平日の横浜・関内の付近は、オフィス街という装いの街だ。

横浜マリンスタジアムの敷地内にある公園。

セミが鳴きやまない木陰から、オレはターゲットを定点観測していた。

小さな交差点の向こうに見える半世紀以上前に建てられた古ぼけたビル。

午前11：18

チェックのシャツにボストンバッグをさした肥満ぎみの男が店前に立ち止まった。
入店しようと扉を押してみたが開かないようだ。
下半分曇りガラスになっているドアから、店内の様子をみていた。

その男は、しばらく腕時計をチラチラ見ながら待っていたが、
５分後、あきらめて去っていった。

午前11：27

水色の作業服の男がやってきた。
『準備中』というプレートをさげたその店の扉に手を掛けたが、開かないようだ。

この男は、店がまだ開いていない事に驚愕したようなリアクションをとり、
何度もこの店を振り返りながら、どこかへ消えていった。

午前11：34

『梅香亭（ばいこうてい）』と書かれたこの店のドアが開き、中から女性が出てきた。

その女性は、ドアに掛けられた『準備中』のプレートをクルンッとひっくり返し
『営業中』に変えて、また店内に消えていった。

「今だーーーーーッ！！」

オレは、その【梅香亭】と書かれた店にオリンピックの強化選手のごとくダッシュした。

信号機はちょうど『青』

交差点をわたり、店の両開きのドアのうち、左側を強く押した。

ドガーーーンッ！！

「ぎゃーっ！」

ドアは開かず、勢いでドアに頭を打った。

・・・思い出した。
この両開きドアは、右ドアだけ開かないように固定されていたのだった。
ひさびさにこの店に来たので忘れてた。

ドアの右側をそっと押し開けた。

「いらっしゃいませ、空いてる席に○×△・・・・・」

おおお、いた、いた！！
滑舌の悪い無表情の亭主がいた！！

相変わらず滑舌が悪い！
OK!そうこなくっちゃ梅香亭じゃないぜ！

以前（1年半くらい前）、このブログで紹介した『梅香亭』に再びやってきた。

あれから何度もやって来ていたが、今回は数ヶ月ぶりのごぶさただ。

おおおお、今日は、一番のりだ！まだ誰もお客がいない。

この店、変なんです。
オープンは午前11：00のはずですが、今日は開店したのが11：30すぎでした。

30分も真夏の炎天下で待ちぼうけしちゃったよ。
ラフすぎる開店時間だってーの！

古ぼけたレトロな席に腰掛けて、アレを注文する！
もちろん、ひさびさに食べるアレです！

「ハヤシライス大盛り！！」

目をカッと見開いて、無表情の店主がこう言った。

「大盛りは、○×△◎ですが、よーしーですか？」

オーケー！オーケー！
今日も絶好調に滑舌悪くてナニ言ってんだか
よくわかんないぜ、ベイべーッ！

オレも条件反射で返事しちゃうぜ！

「はい！大丈夫です！」

なんて不毛な会話も楽しい、ここは梅香亭！

のどが渇いていたので、出された水を一気に飲み干した。

すかさず亭主が、水を汲みに来る。

でもまだ、のどが渇いていたので、コップの水を飲み干した。

それをめざとく見つけた亭主が、また水を汲みに来る。

どど～んっ！！

アップすぎてなんだかわかんないものが出てきたね！

「ハヤシライス大盛りれす。ライスが熱い◎○△×○さい！」

んもう～、おじちゃんが、なに言ってんだか聞き取れねーや！
細かいこと抜きだ！喰うぜ！！

・・・・にしても、でっけーな！
大盛りっていうか、バカ盛りだぜ、これ！(笑)

