復讐侠艶録・・・②
女にも見まほしい美男島津家も田沼意次に頭をさげた、田沼の言いなりにならないのは水戸家だけになったというのです。田沼に屈服するわけにはいかない水戸中納言治保でした。「入門控」には水戸家の家臣の名が多く書かれているので、水戸家に累のおよばぬよう未然に取替さねばならないのです。そのため、越坂は妹文江を田沼の屋敷に住みこませ、自分も浪人になって機会を狙っているのですが・・・まだ・・。水戸家に傷がつくかつなぬかの境、一日も早く「入門控」を手に入れてほしい、「入門控」が戻れば田沼を叩き潰せる・・と治保に頼まれる越坂です。山縣大八が田沼に追われていることを案じる治保に、越坂は大八のことは少し知っていることもあるので安心してほしいと言います。口入屋のお才のところに、徳雲という坊主がやって来ていました。お才 「錦さん、どうやら運が向いてきたようですよ。実はね、今の坊主は上野 凌雲院の使いで、今までいた小姓が暇を取ったので、一人世話をして くれって言ってきたんですよ」 錦 「それで」お才 「寺小姓といっても、実は女を男に仕立て世間をごまかしてるんですが、 凌雲院は寺の格も高いし、それに田沼とは訪ねたり訪ねられたりしている 特別の間柄とか・・だから、お前さんを小姓に仕立てて連れていく手も あるんですがね」小兵ヱ「こりゃうめえや、棚から牡丹餅だ。住み込んでしまえば田沼に近づく ことができますよ」(ここまでで、浪人の素性、田沼の屋敷で探しものをしていた腰元の素性が分かりました。そして浪人の越坂は、大八を何となく分かっている・・うぅん、だから舟に乗っている錦に向けて、人相書を投げたのでしょうか。)錦を小姓として連れていくことになりました。「じゃ、気をつけて」お才と錦を見送る小兵ヱです。小姓として、お才と凌雲院へ向かう錦です。小兵ヱ錦に見惚れ「どっから見ても女だなぁ」凌雲院の門外で、越坂と妹文江が人目を気にしながら話しています。文江は狐の面を被った男が思わぬ時に現れ助けられた、と越坂に話します。深夜にただ一人田沼の居間に忍び寄るとは大胆不敵な奴だ。越坂「・・・もしや・・・」 (山縣大八ではないか?・・と思ってのでしょうか)お才と小姓姿の錦は凌雲院に向かう途中、酔った侍達に絡まれ道を塞がれてしまいます。侍が言います。 「こら小姓、なかなか艶やかじゃのう。察するところ、その方は女であろう」 酒の酌に連れていくと錦の腕を取った時、錦 「御無体な、何をなさいます」(橋蔵さまの女に扮した女としての初めての声をここで聞くことができました。女形時代の橋蔵さまを頭の中でイメージして・・。小姓としてですから薄い化粧ですが、これだけ美しいのですから、ぽーと見惚れるだけです。)侍達に手向かいする気かと囲まれ、錦が何とか逃れようとしている所へ、越坂「待て、手荒なことはお止めなさい」 助けに入ります。 (本当はこんな侍達を蹴散らすことは錦には簡単なことですが、何しろ女になっているのですから・・振舞いはしとやかに・・ですね。錦さん、流石です。ここでの動きも女です。)お才「ありがとうございました。お蔭様で、あたくしは柳橋に口入屋を 営んでおりますお才と申します。この方は、錦と申し・・・」 お才はここまで言った時、越坂が錦をじっと見つめ探っているような視線に言葉が出なくなります。越坂「これからいずれへ」お才「はい、凌雲院様へこの方をご案内してまいります」越坂、錦に「気をつけていかれよ」と言って立ち去るのです。さあ、ここから暫くは、橋蔵さまの女形時代を彷彿させる場面になります。錦は男が女装ですから、女より女っぽい仕草が随所に見られます。女性も勉強しないといけません。仕草がたおやかなのですもの。手先までの柔らかな動き、腰の落し方、立ち居振る舞い、と全身で女を表現できているのです。六代目からの教えが身についていて、流石、歌舞伎界の将来を有望されていた若手人気女形だったということが分かります。浄寛僧正のところに案内されます。浄寛「頼んでおいた小姓か」お才「はい、さようでございます。お気に召しますかどうか存じませぬが、錦と申します」錦、浄寛に挨拶をする。 (どうですか、色っぽいと思いませんか。このような目で挨拶されたら、あなたどうしますか。これはまだまだ・・もう少しあとになると、もっと色っぽいです。)浄寛「うぅーん、なかなか艶やかじゃのう」気に入り使ってみようという浄寛。早速、錦に肩を揉んでほしいといいます。(「はい」といって浄寛のもとへ行く錦の歩く姿、うわぁ、女より女っぽい。)浄寛「うん?女子にしてはなかなかようきくのう。・・いやぁ、結構結構」身の回りの世話は女子でないとという浄寛に、錦が話しかけます。錦 「あのぅ、こちらは将軍様も一目おかれる高い地位のお寺と伺ってまいりましたが」 諸大名もごきげん伺いに来るが、老中の田沼は碁が好きで、時々呼ばれては碁を打つ仲だという浄寛です。(田沼の話がでてきた時の錦の表情です。)錦 「そのような折には、お伴が叶いますでしょうか」浄寛、そのときには連れていくといいます。錦 「きっとお願いいたします」浄寛「きつい念の入れ方じゃのう。あっはっは」(うまくいきました。田沼意次に会うことができるという返事をもらいました。)浄寛のお伴で田沼の屋敷に行く日が出来ました。錦は、田沼と浄寛が碁を打っている様子を、控えの部屋からうかがっています。(敵の田沼がすぐそばにいるのです。厳しい眼差しをむけて何を思って、いや考えているのでしょう。)そこへお茶を持ってきた腰元がやってきました・・慌てて錦は席にすわります。腰元は、田沼の居間で何かを探していた越坂の妹文江でした。腰元の文江は、錦の顔を見てびっくり、前に一度あったことがあると言います。錦 「えっ、いいえ、それは何かのお間違え。寺小姓の錦と申します」文江「いいえ、確かにそのお声どこかで」・・・(見破られては、折角田沼に近づけたのにだいなしになってしまう。さあ、どうしようか・・・) そこへ、浄寛さまがお呼びですと錦を迎えに来ます。(錦、窮地を救われました。)浄寛に呼ばれた錦に、田沼の視線が止まります。錦を見つめる田沼に、錦は笑みで挨拶を返します。田沼が錦を気に入った様子を見て、浄寛「田沼殿も美童を愛されますかな」田沼「いや、女にも見まほしい美男とおもいましてな」浄寛「さすがにお目が高い。お気に召しましたか」 田沼が錦を気に入ったので、浄寛は錦を譲ります。(この場面いいですよ。田沼を見つめる眼差しの動きが色っぽいのです。普通は嫌らしく見えてしまうのですが、橋蔵さまの表情は嫌らしくないのです。美しく、色気もあり、かわいらしさもあり・・男の人だったら、いや女の人でも、こんな目でこんな仕草でじっと見られたら・・・いちころなのが分かります。)錦の美しさに田沼意次は心を奪われてしまいました。田沼の傍にすんなりと行くことが出来ました。これから、田沼の屋敷に潜入しての錦のまわりで起こる話になっていきます。 続きます。