緑柱石・中編
神の見守る丘、『炎角』の縄張りに向かう羽流たち一行ShaRaLa「遅くなったね。」羽流「遅くなっちゃったね。」Alice「・・・だから、ごめんて。」ShaRaLa「まさかあの会議の後昼寝してるとは思わなかったよ。」羽流「お寝坊さんはいつものことじゃないの。でも遅れたからって慌てないようにしよう?」Alice「でもなー、しぶきさんに怒られねーかな?」ShaRaLa「そうだね。もうほかのチームの人たちが全部終わらせちゃってるかもね。」羽流「んー、もし怒られるのならみんなで怒られよう?それにもう終わってたらわたしたちは安全なんだし、いいんじゃないかな?」Alice「さっすが羽流姐。頼りになる班長!」ShaRaLa「はぁ。(呆」───────────────────────────────────────────一方そのころフィエル嶺水池では、しぶきたちはカイザーエルクの大軍を発見していた。他の冒険者チームもそれぞれ岩陰などに隠れて機会をうかがっていた。Aosora「どうしましょうか?このまま膠着状態が続いても埒があきませんが・・。」しぶき「そうだな。なんとか他の冒険者たちとタイミングを合わせて一斉攻撃をしかけたいが、どうやって連絡を取るか・・。Naoka「あー、それなら僕に任せてよ♪」言うや否や、自分たちが身を隠していた岩の上に飛び乗り、Naoka「えいっ、えいっ、がおー!」声が響き渡ったあと、静まり返った高原に一陣の風が吹いた。当然凍り付いた冒険者たちといきり立った魔物たちの視線がNaokaに集中する。Naoka「えっへん!突撃ー!」かけてないはずの眼鏡の位置を直すしぐさをして魔物の群れほうを指さして叫んだ。Aosora「あ・・・あ・・・魔物まで突撃してるじゃないの!このあとどうするの!?」Naoka「さあ?なるようになる!(てへぺろ」Naokaが舌を出して応じたのを見てしぶき「しかたない!いくぞ!」走り出すしぶきにAosora、Naokaと他の冒険者たちがそれに続いた。───────────────────────────────────────────再び神の見守る丘。羽流「いるね。」Alice「いるいる。」高台からくぼ地を見下ろす位置に3人は伏せていた。眼下にはカイザーエルクの群れが見える。ShaRaLa「それでどうするの?」羽流「いつもどおりでいいんじゃない?」Alice「・・・あれ?」羽流「どうしたの?」Alice「ん、さっきから【チャット】の調子がおかしいんだ。定時連絡取ろうとしてんだけどさ、うまく繋がらないんだよ。」ShaRaLa「そうなんだ。でもこっちは格下の魔物ばかりだし注意するのは『炎角』だけじゃないかな。ほかのチームの人たちもいると思うし大丈夫だと思うけど?」羽流「もう、しぶきさんに油断しないように言われてるじゃない。」少しだけふくれっ面をして羽流は言った。ShaRaLa「そうだね。ごめん。」羽流「(ShaRaLaは謝ってばっかり)」ShaRaLa「ん?なんか言った?」羽流「ううん。なんでもないよ。それじゃ、はじめよっか。」Alice「よっしゃ!」気合を入れるとAliceは弓を引き絞り、群れの先頭に向けて矢を放つ。「ぐぎいいぃぃ!!!」矢は群れの先頭の個体の右目を貫いた。そして矢と同時に飛び出していた羽流が盾で打撃を与えつつ抑え込む。すぐさま剣を大地に突き立てると周囲の魔物たちはするすると一か所に引き寄せられた。羽流「ShaRaLa!」ShaRaLa「わかってる!」ShaRaLaが杖を振りかざすと魔物の集団の頭上から巨大な氷塊の雨が降り注ぐ。Alice「おまけ!」Aliceが矢を放つとそれは魔物の群れの中心のに突き刺さり、そこから同心円状に大地が引き裂かれ、そこにあるものをすべて飲み込んでいった。既に羽流は次の群れに狙いを定めて走り出している。Aliceもまた次の群れの上空に矢を放つと今度はそれが分裂し矢の豪雨を巻き起こす。ShaRaLaが杖を横になぐと氷の暴風が魔物たちを包み込んだ。仕上げとばかりに羽流の放った光の斬撃が動きの鈍った魔物の群れを襲う。小一時間が過ぎただろうか。