大江戸の侠児・・・(7)
逢いたかったぜ雪の降る朝、宗匠姿に高下駄、そして蛇の目の傘をさした一人の男が「ご免よ」と言い入って店にやってきます。朝帰りのように見えます。 伊豆屋の女将が「おやまあ、茅場町の旦那ですか、ほんとにまあ、お珍しい」と言い、男を迎い入れます。「例のところで、てんてんいかれてのお戻りさ」と話をしたりして、女将が出迎えたところをみると、上客のようです。 女将が、お客さんだよ、と船頭の竹を呼ぶと腹が痛いとごねますが、お客が茅場町の旦那だと分かると急いで二階から降りてきます。男は、「おかみさん、小言を言っちゃあいけないよ、別に急ぐ旅でもなし、一杯飲んで体((を温めてから、それから海賊橋まで送ってもらう」と、なかなか羽振りのよさそうな客です。「病気だったんだってね」と旦那に言われ、竹は旦那の顔を見たら病気も治ったと、旦那の召しあがるものをみつくろっておいで、と女将に言われ急いで出ていきます。 料理が来るのを待ちながら、熱燗を一杯飲みほした旦那は、「おかみさん、いこうか」と勧め、「寒さのためかはらわたに沁みわたるよ」と言い酒を注ぎます。次に船頭の竹にもと猪口に注ぎます。注がれた酒を飲もうとした竹が、「しかしね旦那」と話をしてきました。 旦那が「うーん」と気軽な返事をすると、竹が続けます。(竹と女将の話をするのを聞いている時の旦那の表情の移り変りにご注目ください)「例の鼠小僧、大した評判ですねえ。あっしが泥棒ならね、あのくれいの大泥棒になってみてえね」と。そして女将も「この一年ばかりの間に、やられた屋敷が三、四十、とられた小判が三千三百三十三両、・・・」「こりゃまた憎いや、盗んだ金は右から左へぱぱあーっと江戸中の貧乏人にほどこして回るってんだから・・・百年に一人の大泥棒ですね」そこまで、黙って聞いていた旦那が「いくら大泥棒でも、おまえ、やっぱり泥棒は泥棒さ、あっはは」女将と竹の話を聞いていて、悪い気はしなかったような感じです。そこへ、出前持ちが料理を運んできました。 勝手口ではなく表から来た新前の出前持ちが、宗匠姿の客を見て首をかしげてじっと見つめています。その旦那はびっくりした顔をして立ち上がると「あっ、権」と声をかけます。その旦那が懐かしそうに、嬉しそうに「権三・・・」と言います。 その旦那が懐かしそうに、嬉しそうに「権三・・・」というと、権三と呼ばれた男は駆け寄り、旦那と呼ばれている男は「逢いたかったぜ」と、二人は再会を喜びます。この二人、おたかが失踪したとき以来の再会をした次郎吉とデッチリの権だったのです。 次郎吉も権も思いがけない再会に涙ぐみながら、次郎吉「おめえも変わったなあ。おっ、ときに、あれからどうしたい」権 「どうしたもこうしたも・・あれから一年、おたかさんを探して旅の空、文 字春師匠も、おたかさん探さなきゃ女が廃る、宿場女郎に身を売って」次郎吉「えぇっ、また、どうしてそんな・・・」権 「手ずるを掴むには客商売、人の出入りの多いところがいいって、ええ、次 郎公、あの女、心底からおめえに惚れてるよ」「おーい、権」と周りを気にする次郎吉。 すると、権が吉五郎のことを聞いてきました。「死んだ」と答え、それ以上は今はきかないでくれ、いずれ話すと次郎吉がいい、静寂のところへ「しじみよー、しじみー」男の子の蜆売りの声が響きます。その声を聞いた次郎吉は・・・。 続きます。