任侠清水港・・・(1)
東映のオールスター映画の次郎長もの第一作は、「任侠清水港」になります。やはり清水一家、次郎長ものとなれば、時代劇ファンはここを待っていたでしょう。この作品は、まさにそこのところを千恵蔵御大の次郎長と錦之助さんの森の石松で描いています。右太衛門御大の大前田は出入りの仲裁と次郎長の生き方に転機を与える役として顔を見せます。当時の序列なのでしょうか、配役でどうしてか右太衛門御大がトップで出てきます。(順番はどうでもよいことですけれど、他の作品でもいえることですけれど、いやはや大変なことです)千恵蔵御大も作品をよいものにと力が入っていたようです。石松の演技を錦之助さんに細かくアドバイスしていたようです。石松は片目で三枚目、どのようにしたら面白味がでるか、撮影を進めながら・・監督も苦心したようです。 その場面の一つが、三五郎を二階に引っ張っていって好きな女おしのの事を聞くところです。ここは錦之助さんと橋蔵さま二人だけの場面になります。東映時代劇ファンにとって期待すべきところです。二人の顔合わせということでセットは取材陣で熱気を帯び、千恵蔵御大が見守っていたので緊張感もありました。橋蔵さまは先にセット入り、映画界入り先輩の錦之助さんを待ちます。橋蔵さまにっこり笑って会釈。二人は歌舞伎の子役時代からの友達、若手歌舞伎では互いに競い合った仲です。橋蔵さまは1955年に映画界入りして、この一年で人気がめきめき上昇、錦之助さんに継ぐスターとして頭角をあらわしてきていました。芸の上で、二人はよき友・よきライバルでした。東映時代劇の黄金時代があったのも、よきライバル同志の看板スターが いたからでしょう。いつの世にも 良い意味でのライバルは必要ですね。 ◆第18作品目 1957年1月封切 「任侠清水港」大前田の英五郎 市川右右衛門森の石松 中村錦之助増川の仙右衛門 伏見扇太郎追分の三五郎 大川橋蔵おしの 高千穂ひづるおたみ 千原しのぶおせん 長谷川裕見子お蝶 花柳小菊保下田の久六 進藤英太郎小幡の新太 片岡栄二郎大政 原健策猿屋の勘助 東野英治郎都鳥の吉兵衛 山縣勲黒駒の勝蔵 月形龍之介小松村の七五郎 東千代之介巾下の長兵衛 大友柳太朗おいらはお人よしだ、おめえは果報者だぜ 本編は若くして遊侠無頼の群れに投じ、海道一の親分とうたわれた次郎長こと山本長五郎が、暴力否定こそ真の任侠の道であると悟るに至る精神転換の一断面を描くものである。という、前説が流れて始まります。富士のお山を後にして街道を行く、縞の合羽に三度笠といういでたちの次郎長一行を出迎えるために、小幡の新太が待っています。万松寺の和尚を斬り二百両を奪い火付けをして、十手を預かって捕えに行った森の五郎親分も殺して逃げた山梨の国太郎が、名前を変えて猿屋の勘助のところに草鞋を抜いていることが分かります。五郎親分の身内の小幡の新太と縁のつながりがある石松二人に大政を名代としてつけ、勘助のところに周太郎の引き渡しを願いに行かせますが、その時は、本人と分かったら必ず渡すと勘助と約束をします。しかし、勘助はちょうど来ていた黒駒の勝蔵にそそのかされ、次郎長には周太郎ではないと子分に言いに行かせます。「こいつはとんだ目違えだった」と次郎長は怒り、周太郎が逃げるのをおさえろ、と言います。勘助と周太郎を斬り、凶状持ちになった次郎長一行は、しばらくは清水に帰らず旅へ出ることになりました。そこで困ったのは石松です。好きなおしののことが気がかりでなりません。次郎長一行は巾下の長兵衛のところに草鞋を脱ぎ世話になっています。貧乏ながら手厚いもてなしを受けています。長兵衛は次郎長一行をもてなすのに借金を頼みに保下田の久六のところへ行きますが、久六は今では黒駒の勝蔵と縁続きと断ります。長兵衛の女房おせんが隠れるように出て行ったのを見た大政が米櫃を覗いたら空っぽ・・みんなから集めたお金をそっと置きます。そんな折、「御免なさいやし・・御免なさいやし」追分の三五郎がやってきました。(橋蔵さま、初めての本格的やくざ姿、清々しくカッコいいですね。惚れ惚れしてしまいます。)二階にいたみんなが、清水からやってきた三五郎をうれしそうに出迎えます。三五郎は仙右衛門と一緒に次郎長の女房お蝶のお伴をしてきたのですが、お蝶の身体の具合が悪いようです。(なかなか清水へ帰れず、女に会いたくてウズウズしている。そんな時、清水から追分の三五郎がやって来たのですから、石松は待っていましたとばかり、三五郎におしのの様子を尋ねます。三枚目の森の石松と二枚目の追分の三五郎の場面となります動の錦之助・静の橋蔵といわれた二人の初めての顔合わせ。主役石松の演技を受け止めての三五郎の演技となるわけです。しばらくはスクリーンで初の二人の様子をお楽しみください) 石松が三五郎に話があると言って二階に引っ張っていきます。