ダイジェスト「ベンチャービジネスと特許戦略」7
(クリックでジャンプします)そしてこのような一国の国際的な競争力を、要素条件、需要条件、企業間の戦略・構造及びライバル競争、関連・支援産業の大きな四因子に分けて分析し、これらの因子についての条件が企業の本国で存在していることにより、製品開発の競争的素地ができあがるのだとし、このような一つのまとまりを持った産業のグループを、クラスター(ぶどうの房)と呼んだ。 このような条件を検討すると、前述したVTRの製品開発においては、ポーターが指摘した条件の全てを満足していたといえる。ではベンチャービジネスについてはどうであろうか。 まず、《初めに製品の登場した企業の本国において市場が競争状態にあること、すなわち多数の企業が同じような製品を作っている》、ここまでは日本も同様であり、問題がない。次に、《熟練工もいれば、製品を作るのに必要な機械を作ったり材料を供給する会社もある》。ここで問題が生じる。日本においては、このような試作品を作る企業は、大企業とその系列下の中小企業がそれに該当する。ところがこの大企業と系列下の中小企業は、系列外の中小企業からは全く信頼されていないのである。いわゆる「大企業の物まね意識」であって、これを告発する記事がこのところ大量に出されている。例えば一九九四年一月二一日の日本経済新聞は一面の連載記事で、《オウム族「先駆者は損」、二番手狙い》という見出しのついた記事を載せた。この中で、大企業は自分のところでは新しい技術開発をせず、中小企業が新しい技術を開発すると、そこに対して大企業から共同開発や販売契約などの提案を持ち込み、中小企業が技術的な内容を全て相手に教えると、大企業は自社の関連会社にその製品を作らせて、最初の中小企業が切り捨てられるというものである。 最近同じ様な特集を『別冊宝島』二〇七号が行った。内容的には似たような事例であるが企業名が伏せずに挙げられている。取材に自信があったのであろう。 『別冊宝島』によると、このような事例は掃いて捨てるほどあるという。著者(富田)の調査でもある会合で三件の匿名希望の事例が寄せられたので、このようなことはかなり一般的に行われているようであるが、問題はこのような大企業の対応がベンチャービジネスを殺しているということである。 先の印牧氏の要約でいえば、技術評価実験会社のできる素地がないのである。 ポーターのあげた次の条件、《販売された製品は消費者によって試され、選択されて、直ちに製品の善し悪しが分かり》というのは、日本でも満たされている。しかし最後の《さらに競争業者の参入があって改良が行われるので、このような条件下で短期間で優秀な製品ができあがる》というのは、現実には《大企業によって中小企業の開発した新製品が盗まれてしまう》と置き換えなければならない。 以上の分析は、ベンチャービジネスに関する限り、ポーターの挙げた条件を日本が満足していないことを示している。日本の現状がこのようなものであるから、ベンチャービジネスの必要性がいくら唱えられても、それが現実の育成政策としては実現しないのである。 前述の印牧氏は、さらに、アイデアを実現するための試作品の開発や製造においては、部品の調達ではその時点の最高性能品を選択するのが一般的であって、部品間の調整は規格を満たせば調整不要であるとし、そして、個別の技術について絶えず特許権や著作権による保護を求めており、また製品の販売期間を六年程度と短期間に求めていること、などである。これにはやや説明がいる。先に述べたVTRは部品点数が約三〇〇〇である。一方パソコンは比較的部品点数が少なく、五〇〇くらいである。しかも一方の部品と他方の部品は電線で繋がっているのであって、機構的には繋がっていない。だから製品をバラバラにして組み立てることができる。試作自体は簡単なので、アイデアが勝負となる。 一方VTRではそうはいかない。細かな部品がいっぱい詰まっていて、歯車同士、モーター同士微妙に連結している。ここでは組み立てられた製品がちゃんと動くことが必要であって、全ての部品がぴったりと合うように設計・製造されなければならない。だからここで述べられたことがそのままハード製品の開発に当てはまるとは言えないのである。 それで、日米のベンチャービジネスに関するデータを表にすると、表2と表3のようになる。まず日本で成功したVTRの技術とシリコンバレーに見られるパソコンの技術をを比較してみよう。両者の技術の相違は表2のようになる。表二「VTRとパソコンの技術の比較」 VTR パソコン開発速度 緩やか(開発から十数年) 急速(数カ月から数年)企業 大企業 ベンチャービジネス部品数 約三〇〇〇 数百部品間の調整 重要 規格を満たせば調整不要技術の特性 長期の研究開発 瞬間芸の集積、個人能力重視部品の調達 下請け部品会社 その時点の最高性能品を選択特許 クロスライセンス契約が主 基本技術以外は個別権利化著作権 軽視 重視