♪ 希望とか呼ばれる前のものだろうペダルを踏めば見えた海景
フルートを吹いていた若いころに集めたLPを順に聴き直している。ヒュージョンはあまり好きになれなかったが、聴かず嫌いというのもどうかと思って買った一枚。あのクロスオーバー界の作、編曲者でキーボード奏者の実力者が、ラリー・ローゼン(元グルーシン・トリオのドラマー)という名プロジューサーと組んで、自信をもって世に出したアルバム。
1978年にニューヨークのスタジオで録音したもので、針を落とした瞬間にその音の良さに引き込まれていく。若干25歳のデイブ・バレンティンだが、当時のニューヨークでは「おそらく今日の音楽シーンではもっとも才能ゆたかな若いフルート奏者であり、怪物的な笛吹きであり、作曲家である」と、ラテン・ニューヨーク誌が絶賛している。
当然、ハービー・マンやヒューバート・ロウズを研究し、ジェレミー・スタイグの影響もうけて独自のスタイルを確立したというだけあって、その演奏はいかにも上手いし洗練されている。技巧はもちろんのこと、フルートの魅力を最大限に引き出し圧倒されるほどの音楽性にただただ聞き惚れてしまった。
音質が良いことがこんなに心地いいことかと、改めて録音技術の高さにしびれてしまった。グルーシンとローゼンが組んでCTIレコードからクロスオーバーをリリースしていたが、独自のGRP(Grusin、Rosen Production)を作り、このアルバムを自信をもって世に送り出しただけあって、すべてにおいてクオリティーの高さが発揮されている。
Amazonの中古レコードが4500~4800円ほどの値で売られている。
A面は彼のオリジナル2曲がリリカルに演奏される。バッハの「ブーレホ短調」なんかも取り上げられていて、途中からロック・ラテンのアレンジで乗りまくって、グルーシン・ワールドを存分に聴かせている。B面は打って変わってリズミカルなアップテンポで、ラテン、ロックがヒュージョンしてご機嫌に展開される。B面でガッカリするレコードも結構あるが、全8曲すべてでバレンティンのフルートを堪能できる。
流行りのヒュージョンとかいうレベルを超えて、70年代後半のジャズの神髄を余すことなく聴かせてくれる。このLPをロクに聴きもせず仕舞い込んでいたのはもったいなかった。買った当時は、50年代のモダン・ジャズこそが本当のジャズで、70年代に入ってからのメローとかヒュージョンとかが生ぬるく感じてあまり積極的に聴く気がしなかった。
でも、ジャズそのものが懐かしい今となり老人の域に達した自分が、逆に、新鮮な気分で聴けるようになっているのは大発見だ。
この年になって、再びフルートを買う気になったお陰でもある。
ディスカバー・ジャパンなんていう1970年に国鉄(JR)が始めたキャンペーンがあったが、1970年代は私の青春時代でもある。今まさに、私のディスカバー・ユース、ディスカバー・70sで、苦くて酸っぱい思い出とともにジャズが青春を蘇らせてくる。
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* ウクライナ応援の思いを込めて、背景を国旗の色にしています。