バースデーケーキをホール喰いしてるみたいな感覚だ。

こうやってフリスクのケースを大きさの比較の参考のために置いてみたけど、デカいよね・・・かなり。

「んん～、ウマいっ！」

甘みのあるソース・・・・独特な味だ。

溶けかかったきつね色のタマネギ、大きくカットされた豚肉。

これは、デミグラスソースの味ではないと思う。

ハッシュ・ド・ビーフでもなく、ビーフシチューでもない味・・・。

しょう油や、みりんや、中濃ソースなどで煮込まれたような味。

この店、独特のハヤシライスだ。

他に比較しようがない『オンリー・ワン』の味のハヤシライスだ。

自分は２年前に初めて食べてから、ときどきここへ来ていた。

舌に味が慣れてきてしまったので、水を一気に流し込む。

それをみつけた亭主が、すばやく水を汲みに来る。

汲み終わると、レジ脇の元の定位置にもどる亭主。

滑舌の悪い亭主は、無表情で大きな目でギロリとこちらを見ている。

また水を飲み干すと・・・・・

ツカツカ・・・・

亭主が水をすばやく汲む。

ここの亭主は、水を汲むことに使命感をおびている。

たぶん、ある日神様が枕元に現れて、
「あなたは世のため、人のため、お水をコップに汲み続けなさい」
・・・・と、お告げがあったのだろう(笑)

独特なここの亭主。インパクトのある人だ。
一度見たら、絶対忘れない人だ。

アメリカのタイム誌が毎年年末に選出する『マン・オブ・ザ・イヤー』に
梅香亭のおじさんを推薦したいくらいだ(笑)

写真撮って、この日記に載せたいくらいだが、本人の許可を取ってないので、
肖像権やプライバシーに問題あるから、イラストを描いてみた。

ホンダイス画伯は、学生のころ、図工や美術の科目はいつも『４』か『５』だったので、
ぜひリアルな描写を見てもらいたい。

はい！鬼才ホンダイス画伯が86秒で描き上げた『梅香亭』のおじちゃん！

ちょっと、藤子不二雄(F)調なイラストになってしまいました。
ドラえもんとか、パーマンとか、オバQにそのまんま出演できそうなキャラになっちゃいました。

でも、こんな感じ(笑)
ダチョウが毛をむしられて、ビックリしてるような顔してますから、ここのおじちゃん！

正解は、お店に行って確かめてみて！

はいっ！お約束の完食～っ！

もう何度も喰ってるから、ここの大盛りには驚かないよ！
自分も１kgくらい米を喰えるのわかったし・・・。

水を飲む。

ささっと亭主が来て、水を汲む。

使命を終えた亭主が、定位置にもどる・・・か、
もどらないかの絶妙なタイミングで、オレも水を飲む！！

いち早く気付いた亭主が、またタッチ・アンド・ゴーで、水を汲みに来る。

・・・で、亭主がきびすを返して、定位置に向かおうとしているときに、
オレもまたまた水を飲み干す。

振り返って、気付いた亭主が、これはいかんっと、くるくるターンしてまた水を汲む。

すばらしいステップ！

ダイナミックなターン！

この亭主に、『MJ（マイケル・ジャクソン）』が乗り移ってるよ！

梅香亭で『キング・オブ・ポップス』を見つけたぜーーーーっ！

「アーーーーオッ！ダッ！ダッ！フーズ・バーッド？」

オーケー！オーケー！
♪ビリー・ジーン・ナット・マイ・ラヴァーだぜ！！
ユーは、YOKOHAMAのMJだぜ、ベイべーッ！！
（なんのこっちゃ？？）

・・・って、ことでまた水を飲む！

亭主がすばやく見つけ、親の仇（かたき）かと思うような形相で水を汲みに来る。

でも、亭主が汲み終わって、後ろ向いたら、また飲んじゃう！

・・・で、

・・・で、

MJ・・・じゃなかった、
亭主は、くるくると勢い余って、華麗にターンして、また水を汲む。

アッハッハッハッハッ！！

笑いが止まんない～っ！！

助けて～！！梅香亭のおじちゃんが笑わすぅ～！！

いたずらっ子で、ゴメンなさい！
<m(__)m>ペコリ！

いたずらばかりしていたせいか、それとも梅香亭の呪い（笑）か、
帰りの電車ではトイレが近くなり、何度も何度も途中下車の旅になってしまいました(泣)