Julia Fischer:Poeme
ユリア・フィッシャーのパガニーニに続くデッカの第3弾はヴァイオリンと管弦楽の音楽。私の聞いたことのない曲が2曲も入っていました。それは、レスピーギの「秋の詩」、スークの「幻想曲ト短調」でした。ショーソンもCDはあるにはあるのですが、全く印象に残っていません。この曲も世の中では有名だと思いますが、短い曲なので、他の曲と一緒でないとでないと録音されません。通常、ショーソンの「交響曲」との抱き合わせになる確率が多いので、必然的に録音はあまり恵まれないことになります。定番はヌブーの演奏だと思いますが、私はこの演奏を聞いたことがありません。持ているCDはNAXOSのショーソンの作品集でした。この曲は、なまめかしい雰囲気の曲ですが、フィッシャーの音楽は当然ながら、そんなことはあまり感じさせません。そのようなものとは無縁とばかりに、清潔なフレージングでぐいぐい進んでいきます。思うに、ヌブーの演奏がデフォルトであるために、新しい演奏が出てくると、無意識のうちにヌブーとどう違うかを聴き手がしてしまうのかもしれません。レスピーギの「秋の詩」はレスピーギの交響詩を思い浮かべれば、彼らしからぬ、「リュートのため古風なアリアと舞曲」を思い浮かべればレスピーギらしいと感じる曲です。傑作とはいかないかもしれませんが、鄙びた雰囲気としみじみとした秋の風情が味わい深い曲です。フィッシャーの演奏は、表情付けが濃かったりすることはなく、中庸の表現で、曲を楽しむには最適だと思います。スークの「幻想曲」ト短調は、いかにもスラブの草原を感じさせるような音楽です。たしか、スークはドヴォルザークの娘婿のはずですが、出だしがドヴォルザークそっくりです。ラプソディックで勢いもあり、なかなか楽しめる音楽だったと思います。以前、マーツァルの演奏で「おとぎ話」を聞いた時にも感じたのですが、聴いているとボヘミアの風景を思い出さずにはいられない作風です。個性はそれほど強くないのですが、ふとした瞬間に聞こえてくるそうな、そんな曲だと思います。フィッシャーの演奏は、民族色こそ強くありませんが、スケールが大きく、技巧的には全く問題がありません。これらの2曲は、すっかり忘れさられていると思いますが、もっと演奏されてもおかしくない曲だと思います。特に、レスピーギの秋の夕映えに彩られたけだるい雰囲気は捨てがたいです。レスピーギは独奏がバックと一体となっているのに対し、スークはソリスティックな技巧を駆使して華やかです。なにか、サン=サーンス辺りを聴いているような気分になります。最後のヴォーン・ウイリアムズの「揚げひばり」が、母国の作曲家の音楽なのに、あまり面白くなかったのは、意外でした。バックはモンテカルロ・フィルが勤めています。殆ど30年くらい前の刷り込みですが、個人的には、へたくそなオケだったと思っていました。今回も、上手いとはいえないかもしれませんが、そこそこの水準には達していて、破綻はありません。2000年からマレク・ヤノフスキが音楽監督を勤めていますので、その成果が上がっているのかもしれません。ただ、音色がいまいちで、さらなる洗練が望まれます。また、欲を言えば、独奏者を積極的にプッシュするくらいアグレッシヴであってほしかったな、と思いました。Julia Fischer:POEME(DECCA 478 2684)1.Respighi: Poema autumnnale2.Suk: Fantasy for Violin & Orchestra, Op. 243,Chausson: Poeme for Violin & Orchestra, Op. 254.Vaughan Williams: The Lark AscendingJulia Fischer, violinOrchestre Philharmonique de Monte Carlo Yakov Kreizberg, conductor Recorded 20-24,November,2010 at Auditorium Rainer lll,Monte-Carlo