アムラン:ゴドフスキー シュトラウス・トランスクリプションズ
アムランの超絶技巧が楽しめる一枚。いままで出ているとは知らなかったのですが、ひょんなことから知ったアルバム。国内では、一昨年の10月に発売されています。目玉は3つのヨハン・シュトラウスの旋律による交響的変容。どれも、10分以上かかる大作です。それから、ゴドフスキーの自作の組曲が二つ。こちらも、交響的変容と雰囲気が似ていて、まったく違和感がありません。シュトラウスの3つの交響的変容は、どれもが超絶技巧の限りを尽くした難曲です。アムランの演奏では、その技巧を超越したところでの、絶妙なルバートが聞く者の心をくすぐります。これがじつに絶妙です。たとえると、羽根箒でなでられるような、ちょっと不思議な感覚です。これが、嫌みになる寸前のところで止まっていて、実に鮮やかです。それから、ウイーン情緒が豊かで、ユーモアもあります。これはアムラン単独ではなく、シュトラウス、ゴドフスキー、アムランの3者が作り上げたもののように思いました。ウィーン音楽好きには堪えられない音楽の醍醐味がここにはあると思います。ゴドフスキーの音楽にいつも感じられる、そこまでしなくてもというやり過ぎ感は、この情緒纏綿たる音楽に中和されて、いい感じになっています。また、アムランの演奏には、軽さや柔らかさを感じさえすれ、こういう典雅さやユーモアなどとは無縁だと思っていました。とこが今回の演奏では、作編曲者との共同作業とはいえ、こういう面も持ち合わせていることを知りとても嬉しかったです。 3曲の交響的変容は1912年に出版されています。この中では、最初に収録されている、「芸術家の生涯による交響的変容」が一番できがいいように思います。次々と繰り広げられるアイディアがとても面白く、聞き惚れてしまいます。。「こうもり」による交響的変容では、劇中に使われるいろいろな主題が次々と出てきて、こうもりをご存知の方にはなかなか楽しい聴きものだと思います。この曲でもウイーン情緒満点で、ユーモアも感じさせます。ただ、色々出過ぎていて若干散漫になっている感じがします。3つ目は、「酒、女、歌」による交響的変容。序奏のきらきらしたラテン的な透明な響きは実に素晴らしいです。気品もあります。 ゴドフスキーの「仮面舞踏会」、「トリアコンタメロン- 三拍子による30の雰囲気と光景」はどちらも5曲取り上げられています。どれも短い曲ばかりですが、個人的なイメージのゴドフスキー(テクニック至上主義の音楽)とは違って端正な表情が垣間見えることもあり、いい気分にさせてもらえます。「仮面舞踏会」のすべてや、「トリアコンタメロン」の中でも、そのものずばりの「古いウイーン」や「ランデブー」に、ウイーン情緒が色濃く残されています。彼はリトアニア生まれのポーランド人ですが、1909年から1914年にかけて、ウィーン音楽院のマスタークラスで教鞭をとっていたので、その時にウイーン情緒を身につけたのだと思います。ちなみにこの時代は、彼の人生で最も幸福な時代だったようです。 『最後のワルツ』は、1970年代初頭にアムランの父ジル・アムランがゴドフスキーのピアノ・ロール録音から採譜を行い編集を手懸けたことによって、1975年に出版されたというアムラン自身にも関係の深い曲です。オスカー・ストラウス(1870-1954)の作品をゴドフスキーがアレンジしたものです。ちなみに、オスカー・ストラウスはウイーンの作曲家ですが、有名なシュトラウス一家とは全く関係なく、紛らわしいために「strauss」の最後の「s」を削って「straus」としたそうです。 このアルバムは、作曲者の意図(パラフレーズをより高いレベルの音楽として聴衆に認めさせようとしていた)に反して、真剣に音楽に向かって聞くのは不向きだと思います。一種のサロン風の音楽で、かなりポピュラーよりです。だからこそ、親しみやすく、お茶のお供や仕事中に流す音楽にふさわしいと思います。ゴドフスキー入門としてふさわしいアルバムでもあります。カプースチンのゆったりとしたテンポの曲に酷似した雰囲気で、大方のカプースチン好きには受け入れられる音楽です。 ところで、この項を書いているときに、wikipediaをみていたら、『ゴドフスキーの息子のヴァイオリニストのトレオポルド・ゴドフスキー2世(1900-1983)は、友人のピアニスト・レオポルド・マネス(Leopold Damrosch Mannes,1899-1964)と共にカラー写真の開発に当たり、コダック社の協力により1935年に初の本格的なカラーフィルム「コダクローム」を開発した。彼はジョージ・ガーシュウィンの妹フランセスと結婚している。』という記述に目を見張りました。どういうきっかけからそうなったのか分かりませんが、人生とは全くわからないものですね。ヴァイオリニストとピアニストがフィルムを作るなんて、考えられません。Godowsky: Strauss Transcriptions and Other Waltzes(Hyperion CDA67626)1. Symphonic metamorphosis of themes from Johann Strauss's 'Kunstlerleben'2. Fantasies (24) for Piano 'Walzermasken': no 2, Pastell3. Fantasies (24) for Piano 'Walzermasken': no 14, Franzsisch4. Fantasies (24) for Piano 'Walzermasken': no 22, Wienerisch5. Fantasies (24) for Piano 'Walzermasken': no 24, Portrait Johann Strauss6. Symphonic metamorphosis of themes from 'Die Fledermaus'7. Triakontameron: no 4, Rendezvous8. Triakontameron: no 11, Alt Wien9. Triakontameron: no 13, Terpsichorean Vindobona10. Triakontameron: no 21, The Salon11. Triakontameron: no 25, Erinnerungen12. Symphonic metamorphosis of Johann Strauss's 'Wein, Weib und Gesang' Waltzes13. Der letzte Walzer: Act I Waltz Marc-Andre Hamelin(p)Recorded in Henry Hall,Lomdom,on 14-16 Dec.2007