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ひよきちわーるど

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2005.12.20
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カテゴリ:生きていくこと


大いなる椿の一樹野に老いて

      身の紅を汲みあかぬかも



               稲葉京子





今、自分の住んでいる市内においても
そして 幼い頃を過ごした故郷においても
心の拠り所とする樹が存在する。




思えば13年前 この地に嫁いできたとき
夫の実家そばにある大きな樹を見上げ

「・・・この樹の樹齢はどれくらいなのだろう」と思った。




今、私がこの地に若木を植えたとて、
そして私がこの地で天寿を全うしたとて

その時ですら その若木は
樹齢何十年にしかならないのだろうなと思った。






嫁いできて まだ数日しか経っていなかったあの時
見るもの、聞くもの全て自分にとって慣れぬものばかりで
ただただ必死だった。

春まだ浅い時期
大樹を見上げればまだ葉もでておらず
その裸木を 何やら心細い思いで見つめていたものだった。






・・・今でも その大樹のそばを車で通りかかる度
私は心で語りかける。

「私、ここに嫁いできて13年目ですよ。
 しぶとく(笑)生きていますよ。」と。










幼い頃を過ごした飫肥の町は
誠に小さな城下町である。

その城跡に母校の小学校は建っており
あの頃の私は毎日大手門をくぐり、石垣を眺めながら
敷地内の奥にある校舎に入っていったものだった。





途中、しんとした空気を漂わせる杉林がある。

どの木もまっすぐに天をつき
その林の中はひんやりと冷たい。

当時小学生だった私は その杉林にどことなく怖れを感じ
あまり近づきはしなかった。

その林を横目に見つつ お昼休みにはクラスのお友達と一緒に
そのすぐ隣の校庭で缶蹴りやかくれんぼをして遊んでいたものだった。





その校庭の隅にひときわ大きな杉の木がある。

私は何故かしらその木が好きで
よくその木の根元でひなたぼっこをしていた。








その懐かしい飫肥をあとにして早29年。

数年前、まだ幼かった娘を伴い
久しぶりに飫肥を訪れた。

母校の小学校に行き、
校庭の隅にある その大きな杉の木の元に駆け寄る。




一瞬「あれ?この木、ちょっと年をとった?」と思った。








・・・あの頃まだ10歳だった小さな女の子が
いつしか大人になっていて
傍らに幼い娘を連れていることを思えば

その杉の木の、私に対する言い分たるや
「ちょっと年をとった?」ではすまない(笑)であろう。

「ひよきちよ、君の方こそ『ちょっと年をとった』どころではなく
 それこそ『大激変』ではないか。」と。






29年もの間 1人の人間に訪れたその大きな変化を思うとき
この大きな杉の木に訪れた変化が 
ほんの僅かなものでしかないことを考えずには居られない。

大きな木と人間とでは
全く違う時間の中で生きているのだと思う。

その、違う時の流れで生きているもの同士が
この世で共に存在しているのである。








・・・いつか自分の目で実際に見、
触れてみたい大樹が関東地方にある。

私の住む地から遠く離れた場所に在る樹で
自分の眼で見るというその夢がいつ叶うか分からないのだけれど。





樹齢何百年という樹から見れば
私たち人間の営みの 何と忙しないこと。

輪廻転生という観点から考えてみた場合
大樹はずっと変わらずその地に在るのだけれど
私たち人間は幾度となく生まれ変わり 
そしてそのたび この世から消えていなくなる。







彼の地にある私の憧れる大樹も
様々な人間の生き死にを見てきたのだろうと思う。

もしかしたら過去世の私も 今と同じようにその大樹に憧れ続け
はるばるその樹に逢いに行っていたのではないだろうか。

私自身、生まれくるそのたびに
その大樹に逢いに行っているのかもしれないことを考えたら
何だか可笑しくなってきた(笑)。





そして その大樹からしてみれば

「おお、ひよきちよ。
 君は今世では 何と関西からはるばる私に逢いに来たのかね。」と

なるかもしれない、と。









その憧れの大樹が 地に根を下ろし何百年も経っていることを思えば
毎年豊かな葉を茂らせてくれることに感謝したいと思う。

一体どれほどのエネルギーを必要としたことだろう。

年によっては雪害、風害に
ひどくいためつけられる時もあることと思う。

そんな中でも、葉を出してくれた。


その強靱な生命力に感嘆する。








人は自分の人生を精一杯生き 
そしていつしかこの世からいなくなる。

そういう人々を大樹は声もなく見つめている。





樹と人間。

それぞれ全く違う時の流れに生きながら
そして互いに影響を及ぼし合いながら 
共にこの世に生きている。







大樹は これまで私の人生において
どれほど多くの生命力を与えてくれたことだろう。


そしてこれからも
ことあるごとに私を勇気づけてくれることと思う。









ふと思う。




この世は 

何と多くの
生きゆくもので溢れているのだろう と。














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Last updated  2015.12.11 10:13:32
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