4 Stars ~One World of Broadway Musicals
キャスト:レア・サロンガ ラミン・カリムルー 城田優 シエラ・ボーゲス 演出:ダニエル・カトナー 編曲:ジェイソン・ロバートブラウン 青山劇場:6/15-6/23 梅田芸術劇場:6/27-30 <感想> 6/2389年にミス・サイゴンのオリジナルキャストでキムを演じ、93年にはアジア人として初めてブロードウェイでエポニーヌを演じた07,2010年にはファンティーヌも演じたパワフルなレア・サロンガ。イラン〜カナダ、そして英国と移住し、マリウス・アンジョルラス、記念コンサートではファントムを演じ、2010にはバルジャンも演じた知的でくっきりした輪郭の声をもつラミン・カリムルー、そして、リトルマーメイドのブロードウェイオリジナルキャストとしてアリエル役を演じ、他にもオペラ座の怪人のクリスティーヌ、レミゼのファンティーヌなどを演じた天使のように可憐な英国・米国で活躍するシエラ・ボーゲス。この3人と城田優がステージで初共演を果たすというニュースを耳にしたときには、正直、まだ日本でのミュージカル界での「若造」に分類されるであろう彼には背伸びしすぎなのでは?時期尚早なのでは?という思いもあった。 しかし幕を開けてみれば、その思いは杞憂であり、むしろ彼こそこの3人と共演する運命だった、そんな確信さえ湧いてくる、素晴らしいステージが見事創り上げれていた。もちろん技術的な面では、完璧ともいえる3人の世界的パフォーマーにはまだまだ及ばないであろう。しかし、その予想される「大きな壁・ギャップ」に果敢にも挑戦し、未熟な部分があるのを周知しつつも、彼らと一つの世界(One World of Broadway Musicals)を創り上げるその大きく新しい「ワーク」に、全身で取り組むことによって、どれだけ彼自身が成長したか、そして、まだまだ彼には大きな伸び代がある、ということを確信できたか、それだけで、目が潤むような感動を禁じ得ない、それほど、奇跡的なレベルに底上げされた素晴らしいショーだった。 第一部の途中までは、ミュージカルの分類でいえば、古き良き時代の曲たち、Chicago, Oklahoma! The King and I, South Pacific, Guys and Dollsなどからの曲を取り上げ、洒脱な大人のやりとり、ジャズバーの空気を彷彿とさせるある種のなつかしいけだるさが感じられる曲目が続き、いかにも導入にふさわしかった。 照明や場面の切り替えもまるでひとつの作品のシーンたちがページをめくるようにシームレスに展開され、スマートな流れがここちよかった。 この大人の洒脱の流れを変えるのは、彼らがお互いに共演者を英語・日本語交えて紹介しあい、あそこに人魚がいるよ、ほら・・という男性陣のナレーションと照明で示された先に、シエラ・ボーゲスが本物のマーメイドのような清らかさで、The Little Mermaidの曲を歌い始めたときだった。足をもっていない自分、そして人間への憧れ、瞳にはその気持ちが映し出され、心が表れるような新鮮な歌唱に息をのむ。続くのは、ディズニー映画の歌声で、実際にMulan (ムーラン)とAladdin(ジャスミン)の声を担当していたレアによる曲。シエラが天からパワーを得ている声だとすれば、レアは大地からパワーを吸い上げるように力強く聴く者のハートに訴えかける声であり、一気に魔法のじゅうたんによって、客席ごとふわっと夢の世界に持ち上げられた。 その後はソンドハイムの世界へ。Companyからオトナっぽさのあるメロディー、それに続くのは、Sweeney Todから城田優のJohanna。彼が実際に舞台で歌ったのを過去に聴いたことがあるが、そのときは正直いっぱいいっぱいな印象で心に染み入るまでの深みを感じなかった。しかし、その頃からきっと目に見えないことも含めて多くの「思い」をハートで感じること、そしてそれを歌声に乗せて、受け手に投げかけることを、決して惰性ではなくみずみずしい気持ちを大切にしながら大切に学んできたであろうことを、強く感じさせてくれる、そんな大人のせつなさにあふれるJohannaに生まれ変わっていた。その一途な歌唱は透き通るような素直な声にのせられ一筋の涙をさそった。 驚いたのはその後モーリー・イエストンン版のPhantomから、You are musicという、悲しくも劇的な曲〜歌教師ファントムがクリスティーヌに静かにそしてだんだんと激しく歌唱指導をしていく〜を城田優とシエラがワンシーンを抜き出すように演じたこと。以前大沢たかおと杏でこの作品をやはり青山劇場で観たことがあるが、正直有名人オーラはあっても、歌唱で人の心を揺さぶるには「声の機微」が絶対的に足りない、と思ったものだ。しかし、城田はどこからインスピレーションを得たのだろうか、オペラ歌手のような深い声を井戸から汲み上げるかのように掘り出し、歌の天使のようなシエラとのこの短いシーンで、声を揃えてシームレスに見えない階段をかけ上るかのような、あの難しい個所も含めて、説得力と重みのあるリトルワールドを作り出していて、驚嘆した。やはり彼の天性の勘のよさはただものではない。もう一度あのファントムを見るならこのふたりで観てみたい。 1幕最後には、こちらはロイドウェバーのほうの「オペラ座の怪人」がいよいよ展開し、本物のファントム、ラミンと本物のクリスティーヌ、シエラによる切なく迫るデュエットに一気に世界が変わる。