前回(2011年3月24日)の日記
★凍てつく街のサバイバーたち【その1】★ からのつづき
オレンジ色のネオンがぼんやり灯る街を歩いている。
ただもくもくと前に向かって歩いている。
各電車が今夜中に復旧しないという最悪なニュースを聞きながら、どう多く見積もっても
ハッピー・エンドにはなりそうもないシナリオに向けて歩いている。
無謀にも徒歩で千葉まで行こうとしている自分は、きっと破滅に向かって歩いている。
時間が経過するたび、不安が自分の中で大きくなってきているが、今はなにか考えながら歩いていると、なんか頭がおかしくなりそうだ。
国道14号線は、上下ともに渋滞が起きている。
『渋滞』というより、路上に堂々と『駐車』しているようにしかみえないクルマの群れ。
たとえバスに乗れたとしても、バス自体が渋滞にハマっていて走ることすら出来ていない。
タクシーも同様・・・。
信じられない光景だが、ほかにベストな交通手段が思いつかない今は『徒歩』が一番早く帰宅出来そうな手段のようだ。
乗り物より徒歩のほうが速いなんて、常識をくつがえすような展開。
いったい世の中になにが起きたのだろう?
帰宅難民になりつつある歩道いっぱいにいるサラリーマンの群れに混ざって歩いている。
情報がなにも入ってこないので、自分の想像でしかないが、世間はこの大地震で混乱しているんだろうな・・・。
暗闇の中をただひたすら歩いている自分には知るよしもない。
【両国】と書かれた道路案内の看板が見えてきた。
今は八百長問題で大きく揺れている日本の国技『相撲』で有名な両国国技館がある街。
国技館は駅前にあるから、自分が今歩いている国道からは、その姿は見えない。
どこか忘れたが、途中で橋を渡ったとき、川の向こうにスカイツリーが見えた。
かなり至近距離で仰ぐように眺めた。
大きく天高くそびえ立つスカイツリーを肉眼で、こんな近くで見たのは初めてだ。
「あっ・・・!」
このとき初めて気付いた。
自分はこのときすでに、心の一部が死んでいたようだ。
初めてお目にかかるスカイツリーになんの感動も感じられない。
前に向かって歩くこと、
とにかく帰宅すること、
体力を温存して歩くペースを調整すること、
賢い判断をして最短距離を探し出すこと、
この受難からはやく逃れること、
帰宅難民になった今に解決の糸口を早くみつけること、
また余震がいつ来るか判らない現状をとにかく生き抜くこと!
今は、混乱したパニック頭では、そんなことを考えることでいっぱいいっぱいなのだ。
スカイツリーは、次回お目にかかったときに、感動するかも知れない。
今は心の一部が、他の原動力に使われてしまっているらしい。
冷たい闇の中、無感動・・・。
前方にひときわ光輝くネオンが見えてきた。
【錦糸町】駅前の楽天地ビルだ。
先程から、数件のコンビニに寄ってみているが、トイレに物凄い人数が並んでいる。
店の入口からはみ出るくらい並んでいる。
中に入ると、弁当、おにぎり、パンはすでに売り切れ。
棚がガラガラになったコンビニを見るのは初めてだ。
レジ待ちも店内の壁をぐるっと這うように長蛇の列。
いったい今、自分の住んでいる世界になにが起きているんだろう?
自分はさっきから『単三電池』を探している。
・・・どのコンビニも売り切れ。
たぶんみんなも自分と同じ目的で単三電池を買ってしまったのだろう。
自分は、単三電池で充電できるケータイ充電器を持ち歩いている。
さっきから、あちこちに電話しても回線パンクで繋がらず、Eメールは送っても戻ってくる。
ネットに繋いで情報を探していたりして、歩きながら頻繁にケータイを使っていたため、
バッテリーが切れそうになっていた。
「単三電池」を早く探さなくては・・・。
歩道は相変わらずたくさんのサラリーマンがところ狭しと同じ方向へ歩いている。
ヒールで歩いているOLさんもたくさんいる。
足がもつれて転倒している人もいる。
歩きすぎて腰が痛くなってしまった若い女性が、ガードレールにもたれ掛かるようにうずくまり、
友人に腰をさすってもらっている。
身体が触れた・・・とかで、ケンカしてる男の人たちもいる。
人々の混乱を目の当たりにすると、自分自身も不安感をあおられる。
修羅場だ・・・。
悪夢だ・・・。
みんなが冷静さをなくしている。
誰もが焦って常識的な判断力を失っていた。
歩き続けてきたせいか体温が上がってきたので、うっすら身体が汗をかきはじめていた。
上着を脱いで歩き続けた。自分の身体から湯気が立っていた。
無心になって、ただ両足を交互に前に出し、後ろ足でアスファルトを蹴って歩き続けた。
自転車屋の明かりが見えた。
やたら人だかりが出来ている。
そういえば、さっきから自転車屋を何軒か通り過ぎてきたが、どの店も人だかりがしていた。
店頭の9000~15000円くらいのママチャリが飛ぶように売れてた。
買っているのは、帰宅難民になりかけているコートを着たサラリーマンたち。
タクシー代で何万円も払うなら自転車を買ったほうが安上がりだろう。
まして現状は、渋滞して道はいっこうに動いているように見えないから、
徒歩よりも、今はバイクや自転車のほうが優れた移動手段かも知れない。
歩きはじめて、すでに2時間以上経過していた。
かなりの速度で早歩きしているのだが、思っていたより道のりは長いようだ。
1時間後の自分は、どこまで歩けているのだろう?
2時間後の自分は、なにをしているだろうか?
3時間後、家に無事に帰宅しているだろうか?
こんな非常事態にちょっと先の自分の未来が見出だせない。
歩いても、歩いても、ただ絶望感が支配しているだけ・・・。
『東日本大震災』と後から名付けられた今回の地震。
日本の歴史を覆してしまうなんて、このときの自分は知るよしもなかった。
頬をなでる風が冷たくなってきたので、また上着を着た。
<次回、★凍てつく街のサバイバーたち【その3】につづく>