ジョシュア・レッドマン:バック・イースト
映画の時間待ちの時にHMVにCDを漁りに行きました。目的はNAXOSの安倍作品集だったのですが、竹内まりあの新作全曲つまみ聴きのあと、ジャズ・コーナーを見ていたらジョシュア・レッドマンの新作が何と1590円という値段が付いています。それはディスプレーされている物だけで、棚に置かれている物は1800円ほどでした。しめたと思いながらそのままレジへ。何の問題もなくゲット。ラッキーでした。>^o^< HMVのコピーによると、『レッドマンのヒーローであるソニー・ロリンズの19577年作品『Way Out West』のコンセプトに刺激を受けたという。ロリンズはこの作品の為にレイブラウン(b)、シェリー・マン(ds)というウエスト・コースト・ミュージシャンと共にカリフォルニアでレコーディングを行ったのに対し、レッドマンはこの『Back East』でカリフォルニアからイースト・サイド(NY)に帰還したという形をとっているのも興味深い。』だそうです。■父デューイ・レッドマンの遺作 父デューイ・レッドマンとも共演しています。デューイ・レッドマンはこれが遺作になりました。また、ジョー・ロバーノのテナー、クリス・チークのソプラノとも1曲ずつ共演しています。 今回はロリンズの「ウェイアウト・ウエスト」からインスパイアされたアルバムだけあって編成はピアノレスのドラムス、ベース、それにサックスのトリオが中心です。シンプルなだけにサックスの魅力がダイレクトに伝わってくる秀作になったと思います。惜しむらくは、ホーンを加えたカルテットの演奏も3曲あり、多少焦点がぶれたきらいはあります。 このピアノレス・トリオの編成ではテナーの力量が結果を大きく左右するため、CDもあまり数が多くありません。デュオだと踏ん切りもつきますが、ピアノレス・トリオというのはちょっと中途半端です。ハーモニー楽器でないホーンが入るとその表現力が狭いだけになかなかつらいものがあると思います。その中でテナー・サックスは名盤もいくつかありますが、アルト・サックスになるとさらにその数は少なくなります。その違いは何でしょうか。音の厚みでしょうか? その中では、ロリンズの「ウエイ・アウト・ウエスト」は「サキソフォン・コロッサス」と並んで、彼の代表作に上げられるほどの傑作です。そして名盤「ヴィレッジヴァンガードの夜」というライブ盤も同じ編成ですね。■かなりの完成度。しかしリラクゼーションが不足? 今度のレッドマンのアルバムはそこにどれだけ迫れるかが興味の中心でした。トリオ演奏に関して言えば、かなり肉薄していると思いますが、絶好調のロリンズの奔放なプレーに対し、複雑な構成と理性が邪魔をして?少しリラクゼーションが足りないような感じがします。まあ、あのリラクゼーションはロリンズ独特の物なので、なかなか他の人に求めるのはお門違いと指摘されるかもしれません。また、ロリンズ盤の「Wagon Wheels」に聞かれるユーモア感覚などは、本CDでは聞かれません。ドラムスとベースは3組もいますが、どの組み合わせも高水準でレッドマンをサポートしています。中では、エリック・ハーランドとのトリオがひときわ鮮やかでした。■ロリンズのすばらしさを再確認 今回手元にロリンズ盤がなく、昔の記憶とサンプル音源の記憶からの比較でしたが、あらためてロリンズのすばらしさを認識したような次第です。最近1100円という格安のCDが出ましたので、「サキソフォン・コロッサス」などを買おうかと思っていました。そのリストに「Way Out West」も入れなければいけませんね。 曲は「I'm An Old Cowhand」と「Wagon Wheels」が重複しています。ただし、「Wagon Wheels」はレッドマンはソプラノです。「I'm An Old Cowhand」「「Wagon Wheels」共にロリンズよりもテンポが速く、洗練されています。しかしロリンズ盤で感じられた西部ののどかさみたいな雰囲気は皆無です。ロリンズ盤は昔は良かったみたいな雰囲気が濃厚で、そこがまた何とも言えない味わいがあったものです。レッドマンの演奏ではそのような演奏は目指していないことは確かです。 「Wagon Wheel」という曲は聞き込むほどドボルザークの「家路」のメロディーに似ていると思ってしまいますが、私の思いこみでしょうか。■きびきびとした躍動感溢れる「I'm Old Cowhand」 「I'm Old Cowhand」のハーランドの引き出しの多い多彩なドラムソロを交えた発刺とした演奏で体が自然に動き出します。きびきびとしたテンポも良いです。ロリンズとはひと味違う演奏で、このCD随一の聞き物ではないでしょうか。 最初の2曲のスタンダードは根太い音でどっしりとしたオーソドックスな演奏を聴かせてくれます。「飾りの付いた4輪馬車」後半のドラムスとの短い掛け合いの応酬、その後短いリフを繰り返すリズムをバックにエンドレスでソロを繰り広げる?