♪ 何ものか襲いしものは見えざりしPTSD雨に濡れゆく
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昨夜は、腹立たしいのと奇怪なことが重なった妙な夜だった。床に就いてもなかなか寝付かれず、色んな事が頭に浮かんでは思いめぐらして眠くなるのを待っていた。うつらうつらしたころに1匹の蚊が羽音を立てながら、顔の周りを飛び回って顎やら額やらに止る。手で打ち殺そうとするも正確な位置が分からず、なかなか仕留められない。その内、手やら頬を刺し、その痒さに一層腹が立ってくる。
それでもいつの間にか寝付いたのか、再びの羽音に気付いて目が覚め、同じことの繰り返しが始まった。布団から出ていつのは手と顔と首だけなので、どうしたってあの悍ましい羽音が耳に入る。いくら叩いても殺せず、やったかと思うとしばらくしてまたあの羽音が顔に近づいてくる。
もう完全に目が覚めてしまった。このままでは寝られるはずはないので、電子香取を点けようと思うもどこに仕舞ってあるのか分からない。
2階の押し入れの小抽斗とか細々したものが入れてありそうなところを、思いつくまま探すが見つからない。良く眠っているカミさんを起こして訊こうとも思うが、不機嫌な声を聞きたくない。
そうか、1階か。たぶんあそこだろうと台所の押し入れの箱の中に、有った。見つけたぞ。これで寝られるようになるが、目が覚めてしまっているのでどうせすぐには眠れないだろう。酒を少し飲んで、リビングへ行ってテレビを点けてみる。
深夜の2時、誰が観ているのか知らないが、地上波もBSも全部のチャンネルが何かしらを放送している。10分ほど観てから寝室へ行き、電子香取をセット。やっと安眠の夜を過ごせることを喜びながら床に就いた。
うつらうつらしていると、遠くで猫の叫び声の様なものが聞こえた気がした。と、間もなく、ものすごい勢いで1階の猫用出入り口を駆け抜ける音がして、アランが2階へ駆け上がってきた。寝室の窓の外にでようと突進して来てガラス戸が閉まっているのに気づき、すんでのところでUターン。隣の部屋に駆け込んで、箪笥の上にダダっと跳び乗った。
一体何が有ったのか。暗い中で覗き込むと、体を上下させて息が上がっているのが見えた。怯えている。ちょっと見たところ別条はなさそうだ。苦手な寝不足になるのも困るので、一先ず布団に入った。一度だけ、蚊が耳元で今までとは違う大きな羽音を立てたが、それ以降は来なくなった。やれやれ。
朝になって、先に起きたカミさんが「あれ見た!?」と言う。ベッドの横に何が飛び散っているのを不思議がっていた。それがまさか血だとは思わず、猫のものとも思っていない。言われて、改めて見に行くと、血痕らしきものがしぶきの様に散っている。
「何だこれは!?」PCの椅子に移動して寝ていたアランを調べてみても、どこかに怪我をしている様子はうかがえない。痛いところがあるような素振りも無いが、怯えている様子が見て取れる。
箪笥の上にも血痕らしきものが付いている。
一体、何があって、どうしたというのだろう。あの時間はかなり雨が降っていた。そんな中で猫同士の喧嘩でもしたのか? 猫同士なら威嚇し合って唸り声を上げるのが普通だが、雨という事もあって聞えなかったのか。もし猫以外だったら、何に襲われたのか。ひょっとして、ハクビシンに突然襲いかかられたのか?
あの血痕らしきものはどこから出たものか? 今日一日は、幸い雨も降っているし外に出る気にもならないだろう。改めて見てみると、どうやら耳を怪我しているらしい。大した傷ではないようだが、やたらに毛が抜ける。今後、PTSDのような他の症状が出なければいいのだが、先ずは安静にしている必要がありそうだ。
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