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歌 と こころ と 心 の さんぽ

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2019.05.30
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カテゴリ:心 想い

♪ 渾身の一首ではなくよろこびを素直に歌いて詠進とせむ


‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥


 平成最後の「歌会始」の入選作を私なりに何時ものように考察してみた。今回のお題は「光」。
 単に頭で考えるのとは違い、こうして文章にすることで見えなかったものが見えてくる。飽くまでも私の個人的な感想で、読み違うことがあるとも思うが、まあ、どんなコンペでも審査員の意見は大きく分かれるもの。ですから、他人の事はさて置いて感じたことを記録するつもりで書いておくとします。歌の分類は、今回はしないでおく。

☆ 土佐の海ぐいぐい撓ふ竿跳ねてそらに一本釣りの鰹が光る
 
  「ぐいぐい撓ふ竿跳ねて」がいい。鰹が掛かって引っ張り込
 む、それを想いっきり跳ね上げていく一連の様子が過不足なく描
 かれ、「そらに一本釣りの」が10音で大きく字余りになっている
 ことで、弧を描いてスローモーションのように釣られる鰹を目が
 追っていく。心憎いまでの技術の勝利。


                      
☆ 剪定の済みし葡萄の棚ごとに樹液光りて春めぐり来ぬ

  剪定、葡萄、樹液、畳みかけるように詠われて、巡りくる春が
 光り輝いて眼前に浮かんでくる。ストレートに素直に、何の脚色
 もなく提示されることで、読み手は安心して心を預けることが出
 来る。捻ったり異化された歌は好まれない。

 
                      
☆ 湿原に雲の切れ間は移りきて光りふくらむわたすげの絮(わた)

  情景描写が的確。時間の推移と視点が雲から湿原に移動してわ
 たすげがクローズアップされる。ふくらむのがわたすげの絮では
 なく「光りふくらむ」と先に置いたことで、光が強調された。

                  
    
☆ 大の字の交点にまづ点火され光の奔る五山送り火

  大の字の一か所の交点は金尾あるいは金輪と呼ばれ、そこに先
 ず火が入った後一斉に五方向に向けて火が点けられる。余分なこ
 とには一切触れず、この一点に焦点を当てたことで至近距離で見
 ている様な臨場感を産んでいる。松明の熱さまでが伝わってくる
 ようだ。
 
 
                      
☆ 分離機より光りて落ちる蜂蜜を指にからめて濃度確かむ

  毎年、同じ場所で採ったものでも天候や花の具合によって味も
 変わる。それを今年はどうかと確かめる、収穫の喜びの中の緊張
 の瞬間。「光りて落ちる蜂蜜」と呼応して、プロの厳しい目の輝
 きをも連想させる。情景が的確に表現されて動きが手に取る様に
 眼前に浮かぶ。

               
       
☆ 光てふ名を持つ男の人生を千年のちの生徒に語る
 
  源氏物語は架空の人物を描いているにも関わらず、千年の間受
 け継がれてきた事によってあたかも歴史上の人物のごとき存在
 感。IT社会の現代においてもなお語り継げることの驚きと喜
 び。それを感じながら教壇に立つ教師冥利を想う。あえて「名を
 持つ男の」と字余りにすることで、歌が流れてしまうのを避けて
 いる。


                     
☆ ぎりぎりに光落とせる会場にボストン帰りの春信を観る

  海外に流出してしまい、そのアメリカで大切にされている浮世
 絵が里帰りした。ギリギリまで照明を落として大切に扱われてい
 る今。価値を見出せなかった当時の日本人が見たらどう思うだろ
 うか。感慨深い思いで観ているが、浮世絵そのものには触れてい
 ない。

 
                     
☆ 無言になり原爆資料館を出できたる生徒を夏の光に放つ

 原爆の悲惨な状況を見て重苦しい気持ちで一杯の生徒たち。そん
 な生徒に幸せな光に満ちた今を実感し、「大切なのは繰り返さな
 い事」だと気付いてほしい先生。「夏の光に放つ」というストレ
 ートな表現でその思いを的確に表現してみせた。

 
                      
☆ 風光る相馬の海に高々と息を合はせて風車を組めり

 風力発電の風車を海岸に組み立てている。きらきらと輝く海に風
 を受け、発展の象徴として回り始める。組んでいる本人は地元出
 身なのだろう。誇らしげでもあり、喜びでもある。「光る」「高
 々」という言葉にその雰囲気が良く出ていて、こちらの心にも希
 望の情景が広がっていく。「相馬」の地名も効いている。

 
                       
☆ ペンライトの光の海に飛び込んで私は波の一つのしぶき
 
 初々しい青春の一頁。多分、初めての経験なのだろう。「光の海
 に飛び込む」にその感じがよく出ている。結句で「一つのしぶ
 き」と言い切ったことでその場の作者の喜びが良く出た。ペンラ
 イトの光が左右に動く中で青春を楽しんでいる様子が伝わってく
 る。

 平明で素直な中によく考えて作られているうたばかり。テクニックよりも情感と情動がいかに素直に外連なく描かれているかが評価のポイント。
 どの歌にも通底しているのは「よろこび」でしょうか。正月の歌として読んで晴れ晴れするような歌が求められるのは、趣旨から思えば当然の事かも知れません。

 次回のお題は「望」です。






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最終更新日  2019.05.30 08:56:49
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◆2006年5月8日よりスタートした「日歌」が千首を超えたのを機に、「游歌」とタイトルを変えて、2009年2月中旬より再スタートしました。
◆2011年1月2日からは、楽歌「TNK31」と改題しました。
◆2014年10月23日から「一日一首」と改題しました。
◆2016年5月8日より「気まぐれ短歌」と改題しました。
◆2017年10月10日より つれずれにつづる「みそひともじ」と心のさんぽに改題しました。
◆2019年6月6日より 「歌とこころと心のさんぽ」に改題しました。
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