私は4.5年前、何を隠そう、立ち飲み探索にこっていたことがあった。 そのときのブログを引用しよう。
昔の酒屋は、量り売りであった。お客が一升瓶を持ってきてそれにお酒を入れてもらう。 京都からの下り酒が上物とされた。伏見や灘の酒が船や東海道を下ってきたのである。杉樽に揺られて江戸まで来るとちょうど杉の香りが移る。そんな樽酒が好まれた。
これに対して江戸の酒や醤油が逆に京都に運ばれる。これを「下らないもの」と呼ばれた。 これが「くだらない」の語源である。
江戸の酒屋は新しい酒が入ってくると、お客に利き酒をさせた。
そのとき木の桝でさせたのが桝酒。これが定型化して酒屋の立ち飲みがはじまったとされている。中には椅子を出す酒屋も現れた。
これが「居」酒。居酒屋のはじまりである。池波正太郎の『剣客商売』や『鬼平犯科帖』を読むとこの辺の世界が目の前に現れる。
そんな立ち飲みやが下町にはまだちらほらある。晴海通りから勝鬨橋を渡った右手に「かねます」という究極の立ち飲み屋があると昔、聞いた。小汚いが、滅法うまいという。だから夕方早く行かないと店に入れないという。
私も何度か覗いてみたが、いつも一杯で諦めた。先日、ちょうど仕事でトリトンスクエアーに行ったので、探したが店は亡くなっていた。というより綺麗なビルに変わっていた。最近はあの辺もお洒落になってしまった。路地裏や、月島まで足を伸ばさないと昔の情緒が味わえない。ちょっとがっかりした。
そんな折、スクエアーで5時前に仕事が終った。ちょっと時間が中と半端だなーと考えながら勝どき方面に歩いていった。すると後ろから「みつおかさーん」という声がした。某外資系会社のお偉いさんである。久し振りだから少し付き合いませんと言う。このかたはなかなかのグルメである。こんな時間にどこに行くのかとついていく。ちょっと面白い店ですよと前置きがつく。
勝どきの交差点脇のビルの1階であった。がらがらっと格子戸を開ける。そこはL字型の立ち飲み出会った。なんと、店名は「かねます」。ビルの中に入っていたのだ。
ぐじ(アマダイ)の昆布じめ、雲丹の飛騨牛巻き、ゆばあんかけを頼む。早速、冷酒。こんな時間からの一杯はたまらない。
それにしてもここの1品は半端じゃない。朝築地で仕入れた極上の新鮮な素材にしっかり仕事をしている。ぐじの昆布じめなど、口に入れた瞬間から、舌にねっとりとからみつく自然な旨み。じーんと旨さの余韻が体中に響く。嗚呼、これだから日本人はやめられない。
お次は霜降りの飛騨牛の巻物。口に含むとまず霜降り牛のほんのりした甘味、そして噛 むと今度は雲丹の濃厚なうまみ。
ナナなンと、中にはこれでもかと生うにが詰まっている。嗚呼、幸せ。
ああ、紹介しときますよ、みつおかさん。こちら資生堂の広報課長、とお隣さんを紹介された。
連れの美女は神戸のほうの美術館のデザイナー。
フーム、やはりここは客層もなかなかである。