「明け方、夫に抱かれた」
で始まる井上荒野氏の直木賞受賞作「切羽へ」を読んだ。書店で文芸春秋を買う気になったのは、この冒頭に惹かれたため。それとこの作者がほぼ、自分と同年代の女性であり、お父上が井上光晴であることにも興味をそそられた。女性作家者の小説は、大胆にして繊細で、男性目線と異なるので非常に新鮮だ。ことにセックスの描写は、女性作家に期待してしまう。(スミマセン)ところが、この小説には核となるはずのその部分は全くない。それでいて、というかそれだからなのだろうか、とても感性豊かな作品になっている。おそらく九州方言と島を舞台にした設定が、成功しているのだろう。直木賞作品の読み方として、当代随一の作家達の批評(受賞理由)を同時に味わえる点が面白い。ただ、批評の中にも直木賞作品に「品の悪くない小説だが、全体に平面的で、人と物の厚みも不足している」なんて切り捨てる言い方をする人がいるのには驚いた。その点、ひさしぶりだったが、井上ひさしの「楔」の批評は、納得がいった。「よく企まれた恋愛小説ではあるが、評者には退屈だった。あんまり話がなさすぎる。」東京ローズなどの大作を書かれる大家からみれば、そうだろうな。批評家達の「まとめ」を読んで、え、そんな場面あったかなとチェックする読み方も今回初めてであった。そして気がついたのは、この雑誌に収録されているのは、「切羽へ(抄)」だということ。休みの日は、こういった女性作家ものに限る。そして来週は米国でも見ていたがSATC(Sex and the City)を見に行くことにしよう。