(ジャベールのサッシュ巻き巻きに気をとられて、チェック忘れてたのですが、あとでご一緒した友人に聞いたら、)上手のほうからこそこそっと登場したそうです(^^)。バリケードが回転できないので、ガブローシュの死とか全員の最後の戦い、死はどうするのかな?と思っていたのですが、ガブローシュが前にポンと降りたら、なんと学生たちはテレビ画面を縦に分割するがごとく、くるっと向こう側を向いて下手側に結集した格好になり、左半分は向こう側に敵がいる、というイマジネーションで舞台を観てね!という演出になっていました。ガブローシュの死体は・・?盆が回らないため、勝手に誰かがやってきて背負うように回収して捌けていきました(^^)。そして学生達が撃たれるシーンは向こう側に落ちるわけにはいかないので(盆がない)、みなさん手前に落ちて、そのままバリケードに死体となって張り付き、本来ならバリケードがくるっと回ってアンジョを照らすシーンは、バリケードは動かないまま、ただ一筋の光がアンジョを照らすことで際立たせていました。マンホールがないので、バルはマリウスを穴に引っ張り込めないから、マリウスをよいしょと担いで上手に捌けていきましたが、ジャベールを本公演みたいに床を確かめてからあとを追うように移動していました。学生たちはかなり長時間フリーズしてバリケードに張り付き状態・・大変そうです^_^;)。そのあと暗転のあと下水道のシーンになり、やっと張り付いていた学生たちはフリーズ状態から解放され(笑)消えてました。でも下水道のシーンでもバリケードはブロックを2つ隙間を開けて並べたような状態のまま置いてあり・・??と思っていたら、なんと驚くことに、そのバリケードは次のジャベールの自殺では、いつの間にかセーヌ川のほとりに見立てられており、ジャベールはバリケードの上を移動しながら苦悩して歌い、最後には、驚くほど低いところにある階段みたいなところから、身を乗り出すようにして下にころがり落ちて飛び込んだように見せ、そのあとはもがいて、ごろごろと通常のように去っていきました。ちゃんと床にはいつもの渦巻きの照明がありましたよ。マリウスのカフェソングでもテーブル&椅子をどうやって出すんだろう?盆がないから、誰かが運ぶ?と待っていたらいつになっても何も出てこない!?なんとマリウスは立ち尽くしたまま一曲を歌う演出でした。後ろにずらっと仲間の魂たちが現れるときは、ちゃんとマリウスは彼らをひとりひとり認識しているようでした。仲間が肩を組み合って微笑むところ、最後ふっと消えるところ、泣けました。あとカフェソングでも、「ああ、友よ~聞くな!!散り果てた意味を~」のところ、いままでのマリウスは「ああ、友よ~行くな!!」に聞こえ勝ちなこともありましたが、今日のマリウスくんの言葉はちゃんと「キ・ク・ナ」と響きました。きちんと言葉をくずさず、メッセージを相手に観客に届ける、という初心は大切なのでしょうね。銃の音にしてもちゃんと発砲させていたし、なかなか本格的で、レミゼの世界がこうして新鮮な目と心と体でしっかりと再現され、この感動を呼び起こす作品がこうして若い世代にしっかり受け継がれていくんだな、ととても胸が熱くなる素晴らしいひとときでした。そういえば・・アカデミーの先輩にあたり既にレミゼ等の舞台で活躍していらっしゃる藤田さんを花束の受付のところでお見かけしましたが、髪をロン毛のウェーブにしていて、まるでハカセタロウ氏のような貫禄というか、アーティストっぽさが増しており、こうしてみなさんベテランに近づいていくんだな、となんだか頼もしく感じました。最後もカテコで、テナ役の方がしっかりと客席に向かって謙虚さとパワーとやる気に満ちた明るい声で御挨拶され、拍手喝采のうちに卒業公演は終了しました。