羽流「そろそろ休憩にしない?」ShaRaLa「そうだね。休憩にしよう。」Alice「俺、腹減ったよ。」羽流「そういえば【チャット】はまだ通じないの?」Alice「まだ駄目っぽいなぁ。なんかチームとは別のチャンネルで開拓局からの通達も流れてるみたいなんだけどどうにも聞き取れなくてさ。」ShaRaLa「なんか変だよね。さっきからほかのチームや冒険者を見かけないし。」Alice「もしかして『炎角』の討伐はもう終わってるんじゃねぇかな?通達もそのことを知らせるものだったりして?」羽流「それにしてはカイザーエルクの群れがまだいるのはおかしいと思うけど・・・。」羽流はそう言いつつ前方に出現した魔物の群れを睨む。羽流とAliceが身構えたとき、2人の後ろから呪文の詠唱が聞こえてきた。ShaRaLa「ここは私に任せて。2人ともまだ休憩中だよね。」詠唱をしながらスタスタと2人の前に歩みを進めるShaRaLa。魔物の群れの上空には巨大な隕石が生成されつつあった。ひときわ高く掲げた杖を振り下ろすと、炎の塊となったそれはゆっくりと、しかし加速しながら魔物の群れの頭上へ落ちていった。すさまじい爆音と熱線に魔物の群れはなすすべなく飲み込まれていった。最後の一匹が燃え盛る粉塵に飲み込まれたのを確認したShaRaLaはくるりと振り返り羽流とAliceに笑顔で親指を立ててサインを送った。その時だった。Alice「・・・・!!」羽流「ShaRaLa!!!」ShaRaLa「えっ・・・?」まだ赤く燃え盛っている爆炎の中から対照的な緑色の巨大な塊がShaRaLaめがけて飛び出してきた。かろうじて振り返ったものの避ける間もなくShaRaLaはその巨体の直撃を受けてしまった。肉が裂け、骨が折れる音とともShaRaLaの身体は宙を舞い地面に叩きつけられた。反射的にすぐに立ち上がろうとしたが、すでに身動きすらできない状態だった。Alice「ShaRaLaーーーー!!」Aliceはすぐに倒れているShaRaLaの傍に駆け寄り、あらゆる治療の手段を講じていく。羽流は盾を構えた状態で、巨大な緑色の塊と2人の間に割って入った。羽流「・・・・『エメラルドホーン』。」───────────────────────────────────────────再度フィエル嶺水池。しぶき「で、開拓局の通達の内容は?」魔物の首筋に槍をつきたてながら聞いた。Naoka「なんか『炎角』の討伐は終わったらしいんだけど、あっちで『エメラルドホーン』の目撃情報があるんだって。だから全員即時撤退して、戦力を整えてからもう一回神の見守る丘に向かえって言ってるよー?」左手で【チャット】を聞きながら、右手の槍で魔物を切り裂きつつ答えた。Aosora「なるほど。どおりでこっちでいくら魔物を討伐しても奴は出てこないのね。Aliceさんから定時連絡はまだない?」盾で魔物を突き飛ばしながら聞いた。Naoka「まだないよー?まったくあのバカAliceはこんなこともまともにできないのかなー?」しぶき「念のためだ、こちらからも連絡をしてみてくれ。」Naoka「わかったー。おーい、野良Aliceー、聞こえてるー・・・・・?あれ?おかしいなー。繋がらないよー?」しぶき「ふむ。羽流もいるから心配ないとは思うが・・・。」Aosora「私たちもここが片付いたら撤退しましょう。」しぶき「いつまでもここにいても仕方あるまい。各自の判断で戦線を離脱。ラルパルで落ち合おう。」と、その時「ぐおおおおおぉぉぉ・・ぉぉ・・ぉぉ・・・」しぶき「なんだ?今の声は!?」Aosora「神の見守る丘のほうから聞こえてきたような気がしますね?」Naoka「あ・・・、なんか、いま・・・、僕すごーく嫌な予感がするー。」背中に悪寒を感じたNaokaは眼前の魔物を放置して神の見守る丘に向けて走り出した。Aosora「あ!こら!急にどこへ!?」しぶき「む?Naokaは普段ああだが勘の鋭いところがある!続くぞ!」しぶきも走り出した。Aosora「え?え?なにを!?待ってくださいよー!!」数匹の魔物の突進を盾で受け止めながらAosoraは叫んでいた。(続く