ほんだらかんだらと仲間たち

上の子りんごがまだ生まれる前のときのこと。

毎晩、帰宅の遅い夫。

あるとき、

「そうだ、迎えに行って、一緒に晩御飯食べて帰ろう」

と思いついた。

そういうときは、普通、事前に電話を入れるのだが、
そのときは、驚かせようと思って、会社の駐車場に
行ってみた。

受付は真っ暗で人の気配はない。

が、２階の、夫のいる付近は電気がついていていた。

私は、すぐ近くの公衆電話から、会社に電話をかけた。

このころは、まだ携帯電話などなくて、
用があったら、会社で呼び出してもらうのだ。

が、だれも電話をとらない。

間違ったのかと思い、かけなおしても、やはり出ない。

悲しくなってきた。

入れ違いに夫は帰ったのか、と思ったら、
泣きたくなった。

しつこく電話を鳴らしていたら、窓の向こうで
誰かが立ち上がるシルエットが見えた。
誰か、いる！

あの背の高さは、夫だ！

きっと、今、取ってくれる！

そう思ってまた電話をかけたが、やはり誰も出ない。

電話の音が出ないのか、何か、トラブルなのか・・・

でも、入口は施錠されていて中には入れない。

ずいぶん待ったが、だれも出てくる気配がない。

駐車場には、夫の車があった。
よかった・・・

じゃぁ、どうにかして私がここで待っていることを
気づいてもらわなきゃ。

砂利敷きの駐車場の、手ごろなのを選んで、
窓の真下から垂直に放り投げてみた。

部屋の中から、よく見える高さまで。

まっすぐに、何度も何度も投げ上げた。

充分見える高さに放り投げたのに、
何の反応もない。

・・・おかしいな。

あ、そうか。
中が明るくて外が暗いから、ただ投げ上げる
だけでは、見えづらいんだ。

じゃぁ、ちょっと窓に触れるくらいに
投げてみよう。

うまい具合に、窓にちょっと当たるくらいに
垂直に何度も投げてみた。

それなのに、だれも気付いてくれない。

やはり、大きな音が出ないとわからないんだ。

ずっと待っていて、心細くなった私は、
窓から離れ、心の中で

「真紀子選手、大きく振りかぶって

　第１球、投げました！」

思いっきり２階の窓に向かった球は
あやまたず、夫のいるすぐ後ろに当たった。

細かい破片が落ちてくるので、背中を向けた
私の首筋に、破片の刺激を感じた。

そして、直後、次々と、窓の開く音がした。

私が振り返ると、夫や夫の同僚・部下たちが外を覗いている。

夫は私に気づいて

「投げたのはあなたなの？！」

と聞いてきた。

「そうだよ。」

と返事をすると

「電話、つながらなかったんだ。
　事務室から切り替えるのを忘れてた。」

そう言って、急いで降りてきた。

仕事仲間のみんなもぞろぞろと降りてきて、
私の周りを取り囲んだ。

夫：あ～あ・・・壊しちゃった
　　これは、弁償だな。

　　あなたじゃ作れないでしょう？

　　いったい、何個壊したの？

そう言って、砂利敷きの駐車場に積もった
雪で玉を作り始めた。

一緒に降りてきたみんなも、一斉に作り始めた。

夫：明日、みんなで雪合戦しようと思って
　　いっぱい作ったんだよ。


そういいながら、小さな雪の玉を転がし始めた。
みるみる、大きな玉になり、あっと言う間に
雪だるまもできた。

＜だって・・・何回も放り投げたり、窓に
　軽くタッチするように工夫してぶつけたり
　したから。＞

雪玉づくりを終えたみんなと一緒に温かい饂飩を
食べながら、どんなに心細かったか、寒かったか
訴えた。

夫：じゃぁ、家に帰ってベランダに雪だるまを作ろうね

その言葉にやっと機嫌を直した私でした。