おしのがどうしているか三五郎から早く様子を聞きたいのです。石松 「おめえ、本当にしばらくだったな、おい」三五郎を座らせると、石松 「おい、追分宿に変わったことはなかったかい。おい」三五郎「え、えぇ、別に」石松 「・・そうかい・・で、あの女どうしてるよ、おい」三五郎「あの女、といいやすと」石松 「じれってぇな、おめえは。それ、おめえと一緒に飲みに行ったよぅ、あの 青木屋の」三五郎「あぁ、おしのですかい」石松 「そうだよ、そうだよ。そのおしのだが、どうしているよ、おい」 三五郎「えっ、え、元気で毎日つとめてますよ」 三五郎「あっ、石さんにくれぐれもよろしくってぇことでした」 石松 「何だって、おぃ、おしのがこの俺にくれぐれもよろしく」三五郎「えぇ」石松 「おしのがこのおれに」三五郎「えぇ」これ以上の喜びはないという顔をして、開いている右目もつぶりおしのが言っている様子を思い浮かべるように石松「うぅぅ~、そうかい・・そうかい。うぅ~ん、可愛いやつだなぁ」と言って、身を振るわせ、幸せそうな気分になっています。(それを見ていて、三五郎はこれはまずいというような様子です) 石松の様子を見ていて、隠しておくのが気まずくなったのか三五郎は、 三五郎「石さん、・・・その、おしののことですが・・」 石松 「えっ、そのおしのの事で、なんでい」三五郎「どうか祝ってやっておくんねぇ、あっしとおしのは夫婦約束をいたしや した」石松 「えぇっ、・・何だってぇ・・」三五郎「えっ、石さんに相談してからと思ったんですがねえ、おしのがせっつく もんですから」 石松「・・それとなにかい、おぃ、・・おめえたちは、前々から出来ていたの かい」 三五郎「違いますよ、おっ、おしのが心中打ち明けたのは、石さんが甲州へ出かけ た後なんで」 石松、何の言葉もでず、悔しい思いでしたが、石松「うはぁっはっはっはっ、うはぁっはっはっはっ、はっ~は、おいらお人好し だ・・・おめえは果報者だぜ」お蝶が清水から出て来たのは、甲州の代官所の手入れがあるということで、清水に残っているお蝶達を捕まえれば、情に負けて次郎長が名乗って出るかも知れないと思っているからでした。お金の工面が出来ず困っている長兵衛は、次郎長と若い衆の気持ちを有難く受けるのでした。お蝶が倒れてしまい病状がよくありません。その夜のこと、追分の三五郎と増川の仙右衛門の二人が寝床を抜け出し出かけていきます。気配を感じた次郎長はその後をつけます。長兵衛もこの夜更けに・・と不思議がっていると、次に大政が寝床を抜けて旅支度をして出て行くのを見ます。大政は、お蝶の病を治すための金子を調達に行ってくると小政に言います。それを聞いていた長兵衛は「俺に才覚がねえために、とんだ苦労をかけてすまねえが、間違っても保下田の久六のところへは行くんじゃねえぜ」と言うのです。 久六は義理知らず、人でなし、清水一家の名にかけても久六には頭をさげるんじゃない、といいす。次郎長が後をつけた三五郎と仙右衛門はお蝶の病気が治るように滝に打たれ祈っていました。(肌を刺す氷のような滝に打たれ、ひたすらお蝶の病気全快を祈るのです)(左側が橋蔵さまです) 二人をつけてきた次郎長は、祈りながら滝に打たれている二人を見て しみじみと言うのです。次郎長「おめえたちの真心で、病気は治るだろう。治らなきゃお蝶、罰当たりだ」 元気になったお蝶を連れて、旅立つ次郎長一行の姿がありました。紬の文吉のところに草鞋を脱いで、次郎長は代官所からお咎めがないことを聞き、清水へ帰ろうと言っているところへ、長兵衛の女房おせんと清吉がやってきました。次郎長たちが発った後、保下田の久六が来て、次郎長の件で奉行所に顔を立てなくてはいけないと言って連れて行った、そして昨日久六に責め殺されて戻ってきたというのです。 雨上がりの夜、次郎長は一人で久六を叩き斬ります。久六が次郎長に殺されたという知らせが、黒駒の勝蔵に届きます。このままにしておいては、東海道は次郎長のものになってしまうと、勝蔵は次郎長に左封じの手紙を叩きつけます。富士川千畳河原でイチかバチかの勝負をしたいというのです。 続きます。 滝に打たれる場面ですが・・・12月の寒い時期でした。数カットを撮ったわけですが、滝つぼから出てきた時は、二人ともすっかり冷え切ってしまっていました。そういえば、三五郎が滝つぼに飛び込むシーンも考えていたようですが。橋蔵さま3丈の高さから飛び込むシーンの撮影で、なかなかOKにならず、飛び込んでは焚火にあたりなどして5時間かかったそうです。(念ながら使われなかったのですが)・・。さすがの橋蔵さまもすっかりふるえあがってしまいました。見ていた雑誌記者が宿で「清水の舞台から飛び降りるような気持だったでしょう」と聞きますと、橋蔵さまはニッコリ笑って「すっかり冷えちゃいましてね、風呂へ入ったら、ジュッといって煙がでましたよ」・・ですって。