清水港に来た男・・・(6)
吉良の仁吉の物語よ翌朝、落ち着かない様子で六助が玄関先の掃除をしていますと、「あんた、ちょいと」と長火鉢に座ったおすきが呼ぶ声に、びくびくして中にはいっていきます。おすきは、六助を近くに呼ぶと、二階の図々しい男をいつまで置いておくつもりだといってきました。はっきりしない六助に、しびれをきらし、「どうしてもいやだから、今日限り出て行ってもらって」というおすきに六助が「それは可哀想、夕べあれだけご馳走になって、ご馳走の手前だけでも・・・」と、・・・そこへ鰻屋、酒屋、天ぷら屋が、夕べの勘定を取りに来たのです。兄貴が払ったはずだと、二階の政吉を呼びます。呼ばれた政吉は、政吉 「どうだい、ええ、よく似合うだろう」と六助の仕立て下ろしの着物を着て階段を気分よく下りてきます。 金を取りに来てるといわれ、小僧達をみて、政吉 「なんでい、もう来やがったかい。・・・おう、六・すまねえが、今こまけ のねえから、おめえ頼むわ」その言葉に、「うん」といい六助はおすきに頼もうとしたとき、おすきが政吉に言います。おすき「ちょいと、大きいのでもいいんですよ」政吉は、おすきの言ったその言葉に、「おうっ」といい、おすきにいいはじめます。 政吉 「おかみさん、無理言っちゃあいけませんよ。えっ、大きい金があるぐれえ なら、こんな汚ねえうちにぁ、泊まりゃあしませんよ」 「大きいのも、小さいのもないのか」と聞く六助に、「ないよ」と答える政吉。そこへ六助が「ないって」とおすきにいったから大変・・・六助に向かって「馬鹿野郎」の声が・・・そんなことにはおかまいなしの政吉は政吉「払ってやれよ」と、他人事のようにいう政吉に「ちきしょう」と腹立たしさを覚えるおすきですが、ここのところは、払うから後で取りに来てくれ、とその場は落着します。 おすきは、草鞋銭を六助に渡し、政吉に今からすぐに出て行ってもらうようにしてくれといわれ、素直に、その草鞋銭を政吉に渡そうとすると政吉「おう、六、けえしな」 そういわれ、おすきの方を向くと、「渡すの」と板ばさみの六助は、六助 「折角うちの嫁さんがゆうてるのに・・・」と、政吉に差し出すと、政吉 「何だと」六助 「もろときな」政吉 「おう、六・・・こんな目腐れ金で、おめえはこの俺を追い出す気か。・・ ちきしょう、・・・ひでえぜ、六・・・」 政吉の芝居にほだされてしまった六助は、「出てってもらって」というおすきに、「泣いてんのやで」とお願いすると、おすき「どうしても、あの人を出せないというなら、あたしが出て行く」と言い出しました。 それを聞いた政吉はニコニコして六助にいいます。政吉「おう六六、いいじゃねえか、出てってもうじゃねえかよ」そう いう政吉を、六助は「あかんねんて・・」と止めようとしますが、「黙ってろってんだ」とそれを振り切り、おすきに向かって啖呵を切りはじめます。 政吉 「おう、おかみさんよう」おすき「なにさ」政吉 「おう、おめえ今出て行くといったろう、ああ、出て行ってもらおうじゃねえか」 止める六助をふりきり、政吉 「でいいち、おれはなあ、かかあ殿下ってえのは気に入らねえんだ。とっと と出て行ってもらいましょう」六助が止めるのを見て、政吉は六助に腹がたったようです。政吉 「馬鹿だなあ、おめえも、おう、六、いいか、よーく考えてみな、女房のか けがえはいくらでもあるが、本当の友達ってえのは、一生に一人か二人の もんだ。ええ、ことにやくざ仲間の義理ってものは、(そういいながら、 六助の手から草鞋銭を取り、自分の懐にいれるのです)それそれそれ、吉 良の仁吉の物語よ、おめえ、知ってるか」六助 「知ってる」 政吉 「きょうでい分のために、女房を離縁して、荒神山へ斬り込んだ、あの心意 気だ。・・・おい、・・・♪てめえもなりたや、仁吉のように、義理と人 情のこの世界、・・・ってんだ。おめえ分かるか」六助 「分かってる」政吉 「どうすんだ、六」すると、政吉の懐から草鞋銭を取り出し、それをおすきの方に差し出し、六助 「おすきさん、長いことお世話になりました」と、深々と頭を下げる六助を見て、政吉は「あっ、・・おい、どうしたんだ、六」と、六助は政吉に「兄貴、行こう」と、玄関外へと促します。 政吉 「なにを・・・、行こうって、おめえ・・・何処へ」六助 「そやさかい、さっきから、あかんあかんゆうてたやろう。・・・ここは な、わしのうちと違うねん」政吉 「・・えっ?」六助は、おすきの紐だったというのです。驚いたのは政吉です、「紐?・・・あいた・・・・あいたたたた」 続きます。