支援ボランティア活動の初日。
　
中学校の校舎内３階での作業だった。
　
階段の踊り場に貼られた紙を見てギョッとした。
　
　
【自分の命は、自分で守る】
　
　
すごく殺伐としたスローガンだ。
　
中学生の少年少女たちも、まだまだ子供なのに
こんな心構えで毎日の学校生活を送っている
　
これが今の南三陸町の現実！！
　
老若男女、みんな生死をかけた壮絶な体験をして、それを教訓に今日を生き抜いている。
　
天災の前では、誰もなすすべがない。
誰かが助けてくれることもありえないので、自分の身は自分で守るしか生きてく道はないのだ。
子供達も精神的には自立していかなくてはいけない現状。
　
小高い丘の上に建てられているこの中学校。
　
校舎の３階の窓から見下ろすと校庭の桜の樹木。
　
その先、すぐ下の段に小学校が併設されている。
小学校の校庭に数十人の人達が横一列にならんでうずくまっているのが見える。なにやってるんだろ・・・？
　
津波のとき、この小学校の校庭までギリギリ床上浸水したようで、
自分たちとは別のボランティア班が金属探知機を使って校庭に散乱している細かな金属片やガラス片を拾い集めているのだ。
　
その小学校の校庭の眼下に広がる景色は、ガレキだらけの荒れ果てた町並みが海へと続いている。
　
この学校の体育館もこの地区の避難所になっていて、大勢の家族が暮らしている。
けっこう安全のボーダーラインぎりぎりのところを避難所にしているのだ。
　
　
今夜のこの回の日記では、なぜ自分がこの南三陸町にボランティア支援に行ったか書いてみます・・・。
　
この日記にも以前書きましたが、大地震がきた日
自分は東京駅で被災して、帰宅難民になりました。
　
このことは、このブログ内の『凍てつく街のサバイバーたち』で書いてる途中なので、割愛させていただきますが、
自分はあの日、なにも手出しできないで、ただ指をくわえて帰宅難民になるのが嫌で、
強引に自分の境遇や運命を変えようと自宅のある千葉に向かって歩きだしました。
腿や、ふくらはぎや、股関節がガタガタになるまで、足の裏がマメだらけになるまで歩き続けました。
　
ある方法で深夜に帰宅できましたが、近所のコンビナートの爆発や液状化現象によりパニックになっている地元。
　
悪夢のような一日が明け、疲労感いっぱいの身体を引きずり、テレビをつけたとき、
今回の地震の被害の大きさに初めて気づいた。

チャンネルを回すと深刻な顔した菅総理大臣が・・・。
サイズが大きすぎる作業着みたいなものを着て報道陣のマイクの前に立っていた。
　
菅総理は、津波が起きて被災した地域を上空から視察してきたらしい。
　
そして、彼が今回の東日本大地震についての声明を発表していた。
　
彼は、声明の中で「私は命をかけて・・・」という言葉を使った。
　
「なんだと・・・！？」
　
自分は、総理の言ったこのキーワードが引っ掛かった。
　
命をかけて？
　
一国の総理大臣を誰が命の危険にさらすようなことをさせるだろうか？
　
だとしたら、この総理大臣は、なんでこんな非常事態に場違いなとんちんかんな事を言っているのだろう？
　
この人は『命をかける』という言葉の意味がわかって使っているんだろうか？
　
現場に降り立つことなく空から視察してきただけの人が、なにを思って命をかけてなどと言ったのだろう？
　
彼が見てきた眼下には、着のみ着のままで命からがら高台に逃げてきた
まさに命をかけてたたかっている被災者がたくさんいたはずだ。
　
生まれ育った町を失い、行方不明の家族、津波に消えた財産、飢えや寒さに苦しみ、
国民としての保証や権利を剥奪されてプライバシーもなく、精神的にも体力的にも
限界までがんばってる南三陸町の町民こそ命をかけてたたかっているのだ。
　
それに引き換え、菅総理はどうだろう。
電気、ガス、水がいつでも使える環境にいて、仕立てのよいスーツを身にまとい、
一日三食の食事を当たり前のようにとり、風呂も入れて、ふかふかのベッドで寝てる環境にいる人が
「私は命をかけて」などという言葉を使ってほしくない！
　
被災地の人達にたいして大変失礼だと思う！
あまりにも軽率すぎる発言。売名行為にしかみえない。
この人もまた、この非常事態を非常事態として捉えていないのだろう。
彼にとって対岸の火事でしかないのか？
　
自分がもし、菅総理がコメントを発表している会場に居合わせてたら、逮捕されるの覚悟で、
全国中継されてるカメラの前で、彼をぶっ飛ばしていたと思う。
　
それくらい「命をかけて」という彼のコメントに腹が立った。
　
　
意地悪な言い方かもしれないが、菅総理も命がけをアピールしたいなら、
現地の避難所で被災者と生活を共にし、行方不明者を探したり、ガレキの撤去を手伝ったり、
気絶するまで現地の人達のお役に立てるような動きをするべきだ。
　
べつに自分は、菅総理が嫌いなわけではない。
政治的な思想もなにも持っていない。
どちらかというと自分は政治にはあまり興味ないから、政治に詳しい人がやってくれれば
・・・という感じの人であるが、この菅総理の言葉には腹が立った。
　
毎日、菅総理が言った言葉が忘れられずに腹が立って過ごしていた。
　
「命をかけて」などと有言実行できないことを一国の首相が軽はずみに発言してしまうのはどうなんだろう？
同じ日本国民として、同じ人間として、同じ男として情けないなと思う。
　
自分の中に解消されないモヤモヤしたものがありました。
　
ただ募金箱に義援金を寄付しているような間接的な活動だけではなく、
実際に被災地に出向いて直接現地の人達に役立つことができないだろうかと思っていた。
　
ある日、職場で支援物資を集めて誰かが被災地に持っていく話が持ち上がり、自分はすぐに志願した。
　
行ってみたいという人は社内に数人いたが、そんな危険な地域に行くなんて、奥さんや両親が反対して行けないという人が多かった。　
自分はスパイダーマンやバットマンみたいなヒーローではないし、オレが行ったから何か変えるようなことが出来るとは思えない。
　
でも、なにもせず悶々とした日々を過ごすのはイヤだ。
　
自分も批判しているだけでは、それらしい事を言ってるだけの菅総理とかわりない。
自分はあの人と同じような人にはなりたくない。
オレはなにかカタチになるような動きがしたい。
　
心の奥底にあるモヤモヤしたもの。

そんな感情的な気持ちが抑えられなくなり、

自分の中のモヤモヤしたものを解消すべく、無謀にも現地入りしました。