心の壁
みなさん、こんにちは寒い日が続いていますが、お元気ですか?私は相変わらずの腰痛に苦しんでいますが、今日は午後から小学校の役員決めがあるので、出かける予定です。昨日は息子ヒデキ(小4)の柔道の日でした。冷たい畳の上に座り、じっと見ているのは辛いのですが、私の楽しみのひとつなので、カイロを腹巻きの下に忍ばせ、頑張って見学してきました。道場に着くとすぐ、前回の稽古に見学に来ていた小1の少年とそのお母さんに会いました。「こんにちはやったー!今日も来れたんだね?今日は一緒にやっていくの?」少年は、慌ててお母さんの背中に隠れてしまいました。前回、その親子を見つけたのは、東海大学武道場の入り口でした。その前の稽古にも見学に来たのに、結局道場に入れないまま帰り、その日も「入るのが怖い」と言い出した、とか。2年生か3年生くらいに見える立派な体格の彼ですが、お母さんのお話によると「ノミの心臓」なのだそうです。あまりに気の弱い息子の心を鍛えて欲しい、礼儀作法も身につけて欲しい、というご両親の考えから、これまで空手や剣道など、武道の見学に連れて回ったそうですが、練習を見ただけで泣き出したり、逃げ回ったり…。(ああ、そんな子、私も知ってるわ!)私はすぐに息子のことを思いました。(ヒデキも最初に来たときは、入り口で柔道部の大学生を見ただけで脱走したもんね)「じゃ、おばちゃんたちと一緒に入ろうちょっと見ていこうよ♪ここは楽しいところだから、きっと大丈夫だと思うよ」私は2人を道場まで案内し、前回は一緒に見学をしたのでした。昨日は少年のお父さんまで仕事を抜けて来られていたようですが、このお父さんがとても熱心な方でした。「ほら、みんなと一緒にやりなさい!」「どうしてやらないんだ?いったい何しに来たんだ?」そしてついに嫌がる少年の両脇を抱え、引きずりながら、「いいかげん、お父さん怒るぞっ!」(って、もうとっくに怒ってますから~。笑)泣き出しそうになる少年。そのときふと、私はその日、ヒデキの小さくなってしまった柔道衣を持っていたことを思い出しました。去年、柔道を始めたときには1号サイズの柔道衣を購入したヒデキ。その後、上半身だけが(もっと正確に言えば“胸とお腹まわりばかり”が)すくすくと成長し、2号、3号、4号と買った挙句、その4号まできつくなり、いよいよ困って先生に相談した結果、オーダーメイドの柔道衣を作ったところでした。身長だけが伸びるのなら、多少手足が短くなっても着れるんです。ヒデキの場合は、前が合わせられなくなってしまうわけです。その結果、4号サイズでも、合わせの部分はキツイけど、袖や丈はかなり縫い上げてあり、ズボンはまだ2号サイズ、というアンバランスさ。主人が、「妊婦用の柔道衣って売ってないのか?」と言いましたが、本当に「妊婦用があれば買いたい!」と思ったほどのコロンコロンの体型。まさか一年半のうちに4回も5回も柔道衣(8,000円くらい)を買うことになるとは予想していなかったので、多少高価(17,000円くらい)でも、ヒデキのサイズに合ったものを作った方が、かえって経済的だと思いました。着なくなった柔道衣はこれまでも後輩や同級生たちにあげてきたのですが、今回もそのつもりで持っていたのです。「みんなと同じ柔道衣、着てみたらどう?ちょっと大きいかもしれないけど、おばちゃん持ってるのがあるよ♪」と言ってみたところ、飛びついてきたのはお父さん。「いいんですか?おい、よかったな。柔道衣、貸してくれるんだってほら、ちょっと、こっちへ来い!」半ば無理矢理?柔道衣に着替えたところ、とってもよく似合っていました。「かっこいいね~よく似合っているよ」お母さんと一緒に彼を褒めちぎり、再び道場へ。それでもどうしてもみんなの中へ入れなかった彼にしびれを切らし、ついにお父さんは仕事に戻られました。その後の初心者クラス担当のベテラン中西先生(中西英敏先生の奥さま)の対応が素晴らしかったです。「みんな“クモさん”やってるんだけど、クモさんに見えるかな?ほら、ときどきずっこけちゃうクモさんもいるでしょ?」「座ってたら寒いでしょ?こっちで一緒にやってみる?じゃ、もうちょっと見ていて、やりたくなったらおいで。