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ひよきちわーるど

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2005.09.27
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カテゴリ:思い出の人


吾木香 すすきかるかや
 
秋草の

さびしききはみ 君におくらむ



               若山牧水







この歌を口ずさむとき 
いつも脳裏に浮かんでくるのは
祖母と歩いた秋の野原である。


あの頃は まだあちこちに大きな野原が残っていて
夕暮れ、祖母と手をつなぎながら秋を探しに行ったものだった。







あたりの風景が全て金色に色づく中
祖母の手にひかれ

これは猫じゃらし、これは薄・・・と
教えてもらいながらの散歩であった。










この歌は祖母が時折口ずさんでいたものだったが
幼かった私は 「吾木香」の意味が分からず

別段意識をすることなく
一緒になって口ずさんでいたものだった。
















高校生の頃だったか

突然「吾木香」とは
「吾も恋ふ」のことではないかと思ったことがある。







それまで この歌が牧水の歌であることも
そして この歌が活字になっているものも目にしたことがなかったため

私はすっかり

「吾も恋ふ」と思いこんでしまった。







大人になり、やがて この「吾も恋ふ」は
本当は「吾木香」なのだと知ることになるのだが

祖母のことを想うとき やはり心のどこかで
「吾も恋ふ」でもよいのではないかと思う時すらある。













終戦直後 祖母は頼みとなる夫を失った。

とにかくも平穏な日々が訪れ
これからだというときに
心の支えとなっていた人を失ったのである。

あとに遺されたのは1歳の息子、
そしておなかの中には新しい命が芽生えていた。










あの戦後の混乱の中 
一体どのような思いで 2人の子どもを育て上げたのだろうと思う。

その時には自分の両親も既に亡く
弟は遠く離れた東京にいた。

どんなに心細かったことだろう。










そんな中をかいくぐってきた祖母である。

確かに祖母のことを強すぎるとか、強情だとか
そんな風に言う人々のいたことも知っている。

それでも祖母にとって
子どもを育て上げるためには仕方のなかったことなのだと
私は思う。

強くなければ 戦後の混乱の中
我が子を護りきることなどできなかったはずだ。













そんな中、どうして良いか分からなくなったとき
途方に暮れたとき

祖母の心の支えとなったのは
若くして逝った祖父だったのだと思う。








2年にも満たない結婚生活の中
そのほとんどは祖父が戦地に行っていたという中
思い出はそう多くなかった。



そのただでさえ少ない思い出を 
自分の記憶の中からかき集め

祖母は心の中で
何度も繰り返していたのだと思う。















この歌を口ずさむとき
祖母の胸には
一体どのような想いが去来していたのだろう。



いつしか 我が子が自分の夫の齢を越え
自分は少しずつ老いに近付いている。




今では 自分の息子よりも若い夫に
「私、ここまで頑張ってきましたよ。」と
語りかけるときもあったのではないだろうか。











戦時中、食べ物の乏しくなったときに自分は水だけを飲み、
その食料全てを 
祖母と当時乳飲み子だった自分の息子に分けていた祖父。

終戦直後の混乱期、銃弾を受けたままの体で
祖母を護り「とにかく今は九州に帰ることだけを考えなさい」と
励まし続けた。

乳飲み子だった自分の息子が 空腹のあまりに泣き叫ぶのを見て
「気が狂いそうだ」と泣いた祖父。




その祖父が 故郷の九州に帰り着いた途端
力尽きて逝ってしまったのである。









少女時代に父を亡くしていた祖母が
夫をどんなに慕っていたか
想像するだけでも辛くなる。











祖父が亡くなって57年。

祖母は再婚もせず
ずっと祖父のことを想って生きてきた。



「晴水さんはね・・・」と
ことあるごとに話してくれていた。 

亡き人のことを話す時の
祖母の優しい眼を
今でも覚えている。













明治生まれの祖母のことである。

夫と一緒にいたときには
自分の想いを伝えることもできなかったのではないか、と。













「吾木香 すすきかるかや 

  秋草の  さびしききはみ 君におくらむ」













夫が逝って

何十年も経ったあとに


「吾も恋ふ」と小さな声で呟く。








そのあとに続く秋草の名の 

なんとさびしい響きだろう。














その「さびしききはみ」のなかに

祖母がどんな想いを閉じこめていたのか







今となっては

分かる手だてもない。




















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Last updated  2016.01.01 23:31:39
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