福井県吉崎御坊/願慶寺
願慶寺住職の和田重厚さん(46)は言う。「戦後間もなくまで、参拝客を乗せた定期巡航船も来ていたそうです」。交通の便がよかったことの証左と言えよう。蓮如忌には、民家が民宿や居酒屋となり、町中がごった返した。「新婚旅行客もいたし、かつてはアミューズメントパークだったのでしょう」 そんな昔話をしていると、10数人の参拝団がやって来た。寺に伝わる「嫁おどしの面」という恐ろしい形相のお面を見るためだ。蓮如にまつわる伝説を秘めた面を手に、和田さんが座談を始める。 地元FM局のDJも務めるだけに、話術は巧みで、聴衆は爆笑の渦。話の中に、さりげなく「白骨の御文」に通じる要素を盛り込んでいく。 「人間はおぎゃあと生まれた時から死ぬことになっている。皆さんも必ず死ぬんですよ」。場が一瞬、しんと静まり返る。「でも皆さんが死んだら、1人や2人喜ぶ人がいるかもね」。再びドッと笑いが起きた。 聴衆と一緒に笑いながら、蓮如の時代から500年以上も綿々と続く、民衆とのつながりの強さを感じた。さびれたとはいえ、かつての宗教都市・吉崎の真骨頂は、まさにそこにあった。 塩崎淳一郎記者 リンク先は、読売ホームガイド。