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カテゴリ:サキのあゆみ
春休みのある日。
サキ(中3)が、突然志望校を決めました。
県立高校の美術コース。
「そんな学校があるの? レベル、高いんじゃないの?」
「偏差値は40ちょっと。
美術コースはちょっとレベルが高くて、倍率も高いみたいだけど...」
中学支援学級のサキは、中1の最初は半分くらいしか通えませんでした。 定期テストはほとんど受けられず、そのため内申書の主要教科は点がつかない状態でした。
その後、1が中心の点がつき、2や3がつくようになり、中2の終わりでようやく1がなくなり、2より3の方が多くなりました。
美術科希望の子は、ほとんどが美術の評価は4か5のようですが、テストで点が取れない娘は、美術の評価も3。
私から見ると、それでもよくここまで成績が上がったなぁ~、と感心していたのですが、受験となると大変です
「今の成績で合格できそうなの?」
「う~~ん
2がなくなって、美術が4とかになれば大丈夫かも」
そっかぁ~。 それって、簡単なことじゃないよね?
「その学校、どこにあるの?」
「横浜の方みたい」
「どうやって見つけたの?」
「ネットで色々調べたんだ」
「ふーん。 どうしてそこに行きたいと思ったの?」
「まず、美術コースがあるならそれがいいな、って思って」
「うんうん。
それで?」
「で、レベルも高すぎなくて」
「うんうん。
それから?」
「あとね、学校でコンピューターグラフィックも勉強できるから、自分でデザインしたキャラクターを動画にできるようになるかな?って思って...」
「うんうん。
あとは?」
「それでね、
そこの制服、デザイナーがデザインしてて、 めっちゃ可愛いんだよ」
ああ、これだっ
「そんなに可愛いの?」
「うん
まるで私立の制服みたいにね、
すっごいオシャレなんだよ~~」
たぶん、これが行きたい理由の9割だろうな。 ふふっ、サキらしい。
「じゃ、早速その学校を見に行こうよ♪」
数日後の朝、学校へ電話を入れて、午後にはサキを連れて見学へ。 学校では、朝の電話を受けて、美術科の女性の先生が一人、私たちを迎えて案内してくださいました。廊下に展示されている生徒さんたちの作品や絵画の数々。 どれもこれもあまりに上手で、とても高校生の作品とは思えません。
「うまっ!!!」
サキは目を丸くして息を呑んでいます。 私はもう、別世界へ迷い込んでしまった気持ちです。
「これは、生徒たちの描いた自画像ですね。
こちらは油絵。
それから向こうは陶芸の作品になります」
いくつか見せていただいた教室は、すべて私の遠い学生時代の記憶にある「美術室」でした。
(サキは本当にこういう世界の人になっていくんだ...) 「何か質問がありますか?」 と、先生に尋ねられ、サキがした質問は、 「あの~~、授業中に順番に答えを言わされたりしますか?」 「ん?
学校だから、それはありますよね」
不思議そうにサキを見る先生。
はい、当たり前のことです。 でもサキは小5から不登校になり、現在も10人くらいの支援学級に通っているため、大勢で授業を受ける、ということを、もう5年間も経験していないのです。
先生にサラッと説明したところ、先生は、
「ああ、それじゃ心配よね。
でもね、大丈夫だよ。
わからないときには
"わかりません"
って言えばそれでいいから」
「あっ、それってアリなんだ?
"わかりません"って言っていいんだ」
途端にとても嬉しそうなサキ。
「他に聞いておきたいことがありますか?」
親切な先生の優しい笑顔に安心したサキは、質問を続けます。
「あの、あれなんですけど...」
娘の指差した先に見えたのは
デッサン用の石膏像。 (おっ、ようやく美術に関する質問にいくか?) 「あれって、工場で作られているんですか?」
(って、なんじゃその質問は?)
案の定、先生も
「へ?」
って顔になっています。
「いやね、あれが何百体も並んでるって想像したら... ひひひっ
おかしくて...
まぢ、ウケル
ひひひひ...」
「す、す、すみませんっ」
(お前、落ちるぞ)
相変わらず、突拍子もないことばかり言い出すサキに冷や汗をかきつつ、先生によくお礼を言って帰ろうとしたそのとき。
「デッサンの実技試験に備えて、デッサンはたくさん練習しておいてくださいね~」
と、先生の声が。
「はっ?
デッサン?
試験?
それは、入試のときにデッサンの試験がある、という意味ですか?」
「そうです。
毎年、前期でデッサンの試験をやりますから。
そのうちデッサン教室もやりますので、そちらにもぜひ参加してみてくださいね」
「ありがとうございます」 帰り道。 「サキ、デッサンって描いたことある?」 「ママ、デッサンってなあに?」 「えっ? 知らないの? ママも…知らないけど たぶん、鉛筆で描くやつ…だと思う。 ヤバイ!! デッサンをちゃんと習おう♪」
それからサキと2人で、受験用のデッサン教室を探し回るのでした。 (つづく) ひなたまさみ
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