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カテゴリ:行く先々にて
ここ関西に嫁いできて14年目。 同じ関西圏の京都に足を運ぶようになりましてまだ半年です。 いつか京都に行ってみようかという気持ちはありましたものの 積極的に行こうという気持ちもさほどありませんで どちらかと言いますと神戸もしくは奈良の方に関心が向いておりました。 そんな私に京都への道を教えて下さったのは 入江相政著「侍従長のひとりごと」という本でした。 何の気無しに手に取った本ではありますが 抑制のきいた静かな文章に惹かれ いっきに読み進めることになったのです。 その中に「古都・時の流れの中に」という項目がありました。 そこには氏の 京都での思い出が書かれてありました。 加茂の流れを見、高瀬川に沿ってあるき、東山を、北山を、西山を見れば、 そこには、昭和初年、大正、明治、幕末、さらには応仁の乱のころと あまり変わらないものが、いっぱいにある。 入江相政 「侍従長のひとりごと」 まさにこの文章に触れ 私は古き都に気持ちをうつすようになったのでした。 しかし、京都のことは何一つ知りませんで 足がかりとして書店で観光案内の雑誌を購入致しました。 京都初心者の私にとりまして (何しろ桂川の場所さえ正確には知らない) 詳しい地図入りの案内は確かに便利ではありました。 けれど何かが違うのです。 どこに何があるのかほとんど知りませんから その点では大変重宝しましたけれども 私の知りたいのはどこの寺社の桜や紅葉が美しいとか 老舗のお店の情報ですとかそういうことでは決してなく 一体どこに行けば どの路を散策すれば 昔と変わらぬ風景に出逢えるかということでした。 都に対する憧れは幼い頃からありました。 母が読んでくれた今昔物語、平家物語。 詳しい内容までは分かりませんでしたけれども その文章のよどみのなさ、リズム、そして母の美しい声。 か細い 透き通るような声でした。 ひとつひとつの言葉を丁寧に静かに読み聞かせてくれました。 今も目を閉じればあの頃の母の声がよみがえって参ります。 その今昔物語の中におきまして 都の月を眺める話がありますけれども 幼かった私はその月の姿を思い浮かべるのが好きでした。 今と違い 車の騒音もテレビの音も 何も聞こえない空間です。 耳を澄ませれば 遠く砧を打つ音。 大路を過ぎてゆく風の音。 そんな中 遙か天空をゆく月を見上げるのです。 行ってみたいのは 秋の夜の嵯峨野。 街灯りの届かぬ闇に包まれた場所で 独り 月を眺めてみたいと思います。 何処か広い薄野で 夜を明かしてみたいとも思うのです。 けれど今のこのご時世 そのようなことが可能とも思われません。 ですので できることであれば 自分のこの魂だけでも薄野に遊ばせてみたいと思います。 萩叢も尾花もいまはしずもれる この世照らして銅色(あかがね)の月 藤井常世 これから幾度この都に足をはこべば 古の人々と心を通わせる事ができるのでしょうか。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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