そして優ラウルによるAll I Ask of You。勿論英語である。彼が真直ぐクリスティーヌに向ける瞳はラウルそのもののように情熱と優しさに満ちており、真直ぐに伸びる声は天性の無邪気さをも含み、魅力的だった。この優ラウルとあの祐ファントムの共演を望むのはやはり無理か? そしてラミンのMusic of the Night。顔は端正だが背丈は大きくなくどこかアンバランスさを感じさせる彼が必死で張り裂ける胸の内をうちあけ、後ろハグをしながらクリスティーヌの魂に寄り添っていく姿には、運命的なものを感じ、涙があふえた、というところで、いきなり休憩に入ったので、しばらく立ち上がれず、ふらつき気味になってしまった人は多いのではないだろうか。 第2部では、耳慣れた劇的なオーバーチュアが響き、上から三色旗を模したライティングが降りてきて、なつかしいレミゼの世界へ。ここで音楽は拍子を変え、突然始まったレアの本物のOn My Own は、歌いだしは日本語であり、客席からは拍手が出る。知ってる、のところからは英語に切り替え、最後の愛してる〜ひとりさ、はまた日本語へという、日本の観客へのおおいなるサービスも。歌いだすとすぐにエポニーヌの悲しい光が宿ったレアの歌唱を聴くと、ひとり朝まで歩き、独りを噛み締めているエポの魂が迫ってくるように胸がきゅっとなる。彼女はファンティーヌも歌ったが、やはりレアはエポニーヌ役者だな、と感じた。 続くはこれも本物のバルジャンによる清らかなBring Him Home。静かに始まる暖かさと知性を感じさせる声のが身体に染み入り、その声の輪郭の明瞭さが非常に心地よい。うねるようなバルジャンの祈りがダイナミックに声に乗り、震える魂を天に届けるように丁寧にそして力を増しながら歌われるこの曲は、やはり天が作曲家に与えた珠玉のような一曲だと知った。最後のBring Him Homeは、それぞれの単語を1つ1つ区切るようにハートを押しあげてシャボン玉にするようにふんわりとのびやかに歌い終結したときには、その祈りは客席中が共有している。そんな歌唱だった。そして、この段階でレミゼの世界の素晴らしさに言葉をなくしそうな気持になっているのに、シエラの「夢破れて」につづく。最初のフレーズを聴いただけで、なにかが溶けだし、震えていくのがわかる。この弱った小鳥のようでありながら、深いところから溢れ出す「生き続ける力、生きなくてはいけない残酷さ」までも伝えることのできる、このシエラという人はいったいどれだけ凄いのだろう、とクラクラした。今まで知らなかった自分が恥ずかしいほどの気持ちだった。歌唱力の違いというよりも、魂の宿り方というか、言葉にならない感動とはこのことか。 ここからは4人で5か国語で歌います!との宣言のあと、展開されたのは、 IlDivoのIsabel(スペイン語、城田)、Reminder (日本語英語、ラミン)Ikaw (タガログ語、レア)、そしてオペラのLa BohemeからQuando Me'nvo (イタリア語、シエラ)とグローバルなパフォーマンスであることを思い出させてくれた。 それから城田優の最後のダンス(日本語)。甘い曲のときとは大違いの、目と眉の間がなくなり一本になるような厳格な表情で静かな動きを保ちつつ、本公演からまた進化・深化の感じられる大人のトートだった。しかし、ラストに近づくにつれ、某トートの激しく身体を揺さぶるようなあの独特な振付を脳裏でパラレル展開させてしまった私と友人・・・いつの間にかあのトート様がついデフォになっていたことを痛切に感じぜざるを得ない。これは永遠に振り払えそうにない(笑) このあとはMiss Saigonからのクリス(ラミン)のWhy God Why、そしてラミンとレアのThe Last Night of the Worldの明るい旋律、はじけるようにどこまでも伸びる二人の声、このふたりの行く末を思い浮かべては涙がにじんでしまったところで、あの弦楽器の響き、そう、このタイミングでI'd give my life for you(命をあげよう)がさらに揺さぶりを掛ける。そこには愛と悲しい決意に満ちたキムその人がいた。歌が終わっても涙をぬぐう間もなく、ふと光がさす。もう明るい別の世界に話は進んでいる。ここで余韻を味わう暇を与えないのは、ひとつのウィットというか演出なのだろうか?(笑)なんともう、さきほどのレアまでも笑顔で別人となっている。女優さんって凄いな、とその底力をここでも感じる。 Songs for a New World, The Last Five Years など今回の企画の編曲を担当したJason Robert Brown作曲の曲をいくつか皆で歌いあう。 これだけの名曲を工夫に満ちた演出と構成で、この4人で聴けたこと、 ほんとに幸せです。 いま林真理子さんの「野心のすすめ」を面白く読み終えたところですが、 まだまだ自分には早い、できないよ、と言わずに、世界的なメンバーと堂々と共演することに挑んだ城田優の「野心」そして、彼ら一流のパフォーマーたちから、目に見えるもの、見えないものをたくさん吸収し、一気に表現力、幅を広げた、その「心のしなやかさ」彼は背丈だけじゃなくて、ほんとにビッグなハートをもつ人だなって、ますます好きになり、応援していく気持ちが強くなりました。 これからも「野心に満ちた試み」というものがあれば(城田さん以外でも)、いろいろなところに出没して、エールを送っていきたいな、とそんな気持ちで劇場を後にしました。