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テーマ:本と出版について(527)
カテゴリ:出版
碧天舎が2006年4月に倒産した時はまさかと正直思った。たまたま、碧天舎主催の詩歌コンテストに応募し、特別審査員賞を頂いた矢先の出来事であったから、この賞は幻となった分けである。 自費出版ブームの中、その一角を担う大手出版社だった碧天舎倒産の影響は大きく、契約済みの230人あまりの人たちは悲痛な思いで、支払い済みの出版費用を返して欲しいと訴えたがその後どうなったのか分からない。 わたしは新風舎に対し非常に悪いイメージを抱いていたので、3年前からこの出版社はいずれ倒産するのではないかと疑念を抱いていた。 そして先日の朝刊を見ると新風舎が民事再生を諦め、自己破産の申請をするという。事実上の倒産である。出版された本の数は約600万冊、未出版は1000人。そして前受け金10億円。売れる見込みの無い本を作り続けた結果である。 まさしく自転車操業を繰り返していたのは、碧天舎も同じであった。2年ほど前の夏、リタイアメントビジネスサービスという会社から取材を受けた。内容は新風舎の悪徳詐欺商法についてであった。 わたしは「詩集天国の地図」につて、全国出版しようなどと大それた積りは毛頭なく、単なる記念として出版できればよいと思っていた。 自費出版だから当然金がかかる、だからまず一番手軽に安く作ってくれそうな出版社をネットで探した。幾つか地方の出版社を見つけ早速原稿をメールに添付して送った。 すると、かなり評判がよく全国流通できるという返事を頂いたわけである。そうなるとこちらも多少欲が出てくる。ならば東京の出版社へ原稿を送ってみようと考え、新聞広告に釣られて、新風舎に早速送った。そして碧天舎、文芸社、新生出版この4社にターゲットを絞った。 新風舎以外には直接原稿を届けた。自分の目で出版社がどんなところなのか、調べて見る必要があったからだ。自社ビルは文芸社だけであった。 そして新風舎以外の出版社から書評が届く。その内容は巧みな誘い文句で詩集の完成度の高さなど、非常に良い作品であるという文面。初めて出版する人間にとってはおそらく夢のような現実に有頂天になることだろう。 さて、ここからわたしの出版社選びが始まったわけである。書店に本が確実に並ぶと謳っていることを自分の目で確かめる必要が出てきた。 東京の有名、無名を問わず、書店を探しまわり、友人に頼み静岡の書店の探索も依頼した。そして分かったことは文芸社の本だけが、平積み、面陳、棚指しなどで置いてあった。残念ながら他社は一冊も見つからなかったのである。 この時点で文芸社が一歩リード。そしてわたしの出版社選びは更にエスカレートしていくのである。 自費出版(協力出版)は制作費の一部を著者が負担して、出版社と共同で本を作り上げていくのであるが、そこに大きな落とし穴があることを殆どの人は気付かない。 制作費を出す以上、著者は客である。出版社にとってみれば「鴨が葱をしょってきた」わけであるから、当然の如く作品を褒めちぎるわけである。 だが、それをうまく利用するのが客である。お客はどんなわがままを言ってもよい。言うだけならただで金は掛からない。不満や疑問点など徹底的に担当者と話し合うべきだ。 出来れば直接出版社に出向く事をお勧めする。遠方であれば電話で「別の出版社とも契約の話しがある」と問いかけてみよう。担当者の対応次第でその出版社の姿が多少見えてくるはず。 話し合いの場に編集長を引っ張り出すと更にこちらのペースになる。しかし、それは作品の内容にもよる。持ち込んだ原稿が全て協力出版出来るわけではない。 内容によってはもちろん断られる場合もある。ただし、新風舎は別。持ち込まれた原稿は全て本にしてしまう。つまり売れないまま書店にも置かれず、倉庫に眠る運命を辿るのである。 わたしの出版社選びは文芸社と碧天舎に絞られた。残るは制作費のみ。碧天舎は電子書籍を含めた金額を提示してきたが、それはかなりの破格値だと今なら思える。 しかしわたしは最終的に文芸社を選んだ。もし碧天舎と契約を結んでいたなら、天国の地図は古本屋で探す羽目になっただろう。 これもまさしく強運の持ち主と言われる所以かも知れない。 そして文芸社と契約を交わした頃、新風舎からは何の連絡もなかったので、こちらから電話をしてみた。原稿を送ってから一ヶ月も経っていた。電話に出た女性が慌てた様子であった。その数分後、メールが届いた。「素晴らしい詩集。生みの苦しみが...」即席で作った書評をメールで送ってくる。作品を何も読んでいない。数日後、パンフレットと見積もりが届いた。作品名がなんと「天国と地獄」に変わっていた。実にいい加減な出版社だったかお分かり頂けると思う。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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