かにみえる展開は気が利いています。 「イースト・オブ・ザ・サン」は速いテンポで繰り広げられます。レッドマンの自由自在なソロと裏で繰り広げられるドラムスの細かい技のコントラストが絶妙です。■オリエンタルムード満点の「Zarafah」 3曲目はレッドマンの自作「Zarafah」。アラビア風のメロディーがソプラノサックスで演奏され、中近東のムード満点です。砂漠の中をらくだの隊商が移動している、そんな光景を思い浮かべてしまいます。ブライアン・ブレイドがマレットで叩くシンバルがそのムードを助長していい感じです。途中マクブライドの短いソロが入りますが、レッドマンはメロディーを吹くだけでアドリブ・ソロははありません。 ■手に汗握る「Back East」 レッドマンの自作である表題曲「Back East」は手に汗握るフリーモード的な演奏です。早めのテンポのクロマティックなテーマでぐいぐいと迫ります。後半アップテンポになってからのレッドマンのハーモニックスを交えた咆哮に引き込まれます。ルーベン・ロジャースのベース・ソロ、ハーランドのドラム・ソロとも良いです。 ■成功とは言えなかったカルテット演奏 ジョー・ロバーノと共演であるショーター作の「インディアン・ソング」。左チャンネルがレッドマン、右がロバーノでしょうか。ソロの応酬で白熱したバトルを展開、ということにはなりません。あまり熱気が感じられないのか、いまいちです。もっともミステリアスな曲調ですのでそれを期待するのはお門違いということもあります。 クリス・チークのソプラノ・バトルの「Mantra #5」はどこかで聞いたことがあるような東洋風の旋律が耳に残ります。私の耳には、左チャンネルがレッドマン、右がチークの様に思います。どちらのソロも似た様なフレーズを連発し、個性をぶつけ合うというよりも、和気相合と演奏を楽しんでいる様子が目に浮かぶようです。メロディーを細かく分けて交互に吹いているところも面白いです。 「インドネシア」。その名の通りエキゾチクなテーマと踊りたくなるようなリズムで、南国のムード満点です。ここでは、ドラムスではなくタンバリンが主役です。 ■死を目前にした、しかし元気なデューイ・レッドマンの演奏 コルトレーンの「インディア」は父デューイとの共演。冒頭に二人の無伴奏での絡みがあります。ここでも左チャンネルが息子、右が父親のように聞こえます。 父親の演奏はこれが最後の録音と思われない元気なもので、音の張りもあります。リズムのノリは息子の方がいいと思いますが、父親も悪くないです。 この録音は昨年の5月と6月に行われたものです。デューイ・レッドマンが亡くなったのは9月6日ですので、亡くなる3ヶ月程前のことになります。このときのプレイは75歳の時の演奏になりますが、全く衰えを感じさせません。 最後の「GJ」はゆったりとしたブルースで約3分半の短いエピローグ的な演奏。この曲はデューイ・レッドマンの単独演奏です。冒頭の5連符の下降音型が特徴的です。途中まではデューイのアルトとベースのグラナディアとのデュオ。嘆きが聞こえてきそうな演奏です。後半のフリーフォームの演奏で彼の真骨頂が発揮されています。ベース、ドラムスの小技も冴えています。Joshua Redman:Back East(NONSUCH 7559-79993-8)01.Richart Rpdgeers/Oscar Hammerstein:The Surrey with the Fringe on Top02.Brooks Bowman:East ogf the Sun(and West of the Moon)03.Joshua Redman:Zarafah04.Wayn Shorter:Indian Song05.Johnny H. Mercer:I7m an Old Cowhand06.Peter deRose/William J.Hill:Wagon Wheels07.Joshua Redman:Back East08.Joshua Redman:Mantra #509.Joshua Redman:Indonesia10.John Coltrane:India11.Dewey Redman:GJJoshua Redman(ts) 1,2,4,5,7,9,10 (ss) 3,6,8Larry Grenadier(b),Ali Jackson(ds) 1,2,8,9,10,11Dewey Redman(ts) 10 (as) 11Chris Cheek(ss) 8Christian McBride(b) Brian Blade(ds) 3,4Joe Lovano(ts) 4Reuben Rodgers(b) Eric Harland(ds) 5,6,7 Recorded May 19-20,June 18 at Avatar Studio,New York,NY