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テーマ:お勧めの本(7401)
カテゴリ:★★★★☆な本
谷底から見上げた「明治維新」。明治10年。時代から取り残され、根津遊廓に巣食う男と女の身に降りそそぐのは、絶望の雨か、かすかな希望の光か。『茗荷谷の猫』で大注目の新鋭が放つ、傑作長編小説。 <感想> ★★★★☆ 時代には大きな節目というものがあります。 近代と現代の境目である敗戦。 さらに遡れば近世と近代の境目 である明治維新。 時代のうねりは常にドラマチックで、しばしば小 説の題材になります。 これは私自身の偏った考えかもしれませんが、この二つを物語とし て取り上げる場合その切り口は異なります。 庶民個々のそれを物 語とする敗戦に対して、明治維新は坂本竜馬などのメジャーどころ が活躍する歴史物語としての側面が強いような気がします。 まぁ~ それはそれで面白いわけですが、一般庶民はそれをどのように受け 止めていたのか?そのあたりがすげぇ気になったりもするわけです。 さて、前置きが長くなりました。 本書の舞台は明治十年の根津遊郭。 主人公は武士から身をやつ し遊郭の立番を勤める定九郎。 読み進めると江戸を舞台にした時代小説の雰囲気が色濃く立ち込 めていますが、ところどころに明治を象徴するキーワードが出てきま す。 そのあたりが中途半端と感じたりもしますが、庶民が感じてい た明治十年とはそんな時代だったのかもしれません。 時代に取り残されて鬱屈している定九郎になかなか感情移入でき ませんでしたが、ラスト間際の定九郎が肩を震わせながら泣くシーン は秀逸で思わずうるるんとなってしまいました。 正直言って直木賞 作品のわりにはジミですが、時代の波に乗るでもなく強く抗うでもない。 ただ背を向けて生きる男の寂寥感や孤独がとても巧みに描かれてる ように感じました。 余談ですが、舞台になった根津遊郭は東京大学ができた為、洲崎に 強制移転させられます。 その洲崎遊郭の様子を記したのが、永井 荷風の『断腸亭日乗』です。 作品の背景をつついてみても面白いかもしれません。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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