先日ちょっと書きました出来事・・・1958年5月中旬、橋蔵さまにとって、これで時代劇俳優として刀がにぎることができるかどうか、心配な怪我という事故がありました。そのため、「花笠若衆」と掛け持ちで入っていた「若君千両傘」の撮影は中断、6月いっぱいは怪我の療養になりました。(・・といっても雑誌関係の写真撮りや記事の取材は休ませてはくれませんでした。手に包帯姿で載っていましたよ) 
何はともあれ、良かったです。あの素晴らしい、誰にも真似のできない立回りがこの後も時代劇ファンを楽しませてくださり、指の先までが生きている素晴らしい日本舞踊も見せていただけたのですもの。
そして7月1日から再開になりキューピッチで撮影が行われました。7月初日の撮影は、賭場へ行き城太郎が勝って帰ろうとやくざどもを投げ飛ばすところ。しばらくぶりで、橋蔵さま張り切りすぎて治ったばかりの手を角にぶつけてしまうということがありました。

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さあ、元気になった橋蔵さまの、楽しい「若君千両傘」の始まりといたしましょう。
この作品では、花園ひろみさんが「旅笠道中」に次いで相手役に、現代っ子のお春は花園さんが、このお春は花園さんにはまあ合っているようですね。新しい橋蔵さまの相手役の一人として見込まれた?わけですが、この後数本相手役を勤めましたが、欠点は何か色気を感じないところでしょうか。橋蔵さま主演映画では初めて里見浩太郎さんが一緒です。この頃から、お笑いで当時人気のある方達が出てくるようになりました。この作品では漫才コンビ夢路いとし喜味こいしさんが隣通しで犬猿の仲の主人役で、その一方の娘で里見浩太郎さんの恋人役で現在国会議員の山東昭子さんが出ています。また、田中春夫さんが東映作品にも出るようになって、橋蔵さまとは初めての顔合わせになります。橋蔵さまの歯切れのよい江戸弁と、田中さんの上方弁。この二人のやりとりが楽しい雰囲気を作り出しています。

監督は沢島忠さん。橋蔵さまとは初めての作品になり、娯楽時代劇の良さが数多く取り入れられています。
当時の若い女性の様子を映画にも取り入れ”いかす”という言葉を使ったり、城太郎とお春の話す感じも現代の若者がごく自然にしゃべっているよう、日傘は若い女性の華やかさを、この作品の重要な小道具になっています。
ファースト・シーンとラスト・シーンが城太郎とお春の相合傘というのも面白い・・・橋蔵さまもこの場面はやっていても心がウキウキしたそうです。
気品とユーモアと江戸っ子橋蔵さまの魅力100%のライト・コメディで、凛々しい侍と粋な町人姿の両方を楽しめる作品です。
橋蔵さまは”しけ”(垂らす本数が多くなると色っぽくなりますの)が本当にお似合いです。「よぉ、色男!!惚れ惚れしますねぇ。」
それに、橋蔵さまの城太郎が可愛い、何回見ても”にゃっ”としてしまいます。29才の橋蔵さまが存分に楽しめます。
料亭に下働きでの騒動、下男として入った商家での話が軽快に描かれ、そこに城太郎とお春の恋模様が清々しく描かれていく中に、武士の世界で起こっている事柄を取り交ぜ、城太郎は武士を捨ててはいなかったというところできちんと締めていますので、やはり東映時代劇、侍である城太郎も忘れてはいない立回りがあり、最後は最初出会った場所で、城太郎とお春が仲良く・・という終わり方をとりっています。
そして、遊び心、ファンへのサプライズも忘れていません。初めてもらったお給料でお春にプレゼントする絵日傘に橋蔵さまの芸紋の「違い柏」がデザインされています。ファンの方はすぐに気づいたはずです。

​​​​◆1958年7月30日封切　「若君千両傘」
　　
本田城太郎忠昌　　大川橋蔵
祐吉　　　　　　　里見浩太朗
将軍家斉　　　　　尾上鯉之助
お春　　　　　　　花園ひろみ
お菊　　　　　　　山東昭子
スリの女お絹　　　千原しのぶ
有村丈太郎　　　　片岡栄二郎
兄本田多忠郎　　　徳大寺伸
松前屋虎蔵　　　　夢路いとし
浪花屋重兵衛　　　喜味こいし
落合主水　　　　　阿部九州男
平賀監物　　　　　加賀邦男
父本田多門忠義　　香川良介
上総屋惣兵衛　　　高松錦之助
咳頻軒二如仙　　　大河内傳次郎
出しゃばりの新吉　田中春男
伊佐新次　　　　　田崎潤