先生、ず~っと待ってるからね」なかなか動かない少年ですが、先生は10分おきくらいに、根気よく彼に笑顔で話しかけます。(そうそう、ヒデキも最初の先生が中西先生だったから、続けられたんだもんね)そしてついに、「馬さんになるの、ちょっと手伝ってくれないかな?ほら、この子、相手がいなくて困っちゃってるんだよね」に、少年が動きました!乱取りになると、再びお母さんの元へ戻ったのですが、最後にまた先生が、「じゃ、最後に先生とブランコしようか?」「えっ?ブランコ?」と、少年が興味を持ったところで、2人で向き合って立ち、相手の道衣をつかんでクルクル回りながら揺さぶる、という練習では、とっても楽しそうな笑顔まで見られました。(よかったぁ~)そして、最後にみんなで整列して礼をするときには、ちゃんと自分から列に入って座ったのです。「ほら、携帯で写真を撮って、家でお父さんに見せてあげたらいかがですか?」と、言うと、慌てて撮影をするお母さん。あとで、中西先生に、「ヒデキだって、最初はあんな感じだったよね~?お母さんがいなくなるだけで泣いてたもんね~」と、笑われましたが、本当にそのとおりだったことを、私も懐かしく思い出しました。さて、そのビビリのヒデキの方は?月曜日には風邪をひいて学校を欠席してしまったのですが、何とか昨日は元気になり、稽古にも参加できました。見学の親子と話しながらも、私が気になるのは、やっぱり我が息子です。視線だけはしっかりとヒデキに注がれていました。いつもの練習メニューだったのですが、乱取りのときに、驚いたことがありました。(あれ?ヒデキの顔が違うぞ)うまく言えないのですが、いつもより目に力があって、迫力のようなものを感じたのです。やっぱり!これまで苦手だと言っていた5年生のSちゃんのことも、6年生のW君のことも、ヒデキはしっかり倒しました。もちろん、相手に倒されてもいましたが、何というか“負けないオーラ”のようなものを全身から出しているようで、そんなヒデキを見たことがなかった私は、本当に驚いてしまいました。風邪もまだ治りきっていなかったので、中学の稽古までは残りませんでしたが、帰りの車の中で、私は早速ヒデキに話しました。「ヒデキ、今日はすっごくカッコよかったねママ、ビックリしちゃったんだけど、何かいつものヒデキと違っていたよ」「えっ?どんな風に?」「なんかさ~、“負けないぞーー!”っていう気持ちで乱取りしてるように見えたんだよね」「ああ。そうだよ。今日は“絶対に倒す!”って心に決めてたから」「やっぱり!だから強かったんだね。それにしても、一体どうしたの?これまでのヒデキは、どうしてもその気持ち(自信)が持てずにいたじゃない?そこを乗り越えるのって、すっごく難しいんじゃないの?どうやって変わったの?」本当に不思議に思ったので、私はぜひ聞いてみたいと思ったのでした。「それはね…自分の力を信じることなんだよ。それから、やっぱり“夢”だな。あともう一つはね…ヒ・ミ・ちゅ」「あはは何よそれ~~?」母親としては、その“夢”や“秘密”のところまで、根掘り葉掘り聞き出したいところでしたが、あまりしつこくするのもウザいだけだろう、と、そこまで聞いてやめておきました。私は柔道未経験なので、息子に柔道の才能があるのか?とか、センスが良いのか?とかは、まったくわかりません。どちらかと言うと、鈍くて下手に見えています(笑)。昨日の息子の表情の変化に気づいたのは、私一人だけだったのかもしれません。(もしかしたら、ヒデキのクラス担当のO先生は、気づいてくださったかもしれませんが)でも私には、それがものすごく大きな変化だと感じました。ヒデキが、自分の心の中の、目には見えない壁をひとつ、乗り越えたときだったからです。それが、自分の力で越えるしかない、そしてヒデキにとってはとても大きな壁だったからです。だから、毎回、私は息子の稽古を見ていたいんです。こういう瞬間を、息子にとって大切な変化を見逃したくないから。ヒデキはこれから、強くなる。そんな気がしました。それが柔道の大会で何位になる、というような結果に直結するかどうか、はわかりません。人間として、これまでよりもっと強くなる。という意味です。ただの母親の勘ですが。久しぶりにまた、「柔道をやらせて良かった」と、心の底から思いました。ひなたまさみ