清水港に来た男・・・(13)
くそやくざと仁義ぼけは、でいきれいだ政吉が企てた芝居以後、次郎長の様子が変わって、喧嘩法度の禁止令が出たことは、清水の町中にひろがり、清水一家の三下の六助や熊造達にとっても影響がありました。酒を酌み交わし不満をぶちまけているところへ、鳶の山の為五郎一家が、新選組崩れの用心棒を連れて、飲み屋に入って来ました。そして、為五郎のところの者が、浪人に、次郎長とか八百長とかいう、独活の大木に止まっている虫けらがいるが辛抱願いますといって大笑いするのを辛抱していたが、酒を飲んだ勢いで、熊造が我慢できず相手に向かっていき浪人に峰内にされます。熊造は、次郎長親分を悪くいわれ口惜しさのため、深夜たった一人で、為五郎一家に殴り込みをかけ斬られてしまいます。そのとき、政吉は目を覚まし、寝床に熊造の姿がないので、小さな声で「熊・・・」と呼んで、どうも気になり、起きて土間の方に探しに行き、また「熊・・・」と囁いたとき、何度も戸を叩くので「へっ、今開けますよ」といい開けると「独活の大木にたかる、ドモ虫一匹献上」と書かれた紙を背中に突き刺された、熊造の死体が倒れ込みます。熊造の遺体のまわりに集まっている子分達を前に、次郎長の言葉は冷たかったのです。「ばか・・・俺のいいつけに背いて勝手なまねする。俺はな、一度いったことはこんりんざい通すおとこだ。おめえ達、この死骸を表に放り出せ」・・次郎長の様子に睨むような視線をむける政吉がいました。 長屋の一室で熊造の通夜は静かに行われています。政吉とお雪は・・・川をみつめる政吉に、お雪が話かけていきます。お雪「ねえ、政吉、・・・おまえと初めて会ったのは、ここだったわねえ」政吉「そうでしたねえ」お雪「ほんとうのことゆうわ・・・あたい・・・おまえが好きよ・・・好きな の。・・・惚れてるわ」政吉「お雪さん」お雪「うん」政吉「今さら、おめえさんに惚れられたって」というと、政吉は柳の木の下に移動し、政吉「死んじまや、もともこうもねえや」 お雪「そうね、・・・でも、お願い、行ってほしいの」政吉「いやだ」 お雪「だって、・・・みんな、お前が弱いとも知らないで、ども熊の仕返しに、為 五郎んちへ殴り込みをかけに行ってほしがっているのよ。このままじゃ、ど も熊があんまり、かわいそうじゃない、・・・ねえ、・・・あたいも、 ・・・ついていくから」 政吉は、そういうお雪の方を向くと、政吉「おめえさんも、死ぬ気か」その言葉に、一瞬お雪はびくっとした表情になりますが、お雪「うん、・・・おまえと・・・一緒なら」 政吉は、そういうお雪をじっと長く見つめていましたが、 政吉「うれしいな・・・といいてえが、俺はおめえさんがいうような、くそやくざ と仁義ぼけは、でいきれいだ」お雪「えっ」政吉「断る」そういうと、お雪の方には振り向きもせず、足早でいってしまいます。お雪「政吉のばか、・・・おまえなんか、だっきらい」 続きます。