それはあいにくだ、無一文に近いぞ

毎日を退屈に過ごしている本田家の次男坊城太郎に見合いの話が持ち上がるが、友人のために養子縁組を断り、堅苦しい武士を嫌って家を飛び出し、風来坊の城太郎として、ふと知りあった新吉と出会いから巻き起こす市井に綴る騒動記で、明朗大川橋蔵の魅力を充分に生かした、剣と恋、笑いと涙の青春時代劇です。
でしゃばりの新吉や易者の如仙とのやり取で、橋蔵さま扮する城太郎の二枚目半を、ふんだんに見せています。旗本の次男坊城太郎が、町人姿で関わる人々との中で武士としても成長してゆく物語です。
品川宿のはずれの海沿いの道を、何かあったのでしょうか、十数騎の騎馬が砂煙をあげて掛けぬけていきます。そのあわただしい道端に、絵日傘をさして腰掛け、のんびりしている二人がいます。
絵日傘から騎馬が行き過ぎたのを眺めながら、にっこり笑う若侍がいます​。(これがこの物語の主人公本田城太郎忠昌です)​​​　
​​​(詳しいことはあとにまわして)​
　
城太郎「お蔭で助かった、手間をとらせてすまなかったな、ありがとう」
城太郎が礼を言い急いで行こうとしたとき、絵日傘の持ち主の町娘が呼び止めます。
 
ふとしたことからの若侍と町娘の語らいを聞いてみましょう。
お春　「あの、お侍さん、また江戸へ戻るの」​​

​​​​​(この町娘のお春がこれから城太郎と関わる大切な人となります)​　
城太郎「ええっ?、・・だってえ、あれでは江戸から一歩も出られないよ」​​
  
お春 「ぼんやり海見てたら、いきなり飛び込んでくるんですもの、びっくりし
　　　ちゃったわ・・・うっふふん、・・でも、相合傘っていいものねえ」
​(美男の城太郎に、一目惚れ・・お春が抱いた淡い恋心です)​​​

　
城太郎「​ええっ?​・・」
城太郎にはお春が何を言っているのか分かっていません。​(だって、そう言うつもりで絵日傘に入ったのではないのですもの)​

​​​​​​
お春　「一体何で追われてるの?、悪いことしたの?」
城太郎「さあ、・・悪いことかもしれんな」​ (明るく軽い感じで言います)​
と言って歩きだした城太郎を引き止めて、お春は、この道は危ないからいい道を教えてあげるというと、城太郎を引っ張っていき、
お春　「ここを真直ぐ行くと、お花御殿へ出るのよ」
城太郎「いやあ、かたじけない」
お春　「捕まらないようにね」
城太郎「うん」​ (小さい子が分かったというような感じで、可愛く言います)​
その道を急ぎ足で行きだすと、お春の城太郎に会った名残を惜しむように「お侍さん」と呼び止める声に、城太郎が振り向きますと、

お春　「やたらに女の日傘に飛び込んじゃだめよ・・・うっふふふ、さよなら～​」(作品を見る機会がありますときは、注意して聞いていてくださいね。お春のこの「さよなら」がこの先も何回か出てきますよ)​​
城太郎「さよなら」​
　
明るく手をふるお春に答え手を振り、さあ、道を急ごうとしている城太郎の前に突然飛び出して行く手をはばむ遊び人風の男がからんで来ます。​
新吉　「旦那」
城太郎「誰だ!」　びっくりします。
　
出しゃばりの新吉というものだと言い、城太郎にこう言い寄ってくるのです。
新吉　「今追うて行った侍に、旦那の居所を教えよか、 それとも旦那の味方をし
　　　　たほうがいいか、このサイコロに聞いてみたんですわ」
と、サイコロを手のひらの上で転がして見せます。城太郎はそのサイコロを覗きこみ、そして厳しい顔つきで新吉を睨みます。​​

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新吉　「そ、そんな怖い顔せんときなはれって、え。旦那の味方をしたほうが得や
　　　　て、こいつが言うてまんがな」
それを聞いていた城太郎が、突然笑い出します。
城太郎「あっはははっは、はっはっは、・・それは生憎だ、無一文に近いぞ」​​
　
　　　　　　　　　　　　　　　　　
新吉にそう言うと、ふと立ち止まり、何を思いついたのか、ニコッとして新吉を見て、
城太郎「おい、でしゃばり、裸になれ」
新吉　「ええっー、裸?」​​
　
城太郎は、何を思いついたのでしょうか。本田城太郎なかなか面白そうな若侍ですが、何故、騎馬に追われていたのでしょう。
出しゃばりの新吉という、これまたけったいな男の素直さが気に入ったようですが、城太郎は何をする気なのでしょう。これから、町に飛び出した城太郎の旅?が始まります。

続きます。​