素晴らしすぎた貴婦人の訪問
諸事情で日記の更新ができていませんでしたが、「貴婦人の訪問」クリエ編もしっかり観てます。進化を見詰めつつ、祐一郎さんのチャーミングでありながら深まりつつあるアルフレッドを応援しています。毎回発見が多く、感動も多く、本当に好きな作品になりました。初っ端はセンターの時計の針が付いていなかったことに気付いたのは、クリエに入ってから・・・今まで何を観ていたのでしょう。わたし(笑)時間が止まっていたギュレンの街。時間が動き出して、時を刻むようになった街、でーも!(祐一郎さん風)・・・そのかわり何か目に見えぬ大切なものが失われましたね。それを自覚するかどうか・・・。いろいろなものを観る側に突き付けてくる作品ですね。舞台は俳優さんたちの息が涙がエネルギーが飛び交わされる場所。ほんとうに今回化学反応がすごいです。涼風さんのクレアがどんどん変化し・・・それに呼応するかのように祐一郎さんのアルフレッドも変わる。街のひとたち、4人の男子たち、とくに中山さんの牧師さん。その表情のひとつひとつを追っていくと、恐ろしいことに気付きます。ヒューマニズムが大切と唱えていた禅さんの校長も、とうとう最後には高価なコートを身にまとい・・・でも、上から最後に降ってくる紙幣には、歓びの手を伸ばすことはできません。人間の愛と憎しみ、友情。欲と善意、葛藤。エキスが溶け込み、作品の奥行きを広げています。祐一郎さんのアルフレッド。ここまで変わるとは思っていませんでした。やっぱり山口さんを信じてよかった。とても見応えのある作品に育ち、全身全霊で応援している身としては、ほんとうに幸せ。とくに、ここ数日。もう進化はこのくらいか、と思いきや。昨日も今日もどんどん変わってきています。昨夜は前方のど真ん中席で見られるという幸せの時間でした。祐一郎さんの視線とぶつかりすぎて、卒倒しそうな幸福な時間。これは、刺激が強すぎました。アルフレッドの想いも、クレアの想いもみんな届いてくる。そして、自分もいわば祈りのような思いをなにかに載せて届けている、そんな気持ちの感じられる時間でした。カーテンコールで祐一郎さんは、なんだか拍手を浴びてぐっと感極まった表情を見せてくださり、それが目に焼き付いて離れませんでした。そして、本日の前楽。ラッキーなことに前方でしたが、昨夜よりは上手寄りだったので視線がぶつかりすぎず、心臓がバクバクしすぎることなく、穏やかな思いで(笑)祐一郎さんをはじめ素敵なキャストの皆様をガンミさせていただきました!(^^)!全編すべて素晴らしいのですが、本日一番印象に残ったのは、最後の森のクレアとのデュエット。愛は消えない・・・と歌いだした祐一郎さんの声が、いままで聞いたことのない声。声帯を振動させて美しい声を出そう、という思いから解放され、アルフレッドとして生きた祐一郎さんの、最後の心が絞り出されたような純粋な魂がそのまますっと現れたような声。感極まっていたのでしょう。途切れそうで途切れない。ぎりぎりのところにいたアルフレッド。そのまんま、表してくださりました。もう、その気持ちがこちらに届くと、涙があふれてしかたありませんでした。冷静、冷徹(?)なクレアもどんどんエモーショナルな表現になっていると感じます。最初アルフレッドに再会したときも、あの「アルフレッド」という一言。どんどん思いがこめられるようになってきていますね。それを聴いただけで、すべての甘い記憶が一気に蘇ってくる。そういう思いです。一幕のアルフレッドは相変わらず軽めなチャーミングですが、黒豹と聴いて下手にたたずむ姿・・・表情がすごくシリアスになってきていますね。伏線ということを意識した演出なのでしょうけれど、このマキシムのような一瞬の表情。見逃せません。1幕最後。そこに向かう前のアルフレッドの吠えるような叫び。ライフルを向けるアルフレッドと「やって!!」と迫るクレア。もうこちらの心臓も大変な鼓動です。キスひとつで鋼鉄のようなクレアの心、憎しみでバリアを作っていたクレアの氷も溶けかけ、愛を思い出したがために、かえって悲しみを増すことになる、そのことにアルフレッドは気づいていたのでしょうか。キスをされたあとのクレアの悲しい表情に。そして、今日の前楽は、ほんとにほんとに、もうクレアはアルフレッドを赦してしまいそうな、でもそれはできない、その思いが数秒の間に表現されていて、観ていて泣きそうになりました。クレアの弱い部分がふと顔をみせたとき、アルフレッドにその思いは伝わるのですが、そのとおり進まないのがドラマです。2幕の祐一郎さんは、もうアルフレッドでありながら、どこかバルジャンやクロロックの魂まで連れてきているかのような、悲壮感が漂うようになりました。そもそも自分が蒔いた種を刈り取るという厳しい現実でもあるのですが、そうなったことには、別の人間たちの思惑がからむわけで、逃げ出してしまうこともできたはずです。それを最後に大きな決意をして受け入れ、思いのたけを全部クレアにそして妻のマチルダにも嘘偽りなく伝え、潔く降参してしまう。その姿を神々しく涙をこらえながら観ながらも、どこか自分のなかで、逃げ出してしまえ、ほうりだしてしまえ、今ならなんとかなる!すべてから離れてしまえ!と、念じている部分もありました。彼はスケープゴートでもあるのです。ひとりの命で、大勢が楽になる。やはりジーザスの魂を感じざるを得ません。ひとりセンターになっている祐一郎さんの顔を照らす照明はもはや気楽でチャーミングな1幕のアルフレッドを照らずライトとは、色も照度も違い、青ざめたライト。彫の深さが強調され、死への道を選ぶ大きな決意が示され、いままで何をしてきたか、ではなく、いま決意をした、この人間にいまのリアルな心情が照らし出されます。すべてを放り出してクレアとなんとかこの街を逃げ出せばいいのに。クレアだって本当はアルフレッドを愛していて、死など望んでいないのに。そう思うと、この作品がロミジュリのようなちょっとした食い違いをタイミングよく正せなかったための悲劇にも見えてきます。最後にアルフレッドが運び出されたあと、ガンミしあうクレアとマチルデ。クレアの表情、昨日と今日とでも違いました。ここ数回は、最後に勝ち誇ったような笑みをふっと見せると思っていたけれど、見限ったような人間性を軽蔑し悲しむような目を一瞬みせた。やはり人間が演じているのですから、段取りどおりでなく、そのときの気持ちがわきだすのでしょう。その点も面白いですね。何度見てもいろいろな思いが湧きあがり、森のシーンでも見えないものまで見えてくるようなそういう幻想まで見えてきて、時間を巻き戻したい、いまからでも遅くないというアルフレッドの言葉がクレアにはどのように届くのか、それがアルフレッドには本当にわからないのか、あるいは、わかっていて言っているのか?やはり女心がわからない、「くず男くん」でしかないのか、悟りに至った神のようなところもある男性なのか。運命に翻弄されただけの可愛そうな人なのか、愚かな市民たちのスケープゴートとしてのアイコンでしかないのか。ほんとうに、いろいろと考えているだけで、夜が明けてしまいそうです(笑)ともかく!祐一郎さんのアルフレッドが素晴らしく心に食い込み、明日でお別れするのが寂しくてたまらない。」それが真実です!!