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テーマ:父の日で~す(203)
カテゴリ:その他
母の日や父の日を迎えると、大抵は詩をアップする事が多いので、今回は父に纏わるエピソードを一つ紹介しようと思う。 わたしが15歳、父39歳の時の話しである。 養護学校を卒業した後のわたしは、清水にある病人専門の職業訓練所にいた。 父は藤枝に伯父さんと住んでいたにも関わらず、一切わたしにはノータッチ。 そんな父からある日電話がかかってきた。 「もしもし、とし坊…久しぶりだな」 「急に電話なんかかけてきてどうしたの?」 「今、久能海岸の停留所にいるんだけどな」 「はぁ…?」 「ちょっと頼みたいことがあるんだ」 「なに?」 「金を貸してくれないか…」 「いくら…?」 「千円でいいからさ…」 わたしはまだ15歳であり、仕事をしていないので収入はなかったが、訓練所から一ヶ月の小遣いとして5千円が支給されていた。 「分かった、じゃあいま直ぐ行くから」 と言って電話を切り、くしゃくしゃの千円札を一枚ポケットに押し込み、停留所に向かった。 久能海岸を走る150号線に駿河湾の荒波が押し寄せ、テトラポットに砕け散っていた。 父から話しを聞くまでわたしの頭の中は??だらけであった。 潮で錆び付いたトタン屋根が風に煽られて「バタンバタン」と大きな音を立てている。 その下で肩を小さくすぼめながら、冷たい潮風に背中を向けて立っている父を確認した。 手を振りながらわたしは父に近づいて行った。 父に会うのは約一年ぶりだった。 わたしはすぐさま父に疑問をぶつけてみた。 「なんでここにいるの?」 すると、とんでもない答えが返って来たのである。 「実はな、仲間数人と沼津に行ったんだ」 「うん…それで?」 「それでな、朝まで飲んでしまってさ、気がついたら帰る金がないんだよ」 「仲間はどうしたの?」 「いや、それが起きたら父ちゃん一人でさ…」 「それで、沼津からここまで歩いて来たんだ」 「歩いて…?」 「ああ、随分時間がかかったよ」 「電話をかけるお金はあったんだね…」 と少し笑いながら父の手に千円札を渡し、清水駅行きのバスが来るのを待った。 バスに乗り込む父の背中を押しながら「ちゃんと藤枝に帰るんだよ」と見送った。 後に聞いた話しによると、父は駅に着いたものの、電車には乗らずその足で酒場に行ってしまったのである。 折角上げた千円を父はなんと酒代に変えてしまったのだ。 そしてこともあろうに、酔った父はパトカーをタクシー代わりにしてしまったのでる。 警察の厄介になるのはいつものことであるが、パトカーで藤枝まで送ってもらったのは父くらいのものだろう。 この話しも父の武勇伝の一つなのだろうか? お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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