イエスの喜びと満足のために☆

モーセは彼の兄弟たちを顧みる心を起こしました。
そして、同胞の一人が虐待されているのを見て、その人をかばいました。（使徒行伝7:23-24）

モーセは決断を下しました。このことはただちに、彼を主の御用にふさわしい貴い器としたでしょうか？いいえ、まだです！神に明け渡すことや、十字架の道を選ぶことがすべてではありません。私たちは決断するときに葛藤を経験しました。そして決断した今、素晴らしい平安が私たちの心を満たしています。それゆえ、もはや必要な働きは済んだかのように見えるかもしれません。しかし実は、それは私たちの訓練のほんの始まりにしかすぎません。神は、真に明け渡された人の意志の中央に、ご自分の御座を据えられます。そして、この御座からご自分の深遠な御旨を成し遂げられます。

モーセは自分自身をまだ知りませんでした！この世のあらゆる知恵による教育や、言葉と行いにおける力は、神の御手の中で有用な僕となるのに十分な備えではありません。 ああ！聖霊の時代に生きる私たちが、モーセよりも知らないとは！エジプトの知恵に頼り、雄弁術や肉の力に頼る時、私たちは依然として、まるで私たちの戦いの武器が肉的なものであるかのように振る舞っているのです。そして、モーセと同じように、先に進んで行って自分の悲しい間違いを知るのです。

　モーセは、将来の進路をはっきりと選択するよう迫られた時、人生の重大な内的転機を迎えました。そしてその転機に続いて、神の主権の下である事件が起きました。その事件はモーセを、彼が放棄することを決意した生活から解放しました。 私たちが神と一致するとき、常にこのようです。彼の内側の取り扱いは、彼の外側の働きと協力して、彼の御旨を遂行します。もし、神が私たちを深く取り扱い、内側で十字架の道を選ぶよう私たちを導かれるなら、私たちは間もなく、おそらく突然に、私たちの心の選択が事実となるような状況の中に置かれるでしょう。それはおそらく、私たち自身の何らかの行い、何らかの失敗や間違いによってでしょう。突然、すべてが変わります。

　「モーセは彼の兄弟たちを顧みる心を起こしました」。ステパノはこのようにあっさりと、重大な結果をもたらした一歩について述べています。最初、それは単なる考えに過ぎませんでしたが、次に行動となり、予期せぬ結果をもたらしました。 「モーセは彼の同胞のところへ出て行き、その苦役を見た」（出エジプト記2:11）。彼はそれまで見ていなかったのでしょうか？彼は、自分が彼らの民族出身であることを、知っていたに違いありません。パロの娘の子としてエジプトのあらゆる楽しみにあずかっていた長い年月の間、彼は神の民とその苦役を忘れていたのでしょうか？あるいは、覚えていたけれども、そのような考えを払いのけていたのでしょうか？今彼が下した、彼らと運命を共にしようという決断は、一時の思いつきではありえませんでした。それはおそらく、神の御前で深く心を探られた結果だったでしょう。彼は、罪のない多くの赤ん坊が川に流された時、神が自分のいのちを救い出して下さったことを知っていました。

　モーセは同胞たちの苦役を見て、心をかき立てられました。ステパノの言葉から察するに、彼はすでに、自分がイスラエルの解放者となるべきであることを知っていたようです。ですから、同胞たちに会いに出かけて、彼らの一人が虐待されているのを見た時、彼はその人をかばって、エジプト人を打ち殺しました。ああ、モーセ、モーセよ、そのようなやり方はエジプトの方法であって、神の方法ではありません。

　この出来事は、神の御子を守るために剣を抜いたペテロのことを思い起こさせます。御子がお命じになりさえすれば、御使いの軍勢が彼を守ったでしょう。同じことが、今日神のために戦っている非常に多くの人々にもあてはまります。彼らは剣を抜いて、自分が間違っていると思うものをすべて打ちます。しかし彼らは、「剣を取る者はみな剣で滅びます」という主の御言葉や、「もし私の国がこの世のものであったなら、私の僕たちが戦ったことでしょう」という主の御言葉を忘れています。主の僕たちが戦うことは、彼らが十字架の道と主の精神を忘れやすいことを示します。

　もしも、モーセがエジプト人を一人一人打つことによって解放が実現されるのだとしたら、イスラエル人は決して解放されなかったでしょう。神はそれよりも遙かに良い方法を持っておられました。私たちの視野は、何と小さく、何と狭いのでしょう！もし、私たちが自分自身を神にささげ、彼と彼の御旨を知ることをまず第一に求めるなら、彼は私たちを用いて偉大なことを成されるでしょう。

　神の御旨はモーセの手でイスラエルを救うことでした。しかしそれは、モーセの方法によってではありませんでした。モーセ本人が最大の問題でした。この気性の激しい男をとぎすました矢にするには、時間と辛抱強い訓練が必要でしょう。

神はまず、モーセを失敗によって教えなければなりませんでした。モーセは、神が彼らを解放しようとしておられることを、同胞たちが理解するだろうと想像していました。彼らは、その方法が神によるものだったなら、おそらく理解したでしょう。しかし、その方法は神の方法ではありませんでした。どうして神がそれを良しとされるでしょう！ 私たちは、助けたい人々から拒絶される時、驚きます。私たちは、神が私たちを召されたこと、そして神が私たちの手によって人々を解放すると告げられたことを知っています。私たちは、主との密かな交わりと、主が私たちに語られた御言葉で心を満たされて、出て行きます。そして、神が私たちを通して働いておられることを、他の人々が理解するだろうと想像します。しかしながら、働いているのはまったく神ではないのです！私たちが骨折ることを許されたのは神ですが、それはただ、私たちが失敗して自分自身を知るためでした。

　出エジプト記の記録は私たちに告げます。「（モーセは）あたりを見回して、.........そのエジプト人を打ち殺し、これを砂の中に隠した」（出エジプト記2:12）。この行いは「神にふさわしく」ありませんでした。神は、ご自分の働きをこのようになさることはありません。また、ご自分の子供たちに、彼らの高い天的な召しにふさわしくないことを行うよう要求されることもありません。神がイスラエルをエジプトから連れ出された時、それは伸ばされた御腕と輝かしい御力によりました。それゆえ、エジプト人たちは頭を下げて、「出て行ってくれ」と頼みました。

　それをする前、あるいはした後で、「あたりを見回す」必要があるようなことに、神の御名を賦与しないようにしましょう。主の吟味の光に耐えられないような、神の御名による金儲けに注意しましょう。魂を獲得しようとすることですら、注意する必要があります。

　モーセは確かに、まったく正しかったわけではないことを、意識していたにちがいありません！その晩、休むために床についた時、「イスラエルは、このような方法では決して解放されないだろう」という思いが、彼の心をよぎらなかったでしょうか？そのように私たちもまた、私たちのあらゆる「防衛や報復」にもかかわらず、人々が依然として罪とこの世に束縛されており、彼らを解放しようとする私たちのちっぽけな努力は、あたかも一匙のスプーンで海の水を汲み出そうとするようなものであることに、気づき始めているのではないでしょうか？そのことを自覚して、ほとんど「押し潰されている」人々もいます。彼らは言います、「それでは、抑圧されている人々の重荷を見ても、私たちは何もするべきではないのでしょうか？」。神の御名にあって言いますが、その通りです。神から離れて働くのではなく、神と共に働くために、まず神と一つになりましょう。