♪ 旅立ちの空晴れわたり朝つゆの光りに応えたるキャッツアイ
昨日、とうとうピピが死んだ。まったく何も口にしなくなり、水を飲むだけになってから7日目だった。1週間も、よく頑張った。
一昨日のこと。どうしても外に出たいらしい。まだ前脚がかろうじて踏ん張れるので、腰砕けしながら場所を移動するので、何時の寝ていたキッチンの網戸の前に連れて行ってやった。
そこなら風にも当たれるし外も見られる。そうして夜になり、就寝の前に様子を見にいくと、居ない。どこを探しても見つからない。もしやと思って外へ出ると、なんと、外で横になっている。猫の出入り口から出たらしい。あの状態でブロックまでの段と、地面までの段を下りたらしい。
そこまでして外に出たかったのかと驚き、その一心さに心を打たれた。やっぱりピピは人目に付かないところで最期を迎えたい思いが人一倍強いらしい。それならそのままにしてやろう、どうせ遠くには行けないはず。
玄関の開き戸の前に移動したのがガラス越しに見えたので、そこで最期を迎えるものと思って寝に着いた。
未明にカミさんが見に行くと、居ない。そんなこと思いもしなかった。植木の下や車の下、外出する時に必ず通った裏の通路を見てもいない。一体どこへ行ったのか。
他に探す場所もなく、表の道路に出てみると、居た。収集のためのゴミ置き場の裏のコンクリートの上に横たわっていた。てっきり死んでいるものと思って声を上げて近づくと、何と! 顔を上げたのでびっくり。雨に濡れてビショビショになっている。
車の後ろ、画面中央の猫用出入口から出て、左の道路の向こうの
電柱のところまで行っていた。
そのいたいけな姿を見て、哀れさと切なさ、けな気さといじらしさが入り混じる。慌てて抱えて家の中へ。タオルで拭いてやりながら私を呼んだ。びしょびしょになって、まだ息をしているピピに、「何でそんなに頑張るのぉ」涙を流しながら体をねんごろに拭いてやる。
これで、今日中に家の中で安心して死期を迎えられる。「看取ってやれるので却ってよかったねぇ」と、安心感も湧いてくる。そのうち、ピクピクと痙攣をし始めた。いよいよかと覚悟を決める。
やがてその痙攣も収まって穏やかになった。息を吹き返したように目も澄んでいて、復活したようにみえる。ウソみたいな不思議な姿に、ピピの生命力の強さに驚くばかり。口内炎が無ければもっと食べられてまだまだ元気でいられただろうに。腎臓病が恨めしい。
姉は、猫の腎臓病を治す研究の資金集めをしていた、クラウドファンティングに寄付したという。不治の病で猫を亡くしている人が多く、目標額はすぐに一杯になったらしい。
どこに寝かせるのがいいか、いろいろ検討してもピピの気持ちに沿える場所がない。とりあえず奥の物入れにしている部屋に入れ、戸を少しだけ開けて覗けるようにしてみた。しばらくすると、そこから出ようとして、動けない体で必死で入り口の方に移動してくる。まさか、今晩もまた外へ出ていくようなことはないだろう。そうは思うものの、様子を見ているとそんな気がしてくる。
もし昨日みたいに外へ出たら、安心して入り込める場所を作ってやらないと。思いを巡らしてもいい案が浮かばない。しかし、どう考えても昨日よりは体力は落ちているはず。もうそこまでの力は残ってはいないだろうということに落ち着いた。
今まで通り、目の届く床の上に寝かせておくことにした。午後になって、ソファーに上がるような仕草をしたらしい。抱えてやるとオシッコを漏らしたらしく、「ズボンが濡れちゃって」といいながら2階にいた私に声をかけてきた。
ああ元気なんだなぁと安心していた。この時、寝不足でやたらに眠く急に睡魔に襲われて、ベッドに横になって寝てしまった。どれほどの時間がたったのか分からないが、下から呼ぶ声がする。慌てて下りて行くと、「苦しがって大変なの」といいながら、首を反らせて苦痛の表情で呻いているピピを手で支えてやっている。目を見開いて悶絶の姿。ああもう駄目か。最後の最後なんだなぁと、覚悟を決める。見るのも辛さの極み。
しばらくするとその苦痛の表情は無くなり、大きく息を吐くシーンが続く。その息が間欠的になって、小さい痙攣の様に息を吐くだけになった。心臓がなかなか止まらないらしい。よほど強健な心臓らしい。早く楽にしてやりたいのに、心臓が憎らしい。
昔、80過ぎのお祖父さんが老衰で寝たきりになっていた時、孫たちが付き添っていて、寝ながら「づつない、づつない」と言っていた。農業で鍛えられた心臓が、衰弱した体に逆らうように動き続けるためらしかった。孫が口喧嘩をしていると「まあ置け!」と叱責された。親父は何も言えない人だったのでその威厳がうらやましくもあった。最期まで、新聞を隅から隅まで読んでいるような人だった。
20分ほど死線をさまよい、ピピはとうとう静かに息を引き取った。よく頑張った。立派だった。最後まで紳士だった。おおらかな雄猫だった。思い出はたくさんあるが、とても穏やかでやさしい猫だったという印象が強い。
昨日は15時までの受付は過ぎていたので、今日、斎場に運ぶ予定でいる。悲しいけれど、正直なところホッとしている。「ピピよ、猫の恩返しが欲しいぞ」と、いつも背中をポンポンしながら呟いたものだ。これでピピも天国にいって、歴代の猫たちと一緒に楽しく過ごせることでしょう。
一気に書いて、推敲はしていない。誤字脱字があるかもしれないが、ピピに免じて許してもらおう。
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* ウクライナ応援の思いを込めて、背景を国旗の色にしています。