カテゴリ:巨木
巨木めぐりを始めたころの、1999年の夏。
当時、仕事が忙しかったため、夏休みは1日しか取れませんでした。 1日だとそんなに遠出はできないけれど、有効に過ごしたい。 そう思ったわたしは、ひとり八高線に乗って、 樹齢700年のタブノキを見に行くことにしました。 単線ローカルにのんびりゆられて最寄駅まで行き、 1日数本しかないバスで、タブノキがある山里へ着きました。 そこから、大雑把な地図を片手に山に登り始めました。 だんだん道が細くなっていき、緑が濃く暗くなっていくけれど、 目標のタブノキにはなかなかたどり着きません。 そんなにかからないはずなのに。 そのうちに、静かな山の中でひとり、ということが急に怖くなって、 あわてて今来た道を駆け下りました。 民家が見えるところまで戻ると、遠くの方に人影が見えました。 わたしはホッとして、村の人に道を聞こうと思い、 こちらまで来るのを待ちました。 近づいてみると、犬を連れた大学生っぽい男の子2人でした。 地図を見せると、この地図は分かるけれど、タブノキに心当たりはないとのこと。 2人は、夏休みで帰省している大学1年生だそうで、 ヒマなので一緒に探してくれる、ということになりました。 こうして、3人と1匹の珍道中が始まりました。 柴の雑種っぽい犬は、元気いっぱいに山道を駆け上っていきます。 2人は散歩中なのでビーサン姿の軽装です。 走りにくそうにあわてて犬を追いかけていきます。 そして、探し回ったあと、ついに目標のタブノキを見つけました。 それは、急な斜面に堂々と立っていました。 枝張りは東西に27メートル、南北25メートル。 そこだけ空気が違うような気がしました。 3人とも言葉もなく眺めていました。 しばらくして、2人のうちの1人が、 近くに住んでいたのに、こんな木があるって知らなかったよ、と言いました。 それから、また里まで戻りました。 バスの時間までまだ間があります。 小川で足を洗い、みんなでしばらく川遊びをしました。 犬も大喜びで飛び跳ねています。 すると、2人が近づいてきて、手を出してごらん、と言います。 手を差し出すと、わたしの手のひらの上に、沢ガニをのっけてくれました。 そして、もう、高校生の女の子が1人で山に登っちゃいけないよ、 それに、オレらだからよかったけど、知らない人についてっちゃダメだからね、 とお説教されちゃいました。 ・・・高校生? あの、確かに化粧も落ちちゃってるし、Tシャツにジーンズだけど、 君たちより○歳も上なんですけど・・・。 でも、訂正せずに素直には~い、と聞きました。 それから、バス停まで送ってもらいました。 別れ際、さっき撮った写真がほしいといって、2人が住所を書いてくれました。 でも、とうとう写真は送らないままになってしまいました。 彼らの中では、女子高生のままにしておきたかったのです。 思い出は美しく。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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