「濡れ燕 くれない権八」・・・(4)
三度目の巡り合い権八の居所を突き止め、稲田兄弟は、見守っていてくれればよいと蔵屋敷の侍達と権八の帰りを真葛ガ原で待ち伏せています。比呂恵を送り、真葛ガ原のはずれにある世話になっている寺へ帰る途中、権八は殺気を覚え足を止めます。 暗闇から姿を現し、稲田兄弟達は権八を囲みます。権八 「貴公ら、なにか拙者に誤解を」と言う権八に、つかさず富士馬が言います。富士馬「いうな紅権八、姫路において貴様の剣に倒れた稲田辰之進の弟富士馬だ」権八がはっと驚きます。そして、もう一人の方に目を向けます。辰馬 「富士馬の兄、辰馬だ」 富士馬が続けて言います。富士馬「兄辰之進、並びに棟方鉄心先生の恨みをはらしてくれる。さ、抜け」権八 「なに、棟方先生を私が・・」 「とぼけるな、尋常に勝負せい」と言われた権八は権八 「あのときの手ごたえの一刀が、棟方先生であったとは・・」と悲しみにむせびます。斬りこんできた富士馬の剣をよけ、刀を抜こうとしましたが思い留まり権八 「待て・・待ってくれ」卑怯だ抜けといわれます。 権八 「貴公の兄は、拙者を闇討ちにしようとしたのだ、拙者が仕掛けた決闘では ない」と釈明しますが、事の起こりは知らないが、兄は権八のその刀で殺された、と富士馬が言い権八に斬りこみ、つぎに辰馬が斬りこみますが、手ごわいと見た蔵屋敷の侍達が加担してきます。こうなっては権八も刀を抜きます。 しかし、無益な殺生は好まない権八は、彼らから逃れるより術がなかったのです。富士馬達が血眼になって探し行き過ぎたのを確かめた権八。権八 「あの一刀が、棟方先生を・・」 苦しい悲しみが込み上げ権八は男泣きをするのです。 江戸へ向かっている権八を比呂恵達も追います。その道中、富士馬と辰馬兄弟はそれぞれに比呂恵を愛し始めていました。二人の言い争いが自分のことが原因と知った比呂恵は、夜中宿をひとり飛び出していきます。比呂恵さん・・比呂恵さん・・」と呼びながら夜道を探し、水車小屋の前を通り過ぎていく稲田兄弟がいます。その様子を何事かと水車小屋から出て来たのは、紅権八でした。「比呂恵さん」と探す二人の侍は権八を仇と狙ってきた者達だと・・何かが心にかかります。行くてもなく宿を出た比呂恵は水車小屋のところにやって来ていました。外に出ていた権八が、後ろを振り返った時、目に入ってきたのは、比呂恵の姿でした。権八に思いを寄せ始めていた比呂恵は、思いがけないところでの三度目の巡りあいになります。権八もあった時から愛おしく思った比呂恵との再会に嬉しさが顔に出ています。しかし・・・その二人の嬉しさは・・・。 続きます。