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カテゴリ:桜ー2017
(2017.4.20) 先週の木曜日の15時頃、 もうすぐ天国に旅立ってしまいそうな患者さんのお部屋に行きました。 私が勤めてから、3回目の入院になる90代のアヤさん(仮名)は 腹水が5リットルも溜り、抜いてもすぐにまた同じぐらい溜まってしまう厳しい状態でした。 2度目の入院の時、7年前に亡くなったご主人への想いを聞いたことがありました。 いつも二人でうちの病院を訪れ、診察やリハビリテーションを受けていたこと。 とても仲良しだったこと。 亡くなってしまって寂しいこと。 早くそばに行きたいこと。お迎えに来てほしいこと。 男性用の腕時計をいつもはめていたアヤさん。 大好きなご主人の形見の品でした。 アヤさんは、呼吸状態が悪化していて 目は半開きのままでした。 翌日休みだった私は、今日の勤務でお別れだと感じました。 ふと、アヤさんの時計のことを思い出しました。 点滴が吸収できず、パンパンに膨れた腕からはずいぶん前から外されていました。 おむつを交換した後、 床頭台の奥から、時計を取り出し 「アヤさん、お父さんの時計だよ。お父さんが守ってくれるからね」 と声をかけ、見せてみました。 アヤさんは、カッと目を見開き 私の言ったことが分かったようでした。 手に握らせてあげると、安心したのか 天井に顔を向けました。 ずっとそうしているわけにもいかないので、少しして 「アヤさん、時計ここに置くからね」 ご主人に見守ってもらえるように テレビの下の、少し高いところに置きました。 ほんの五分ほど経ってもう一度お部屋に行ってみると なんと、アヤさんはほとんど動かせないはずの腕を 届かない時計に向かって必死で伸ばしていました。 「アヤさん!ごめんね、持っていたかったんだよね」 もう一度アヤさんの手に時計を握らせて、 「アヤさん、大好きなお父さんのところに行くんだよ お父さん迎えに来てくれるからね」 浮腫んだアヤさんの手のひらに手を重ね 頭を撫でました。 「アヤさん...本当によく頑張ったね」 ふと、酸素マスクの奥ののどを見ると 赤い泡が見えました。 直後に鮮血があふれてきました。 慌ててナースコールを呼び、 すぐに応答がなかったので、廊下からナースステーションまで叫びました。 急変を知らせる電話を、ご家族にかけていました。 それから数時間後、アヤさんは大好きなご主人のもとへ旅立ちました。 アヤさんとご主人の深い夫婦愛を感じながら、涙をこらえていました。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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