うちの職場には金魚4匹とドジョウ5匹が飼われている水槽がある。
水槽の掃除や水換えなどなど、僕がやっている。
でも、そんなことやりたくないのだ。
飼いたければ自宅で飼う。
なぜだったかはイマイチ思い出せないが、小さな水槽が職場にあって職場の長Tが僕の後輩YとKになぜか知らないが金魚を買ってくるようにと言ったのだ。
YとKは当然世話するようなタイプでもなければ、買ってくること自体面倒がっていたくらいなのだが、Tが言うのでしかたなく買ってきた。
ところがTは買ってこいと言っても自分で世話するつもりなんてなく、買わせることで買ってやったという気分を楽しんでいるのだ。それを自分自身では気が付いていないのだから困ったもので、結局、誰かが世話しないわけにいかなくなる。
汚い水槽が見ていられないし、生き物を見て見ぬふりをできるほど器用じゃないので、いたしかたなく世話してすでに2年。
金魚もでかくなった。
そして時折、Tはとんでもないことを口走る。
金魚、でかくなったな~、どこかに放して別の魚を飼おう!だと~。
お話にならない。
そのたび、生きているうちは世話をすると僕は言う。
飼いたければご自由に自分でどうぞだ。
僕は金魚たちを飼いたいわけでもなければ、世話したいわけでもない。
金魚が生きている以上死なないように、ただでさえ男ばかりで汚い職場が、汚い水槽で余計に見苦しくならないようにと考えているだけだ。
1匹死んで減るたびにTは新しい魚を入れようというのだが、僕は新しいものは入れる気はない。全滅した時点で終了。あくまで生きているから死なないようにしているだけ。
世話をしなかったせいで死んでしまうのは殺してしまうのと同じだ。
だから、僕は世話をする。
そしてTは今日、さらにとんでもないことを頼んできたのだ。
職場の屋根下にセキレイが巣を作っていて、雛が巣立ちの時を迎えていたらしく、
親鳥が巣から離れているところで雛を呼んでいたらしい。
Tがたまたま見ていたらしいのだが、雛が親鳥の方へいざ飛び出そうとしたら、何かに引っ掛かってしまい飛びだせなくなったそうだ。
後で聞いたのだけれど、そばにYとKがいたらしく、二人は助けてやるように言われたらしいが手が離せないと断ったらしい。
事務所にいた僕は何も知らず、ちょっと来てくれと手まねきされて、そんな状況の雛を見せられ、どうにかならないかと言われたわけだ。
幾らでも手が届くのに、自分でやらず人にやらせる。
それで助けてやったと自分は好い人間だという気分を楽しむT。
雛の足に巣がほつれて絡まってしまっていただけなのだが、暴れたのできつく絡まってしまい傷つけないように気を使いながらはずしてやっていると、野生のセキレイの雛だから、巣や体にはダニのような蜘蛛の子供のような小さな虫?がたくさん付いていてそれが僕の腕に気がついたらたくさんくっついていた。
腕に付いているだけならはらえば済むが、シャツなんかについてしまっていたら小さすぎて見えない。そんな服を着たままあちこち行くわけにいかないし、家にも持ち帰りたくないので全身下着以外はすべて着替えた。たまたま職場に制服の予備を一式置いていて助かった。
Tはやりたいことしか自分でやらない。
それでも助けてやったのだと考えられる非常に立派な人間だ。
正直、あの年でそうなのかと思うと哀れ。
雛がそのまま死んでしまうことになっていたとしても、それが野生だ。
飼っていたわけでもなく、むしろ糞に困っていたくらいなのだ。
見てしまったら助けてやりたくはなるが、それはあくまで見てしまったからだ。
見つけた人間が助けたいと思ったのならその人が助ければいい。
今回、説明もまともにされずその場まで連れて行かれ現場を見てしまったので助けたが、
そうでなければ手を出すつもりなど全くない。
金魚は野生じゃないが、かれらは正真正銘の野生なんだから。