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みなさん、こんにちは。行楽日和ですね。どこかに出かけられましたか？
こちらは中世ドイツが舞台のミステリーです。


首斬り人の娘
Die Henkerstochter
オリヴァー・ペチュ

　里子に出された孤児達が次々と殺され、肩には文字が。王やら貴族やらは一応いるが、街の自治は参事会会員が決めているドイツ・ショーンガウ。事無かれ主義の会員達は、さっさと魔女と噂のある産婆を拷問して自白させればいい、と予定調和を決めこむが、そこに割って入ったのがクィズル。産婆とも面識があり、魔力などというものを信じない彼は、極めて現代人に近い思考でこの謎に取り組む。

　『首斬り人の娘』とタイトルにもなっており、これに続く3作にも全て『首斬り人の娘』がつけられているが、第一作を見る限りでは、娘は探偵役のメインにはなっていない。学問をよくする彼に倣って、娘のマグダレ―ナも知識があり勇気もありおまけに美形。ヒロインとしての要素は揃っているが、第一作ではまだ考え方も行動も幼い。彼女に惹かれている町医者の息子で医学生のジーモンとの恋愛も含めて、シリーズを通して成長していくキャラクターなののかもしれない。

　その代わりに活躍するのが彼女の父親クィズルである。書籍や実地体験によって、ジーモンの父親より遥かに人体に関する知識を得ていた。そして処刑吏を勤める前には傭兵として戦った経験もあり、腕っ節も強い。知識も腕力もある彼一人で探偵役が出来てしまう。しかしそんな彼も、最初から完成されたキャラクターではなかった。処刑吏の父親が処刑を行う際に、幼少時のクィズルが初めて立ち合うシーンが冒頭に登場する。陰惨な場面を見て取り乱す彼の様子からはとても想像できない。

　魔女や処刑吏としてクィズルや産婆を恐れながらも、彼等がもたらす薬は有難がって飲む。まだ医学が学問として確立される以前であり、街の自治も、実力者の寄り合い所帯がなあなあでやっている。中世の雰囲気がよく出ているミステリーだ。医学と魔術の混在が示すように、中世のキーワードの一つとされる“混沌”としたイメージが、公明正大に振る舞おうとする若き富豪の御曹司や、街の上役にすり寄ることで利益を得ようとする昔ながらの考えを持つ人々がぶつかりあう街、両者の間に波風立てずに事をおさめようとする実質的な支配者ら人間群像を描くことによって、うまく表現されている。
職業や性別による制約がある中世を舞台に、医学生、処刑吏、処刑吏の娘という“尊敬を勝ち得ることもなく、何ものでもない”者達が、“尊敬を勝ち得、何らかの特権を持つ者”達の悪行にどれだけ踏み込めるかが楽しみである。


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